@IT/ITmedia両編集長が予測「2006年 IT業界はこうなる」
2006/1/6
新技術、新製品の発表をはじめ、大規模なシステム障害、企業買収、法整備の進展などさまざまなことがあった2005年のIT業界。2006年も混迷が予想される。@IT編集長の新野淳一とITmedia エンタープライズの編集長、浅井英二が2005年を振り返り、2006年を展望した。
新野 2005年、セキュリティ関連ではトレンドマイクロの障害発生が大きかったですね。ウイルス対策ソフトウェアのオートアップデートの脆弱性はみんなが薄々は感じていたが、それが露呈しました。
浅井 実効性を求めて、ボタンを押すことなくアップデートするようにしたがそれが裏目に出た。しかし、2006年はインテルの「インテル バーチャライゼーション・テクノロジ」(VT)、「インテル アクティブ・マネジメント・テクノロジ」(AMT)などクライアントの仮想化環境が整ってきます。クライアント内に仮想化環境を作って管理性を向上させる仕組みで、アップデートの安全性にも光が当たってくると見ています。
@IT編集長の新野淳一 |
新野 Windowsもオートアップデートをしていますが、仮想化環境やAPIの整備で、今後はあまりアクロバティックなことはせずにアップデートできるようになるかもしれません。
浅井 根本的にはきちんとしたテストが重要なのはもちろん、障害が起きても別のシステムに延焼しないような「防火壁」的な仕組みが大切になってくる。
新野 セキュリティ関連でほかに挙げるなら、人間をだまして情報を盗み取るソーシャル的な手法が増えてきました。特定の企業だけを狙い撃ちするコンピュータ・ウイルスの出現も今後は考えられる。特定の企業だけが狙われるとウイルス対策ベンダは対応できません。2006年の大きな課題ですね。
浅井 米国では悪意を持つ人が金融機関のトップに電子メールを送って、ソーシャルな手法で重要なIDやパスワードを盗み取る事件が起きています。トップをだませば何でもできてしまう。
新野 1人がだまされてセキュリティが突破されても、その後でブロックできるような仕組みがシステムに必要ですね。
■個人情報保護法で進むシステム統合
新野 個人情報保護法の完全施行で2005年は企業が対応が大変でした。
浅井 日本の個人情報保護法は米国の規制に比べると厳しすぎるともいわれる。米国ではリスクを理解している人に対しては保護の対象にしない傾向があります。日本では、個人情報はまったく使ってはいけないという議論が先にきているのが気になります。企業は今後、エンドユーザーに近いところでサービスを提供することが求められる。顧客の利益になるなら個人情報も活用されるべきだと思います。
新野 日本の場合はこれまでが自由すぎたので、その反動が出ているのでしょう。盛り上がった割りには、IT業界全体では期待したほどは大きなビジネスになっていないのではないか。
ITmedia エンタープライズの編集長 浅井英二 |
浅井 個人情報を守るためにはシステムの統合が不可欠。データが自社のどこにあって、どのように鍵をかけて、どのように運用するかというポリシーが必要といえる。そのためにはシステム統合が重要になる。個人情報保護法のインパクトはシステム統合を促した点もあります。
新野 米ガートナーのアナリストによると、内部統制の整備を企業に求める企業改革法(SOX法)に対応するとITへの依存度が高まるといいます。
浅井 特に日本版SOX法ではITでの対応が求められる。その意味で、米国のSOX法よりもITへのインパクトが大きいのは間違いない。もはやITシステムの支援がないとどうしようもない。ERPがない企業は立ち行かなくなることも考えられます。
■OpenOffice.org 2.0登場の衝撃
新野 2005年のOpenOffice.org 2.0の登場はエポックメイキングでした。2.0になって普通の人にも勧められるほど完成度が上がった。これまでオープンソースソフトウェアはOSやアプリケーションサーバなど技術者だけが利用するソフトウェアが多かったが、オフィスソフトウェアのような一般ユーザーが利用する製品がOSSで出てきたのはインパクトが大きい。
一般ユーザーの生産性ツールとしてはOSSですでにWebブラウザと電子メールクライアントがあり、OpenOffice.org 2.0の登場で主要なソフトウェアがそろってしまった。これからのことを考えると、2005年はターニングポイントの年だったといえると思います。
浅井 デベロッパ関連の製品はOSSもしくは無償ということが定着しました。オフィスソフトウェアの分野でマイクロソフトのカウンターとなる企業が少なくなる中で、健全な動きといえるでしょう。無償になることで敷居が低くなり、使う人が増えると思います。
新野 OSS関連の動きで注目したいのはサン・マイクロシステムズです。サンは2005年、多くのソフトウェア製品をOSS化しました。サンCEOのスコット・マクネリ(Scott McNealy)だったらできなかったかもしれないが、社長のジョナサン・シュワルツ(Jonathan Schwartz)が決断した。サンのソフトウェア事業はあまり儲かっていなかったので、逆に言えばOSS化はサンのソフトウェア事業のリストラとも考えられます。
浅井 ただ、OSSと無償化を混合して語られないようにしないといけない。雪崩を打ったような一連のOSS化は、開発を外部のリソースに期待することが狙いのように思えます。知的財産をてこにしたビジネスは転機を迎えているのではないでしょうか。
■レイ・オジー率いるMSの動向に注目
浅井 テクノロジのレイヤを下から見ると、2006年はプロセッサのデュアル/マルチコアがさらに進むと見ています。周波数の競争ではなく、1つのダイの上に複数のコアが乗り、仮想化技術を駆使してプロセッサをフルに活用できるようになる。メインフレームのような高度な仮想化が可能になり、基幹系システムを含めたシステム統合が実現するのではないか。
新野 仮想化は2006年の大きなキーワードですね。仮想化技術が、プラットフォーム、インフラ、OSなどで進展し、うまく組み合ってくる。
OSやアプリケーションのレイヤでは2006年は大きな変化はないようですね。
浅井 そもそもシステムがOSに求めることが少なくなってきています。OSの進歩の速度が昔ほど求められず、それよりも安定性やリソース管理、セキュリティなど本来のOSの役割が期待されている。
新野 OSとミドルウェアの役割分担が進んでいますね。一例を挙げるとマイクロソフトの.NET FrameworkとWindows OSの進化速度の違いが挙げられるでしょう。
アプリケーションでは、新しいカテゴリとしてRSSリーダーが登場したのが面白い。2006年はさらにカレンダリングなども新しいアプリケーションのカテゴリとして生まれるのではないでしょうか。また、PtoPも興味深い。典型はSkype。運用コストをほとんど誰も負担していないサービスというのは驚異的です。
OSSとは別の次元でサービスの無料化が進んでいるといえるでしょう。一種の価格破壊ですが、ベースは新しいビジネスモデルではなく、新しい技術。そこに大きな可能性があると見ています。PtoPのGroove Networksを設立したレイ・オジー(Ray Ozzie)がマイクロソフトに移り、Windows Liveなどのサービスを開発している。2006年はマイクロソフトから面白い動きが出てくるかもしれません。
浅井 2006年は企業のIT投資が上向いてくる。2000年問題に対応するために行ったシステム投資を最後に企業はこらえにこらえてきたが、ついにこらえ切れなくなる。企業はIT基盤を見直して、エンドユーザーとの距離を縮めるITシステムに投資をしてくるでしょう。
(構成:@IT 垣内郁栄)
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@IT NewsInsight
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