松下とメタデータと映像編集との関係は?

2005/2/15

 メタデータと聞くと、セマンティックWebなどインターネットの世界での取り組みが思い出されるが、コンテンツ側も注目している。映像制作の立場から、戦略的にメタデータを活用しようと、その可能性を追求しているのが松下電器産業の子会社、パナソニック デジタルネットワークサーブ(PDN)だ。

 同社は2月8日、フランス・パリで開催された「日仏デジタルメディア交流会議」にて、開発中のメタデータを利用した映像編集システム「ME-TIP」をデモンストレーションし、映像分野におけるメタデータの活用とそのメリットについて説明した。

 Multi Engineering Total Information Processorの略であるME-TIPは、メタデータを用いた動画のインデックス化を半自動で行うツールである。映像制作の世界では、撮影した画像を切り貼りする編集作業が必ず発生するが、1つのシーンとして切り取ったものにメタデータ情報を付与することにより、編集作業が画期的に効率化されるという。

 映像における情報として、タイムコード、著作権情報、撮影者、登場人物、撮影地などがあるが、中でもタイムコードと著作権情報は重要だ。ME-TIPはこれらの情報をメタデータとしてシーンごとに付与するツールで、検出ツールを用いた画像によるインデックス化、および音声認識エンジンを用いた音声によるインデックス化が可能。デモでは、パリの街を撮影したシーンを流しながら、「パリ」「アンバリッド」「アレキサンドル3世橋」などのキーワードを音声で読み上げると、メタデータとして入力された。

パナソニック デジタルネットワークサーブ 開発グループ プロデューサー 酒井啓行氏

 「映像の場合、テープを最初から見てみなければ内容が分からないという面倒くささがある。メタデータを用いてインデックス化すれば、時間やシーンに応じた検索や選択が可能となる」と説明するのはPDN 開発グループ プロデューサーの酒井啓行氏だ。

 さらに分類が終了した映像にQRコードでラベルを張ることも可能。デモでは、ブラザー工業の印刷ツールを用いて、その場でデータをQRコードに変換、ラベルを印刷して見せた。

 映像の世界のデジタル化は次第に進んでおり、デジタルでの撮影やノンリニア編集が用いられはじめている。だが、このような部分的なデジタル化は逆に負荷をもたらす。アーカイブ時に発生する書類の作成や管理など、追加作業が生じているからだ。「ワークフローをデジタル時代にあわせなければ意味がないと感じた」と酒井氏、そこでメタデータによる管理に目を着け、ME-TIPプロジェクトに発展したという。撮影時に同時進行でシーンやNGかOKかなどの情報を同時にメタデータ化することにより、管理が効率化される。また、携帯端末やWebなど、さまざまなチャネルに対する制作・配信もほぼ自動化される。「ワンソース、マルチユース実現につながる」と酒井氏。

 ME-TIPは制作側のツールとなるが、PDNではBtoCでも取り組みを進めている。昨年夏の高校野球では同システムを利用して、視聴者が好みに応じて再生できるWeb連動プログラムを準決勝と決勝の3試合で試験展開。打者名や“ヒット”などのキーワードを入力し、好きな場面のみを視聴できるようにした。これまでの“書き出して入力”の作業では試合終了後3〜5時間経過してからのアップとなったが、同システムにより試合終了後わずか5分でWebプログラムを提供できたという。

 今後の課題は辞書。セマンティックWebでも指摘されているが、情報をどう受け取るかは主観的だ。映像の場合、同じシーンを見て出演者で分類する人もいるがロケーションで分類する人もいるだろう。だが、酒井氏によると、分野を絞った専門辞書である程度は解決されそうだという。「スポーツ」「ドキュメンタリー」などのジャンル、登場人物、時間など、付与するキーワードにある種の“枠組み”を与えることで、汎用性を持たせられるからだ。

 また、視聴者が自分のHDDに格納したコンテンツにメタデータを付けるとどうなるのかも課題だ。放送番組の場合、CMを飛ばすといったプログラミングをされるとどうなるだろうか。2004年夏の甲子園の試験運用時はCMを最初に表示したというが、まだ理想形は見えていないというのが現状のようだ。

 ME-TIPの完成は早くて年内の予定、そのほか、一般ユーザー向けの簡易版も考慮している。個人でも映像を編集する時代だ。個人で所有する結婚式のビデオや子供の成長を記録したビデオなどの編集をメタデータを使って行い、配布DVD用に30分版、携帯端末に配信する15秒のハイライト版などをキーワードを使って作成できる。また、BtoCでも、円谷プロダクションとの共同プロジェクトなど、いくつか検討中のものがあるという。

(末岡洋子)

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パナソニック デジタル ネットワークサーブ

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