プログラム誕生25周年記念で講演

sendmailの生みの親が「皆メールを使い過ぎ」

2006/11/21

 「sendmail」プログラムを書き、その後も同プログラムにかかわり続けてきた米センドメールのCSO(Chief Science Officer)、エリック・オールマン(Eric Allman)氏がsendmail誕生25周年を記念して都内で講演、同プログラム誕生の経緯を話した。

sendmail01.jpg sendmail開発者のエリック・オールマン氏

 オールマン氏が「家に近く、授業料が安く、入学試験で外国語が要らなかった」という理由でカリフォルニア大学バークレー校に入学したのは1973年。当時はインターネットの前身であるARPANETが急速な成長を始めており、1971年には2つのホスト間で最初の電子メールがやりとりされていた。同校は、その後サン・マイクロシステムズの創設に参画したビル・ジョイ氏やエリック・シュミット氏、アップルコンピュータをつくったスティーブ・ジョブズ氏など、多くの才能が集う黄金時代を迎えていた。

 バークレー校でリレーショナルデータベースシステム(「INGRES」)開発プロジェクトの一員として活動していたオールマン氏は、システム管理者も兼務。同プロジェクトの関係でバークレー校はARPANETへ接続したが、プロジェクトのスタッフが必要としていたのはFTPやtelnetではなく、電子メールだったという。そこでオールマン氏は「Delivermail」という小さなプログラムを開発、1980年の10月にはこれが4.0 BSDに取り込まれ、人気を博す。その後1981年10月にはビル・ジョイ氏の勧めがきっかけでSMTPを実装したメールプログラム「sendmail」を書き始めたのだという。

sendmail02.jpg ネクタイをした大学時代のスティーブ・ジョブズ氏(左)とオールマン氏

 sendmailが4.1a BSDとともに提供開始されたのは1982年4月。IETFによるSMTP(RFC821、822)の標準化が終わったのは、それより後の1982年8月だったという。翌年1月1日には、正式にARPANETがインターネットとして生まれ変わった。

 その後同氏がデータベース企業の立ち上げに参画するなどでsendmailとのかかわりが薄れている間に、世界中でさまざまなバージョンのsendmailが出現し、収拾のつかない状態になった。オールマン氏がこれらを統合すべく書いたのが1993年6月に提供開始のsendmail 8。その後しばらくは協力者を得て分担でサポートを行っていたが、企業形態を採るのが最善と判断し、米センドメール創設に至ったという。

 オールマン氏は、「sendmail.cfの設定が複雑過ぎるのではないか」との問いに対し、「仕様の変更に柔軟に対応するためには、設定ファイルの形で外出しするしかなかった。16ビットのPDP-11上で作っていたための限界もあった。ある日cfファイルをプリントアウトしてみると数枚になり、これは直すべきだと思ったが、当時すでに20以上のMTAが立ち上がっていたため修正をあきらめた。それ以来後悔している」と答えた。しかしpostfixとの比較では、「postfixは一部の問題を解決しようとしたもの。sendmailは柔軟性が高く、多くの機能を持っている。柔軟なプログラムはどうしても設定しにくくなってしまう」とも話した。

 1994年4月に2人の弁護士が確信犯的に送信したスパムメール(「Green Card Spam」)をきっかけに、メールの世界が商業的な方向へ大きく転換したと考えるオールマン氏は、「スパムメールがなくなることはあり得ない」という。しかし、送信元を確認する仕組みが普及することで、問題の一部を解決することはできると強調する。

 オールマン氏は送信元ドメイン認証仕様DKIMの主な起草者でもある。DKIMは一時期ベンダ間の対立によって分裂していたドメイン認証技術を1本化して作り上げた統一仕様。「それまでの米国の企業は、自分の技術を使わせて金を取ることばかり考えていた。しかしここでは互いに協力しなければ誰もが支持を失うと考えることができた。これは大きな変化だった」(オールマン氏)。

 スパムメール以外にも、多くの人々が膨大なメールを日夜やりとりしなければならない状況に陥っている。これについてオールマン氏は「人々は電子メールを使い過ぎだ。電話や会話で済む場合にもメールを使っている人が多い。人々をつなげるこの偉大な技術が生まれるのを助けた人間として、もっとフェイス・トゥ・フェイスの会話をすることをお奨めする。自分が人間なんだということを再確認するのもいいものだ」と話した。

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(@IT 三木泉)

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