ソフト開発への今後の影響を分析
「Winny裁判」で有罪判決、自由なソフト開発はもうできない?
2006/12/13
ファイル共有ソフトウェア「Winny」を開発し、ゲームソフトや映画コンテンツをネット上に無許可で送信させることを助けたとして、Winnyの開発者が著作権法違反(公衆送信権の侵害)のほう助罪を問われた、いわゆる「Winny裁判」の一審判決が12月13日、京都地裁であった。裁判長は元東大大学院助手 金子勇被告に対して罰金150万円(求刑懲役1年)の有罪判決をいい渡した。金子氏は控訴する方針。
公判で被告側は技術的な検証を行っただけで、著作権侵害を助ける意図はなかったとして無罪を主張。検察側は著作権侵害を助長する目的でWinnyを開発したと訴えていた。
著作権法の解釈以外にも、Winny裁判はソフトウェアを開発する技術者が、その影響範囲をどこまで認識する必要があるのかが議論になった。被告側は、Winnyを使って著作権を侵害するコンテンツをやりとりするのは当初、想定していなかったとして無罪を主張してきた。だが、一審では有罪となった。法的リスクを恐れてソフトウェア開発者が萎縮することも指摘されている。
新たなアイデアの登場を妨げる
ソフトウェア開発に詳しいイグナイト・ジャパンのジェネラル・パートナー 酒井裕司氏は、判決を「大変遺憾」としたうえで、「元来リスクを避ける日本社会において、過去に事例が存在しないようなシステムの開発/オープンソースとしての公開に際してストップがかかっていくことは必至であり、新しいアイディアの登場を妨げかねないものになるだろう」と指摘する。特に「単機能として尖った研究をしなければならない大学、政府系開発補助、また、優れた個人においてテーマの萎縮が起きることが心配」という。
情報セキュリティが専門の東京電機大学 教授 佐々木良一氏も「予想以上に、技術者を萎縮させると心配している。ただでさえ劣勢の日本のソフトウェア産業の競争力がさらに弱まる心配がある」とコメントする。
研究者としてソフトウェアを開発している科学技術振興機構の研究員 阿部洋丈氏も「ソフトウェアの公開が萎縮する恐れがある」と語る。そのうえで今後の開発では、「ソフトウェア公開者は、自分のソフトウェアに違法行為を助長する恐れがあることを認識したならば、何らかの有効な対策をとることを強いられる」と説明する。
開発者にとって新たなリスクの出現
ただ、開発中のソフトウェアがどのように利用されるかをすべてリストアップするのは、ほぼ不可能。例えば、標準的な会計機能を備えたERPソフトウェアが違法取引に使われた場合、そのERPソフトウェアの開発者が、ほう助の罪を問われるのか、という議論になる。阿部氏は「どのような対策を取れば十分なのか、基準はまだ明らかにはなっていない。もし、そのような責任を負うリスクがあるとなると、現在のように気軽にインターネットでソフトウェアを公開することは難しくなるのではないか」と語り、Webをベースにしたライトウェイトなソフトウェア開発が停滞する危険を指摘する。
対して、酒井氏は判決を「PtoP/Webなど本質的に、コンテンツの公開と共有を前提としたシステムにおいて、その使われ方においてプライバシー、著作権侵害など従来とは異なるセキュリティリスクに関する設計段階での考慮を求めるきっかけにはなるだろう」と見る。著作権法の解釈はさておき、ソフトウェア開発者にとってはリスクの1つが明らかになったとの認識だ。
酒井氏は「プロバイダー責任制限法など、法的責任を限定するためのクレーム対処プロセスが整備され明確に定義されつつある。(ソフトウェア開発では)少なくとも管理的な仕組みをアクティベートできる設計を考慮する必要があるだろう」と語り、今後のソフトウェア開発への影響を予測する。
さらにソフトウェア開発の新しいリスクに対応するため、「今後の開発者は、単機能の提供にとどまらず、提供された機能の使われ方とそのトラッキング、つまり、システムマネジメント的な発想に対する理解がより必要とされるようになるだろう」として、「これはあらたなビジネスチャンスでもある」とする。
リスク対策のガイドラインが必要か
阿部氏はソフトウェア開発を行う際のガイドラインが必要と訴える。「現状では、一度公開したソフトウェアが悪用されていることを認識した場合、どのような対策を行っていれば、ほう助犯にならないのかという基準が明らかになっていない」としたうえで、「今後は、自由なソフトウェア公開をできるだけ妨げない形で、ほう助犯とならないために必要な対策のガイドラインを設けることが重要」とする。
佐々木氏は「技術者倫理、情報倫理を意識して研究開発を行うことは必要だが、必要以上に萎縮しないことが大切。リスクを背負っても新しいことをやる姿勢が(技術者には)必要だ」と話す。ただ、リスクにも度合いがある。ソフトウェア開発で有罪というリスクは、個人にとってあまりにも過酷だ。
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