業界再編の渦中で2000万ステップを3年で構築

国内2位の鉄鋼グループ、業務システム統合の成功例

2006/12/01

jsmile02.jpg 経営統合にともなって両社のシステムも統合(クリックで拡大)

 「2社で異なる用語の意味内容にまで踏み込んで用語を正規化し、最適化した」。2つの業務システムの統合に当たり、徹底したデータベース統合から手をつけ、業務プロセスの検討から始めなかったことが比較的短時間で大規模レガシーシステムの統合に成功した要因――。ガートナージャパンが開催中の「Symposium/ITxpo 2006」のゲスト・インタビューで鉄鋼業界2強の一角、JFEグループのシステム主幹 菊川裕幸氏が語った。

 2000年、バブル崩壊後の不況にあえぐ鉄鋼業界を“ゴーン・ショック”が襲う。日産自動車は鋼材調達先の絞り込みと値下げ要求を行った。危機感を募らせた鉄鋼業界は、経営統合や資本提携により、経営の効率化と値下げ圧力に対抗。新日本製鉄系のグループと、旧日本鋼管(以下、NKK)と川崎製鉄が合併してできたJFEグループの2大グループへと再編されつつある。

 現在、鉄鋼業界は中国特需で好調な売り上げを維持しているが、好調の背後には経営統合による効率化があったことも見逃せない。JFEグループは2002年6月に経営統合に合意し、2003年4月には5つの事業会社を設立し、統合を果たす。そこから3年と300億円弱という膨大なコストをかけて、2000万ステップのシステムを導入したという。

1980年代に導入されたレガシーシステムでITの恩恵を受けられず

jsmile01.jpg JFEスチール システム主幹 菊川裕幸氏

 経営統合は人的リソースや組織の面でもドラスティックだったと評価が高いが、ITインフラについても単なる統合にとどまらず、抜本的に刷新された。

 菊川氏によれば、1980年代に構築された業務システムは、過去20年で個別システムをアドオンしていく間に、7倍の規模に肥大化していたという。問題は、システムがブラックボックス化してメンテナンスコストがかさむということだけではなかった。

 鉄鋼製品は使用目的によって属性が細分化されており、総計すると3000項目にも及ぶデータ属性が存在する。そうしたデータが含まれる受注データは属人的であったために、システム上に氾濫し、生産計画や新商品開発のニーズをつかむといった活用ができなかったという。陳腐化したシステムで、ITの恩恵を受けられないままだった。

生産スケジュール効率化と平準化も達成

jsmile03.jpg システム統合により、受注からミル(生産ライン)まで一貫して管理。統合し効率も高めた(クリックで拡大)

 新たに開発したシステム「J-Smile(JFE Strategic Modernizing & Innovation LEading system)」は、旧NKKと旧川崎製鉄が持つ4つの生産ラインと2つの業務システムを統合したものだ。

 製鉄で、高炉から溶岩のように流れ出す超高温の素材を、最大1万トンという単位で圧延、加工するプロセスは、毎日耐久テストをしているようなものだという。“ミル”と呼ばれるこの生産ラインは、個々に生産能力や特性が異なるため、受注データベースやシミュレーションを用いた生産管理が求められる。

 今回構築したJ-Smileでは、それまで週次ベースだったミルの稼働予定を日次化。スケジューリングの効率化と、ミル稼働率の平準化を果たしたという。

 ドラスティックな変更のため利用者の教育にも力を入れている。これまで2年で、延べ1000講座で1万人にシステムの使い方を教育。実際に外部向けのWebシステムの利用者となる発注元の商社担当者には工場見学の機会を設けるなど、社内外のシステム利用者の啓蒙を進めてきた。

データ統合先決で早期にシステムを実現

 システム統合に当たっては、データベース設計から始めるアプローチをとったという。ただ、同業種であるにもかかわらず用語に微妙な違いがあったため、製品ラインナップの統合と同時に用語の統一を徹底して行ったという。用語は、その意味内容にまで踏み込んで議論をし正規化。こうしたアプローチが奏功し、比較的短期間でシステムを統合。菊川氏は「業務プロセスからシステム設計を始めていたら、もっと時間がかかった」と述べる。

 データベース設計においては、各業務プロセスを抽象化する概念データモデルを用いた。これにより、システムの構成変更に柔軟性を持たせるというだけでなく、「エンジニアと業務の人間が話せる共通の基盤ができた」(同氏)こともメリットだった。ITとビジネスの双方に精通した人間がいなかったが、概念データモデルで両者の言葉をつないだ、という。

(@IT 西村賢)

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