IBMフェロー、「いまはアーキテクチャ・パターンに興味がある」

2004/10/9

米IBM fellowのグラディ・ブーチ氏

 米IBM fellowのグラディ・ブーチ(Grady Booch)氏が来日した。オブジェクト指向設計手法Booch法の開発者であり、後にOMT法の提唱者ジェームス・ランボー(James Rumbaugh)氏やOOSE法のイバー・ヤコブソン(Ivar Jacobson)氏とともにUML制定の立役者となった人物である。現在ブーチ氏はIBM Fellowとして主に4つのことに取り組んでいる。すなわち「アーキテクチャの構築支援」「Architectural Patternの研究」「Rational Software Groupの戦略策定」「IBMソフトウェア事業の長期的な戦略の策定」である。

 このうち、ブーチ氏が個人的に最も興味を持って取り組んでいるのは、Architectural Patternの研究だろう。「詳細については私のブログを読んでいただきたいのだが」としながらも、一般的なソフトウェアの構造(Architecture)を100の基本要素に分解可能だとする論文をさまざまな場所に発表しているそうだ。いまはそのうち、15の基本要素について詳細な研究を行っている。「例えば、米アドビシステムズのPhotoshopのアーキテクチャを解析したり」。

 ソフトウェアの構造を解析し、(ソフトウェアを)構成する基本要素を抽出するという研究が注目を浴び始めたのは最近10年くらいのことである。ソフトウェアに建築との類似性を見出し、クリストファー・アレグザンダー(Christopher Alexander)などの建築理論(『パタン・ランゲージ』などの著書に詳しい)をソフトウェア開発に応用し始めたのもつい最近のことだ。

 ブーチ氏の研究ももちろんアレグザンダーらの研究成果を踏まえたものであり、ソフトウェアのArchitectural Patternを確立することでソフトウェア開発作業の抽象化を向上させることを狙っている。抽象化を上げるというのは、例えばUMLを導入することで、要件をモデリング言語で表現してしまうということも含むが、ブーチ氏が目指すのはさらに高次元の成果である。日本国内でも社団法人 情報処理学会 ソフトウェア工学研究会がArchitectural Patternに関する研究を行っている。

 ブーチ氏はRational Software Groupの事業戦略を策定するメンバーでもあり、彼のArchitectural Patternに関する研究成果がRational Software Groupのツールに具体的な機能として反映されたり、あるいはコンサルティングサービスに盛り込まれたりする可能性は非常に高い。そしてこのことは、IBMのソフトウェア事業の方向性が「マイクロソフトのようにアプリケーションソフトウェアを開発して販売していくという方向に向かうのではなく」(ブーチ氏)、サードベンダに(ミドルウェアを含む)開発基盤を提供することでアプリケーションを開発してもらい、IBMはサービスビジネスをさらに拡大させていくことに向いていることを明らかに示している。

 というのもブーチ氏は7月に米国で行われた「Rational Software User Development Conference」の基調講演で話したように「OSはさらに汎用化が進み、オープンソース化し、さまざまな機器に組み込まれていくだろう。ミドルウェアも同様だ。ネットワークこそがコンピュータそのものになる」といった大胆な予測でソフトウェア開発の未来を見ており、IBMのソフトウェア事業もそのような未来に適合するあり方をいまのうちに模索し始めなければいけない、と考えているからだ。

(編集局 谷古宇浩司)

[関連リンク]
日本IBM
グラディ・ブーチ氏のBlog

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