アジャイルプロセス協議会セミナー

どうしたら日本のソフトづくりは強くなれるか?

2006/12/19

 ソフトウェア開発の効率性を考える時、よく引き合いに出されるのが「トヨタ生産方式」(TPS)である。1990年代、米国の製造業界はTPSを参考に、「リーン方式」「アジャイル方式」という管理手法を編み出し、日本に逆輸出した。現在のソフトウェア業界で話題にされるアジャイルなソフトウェア開発という考え方は、製造業における作業効率化のプロセスをソフトウェア開発に応用したものと考えられる。しかし、名古屋工業大学テクノイノベーションセンタ客員教授(トヨタ社友)の黒岩恵氏は、そんなソフトウェア業界に懐疑の目を向ける。

黒岩恵氏 12月19日に開催されたアジャイルプロセス協議会セミナーで「トヨタ生産方式におけるものづくりとソフトづくり」という講演を行う黒岩恵氏

 批判の核心は、ソフトウェアの製作工程における過度の分業化と、それに付随する人月見積もりである。日本のソフトウェア業界は、特に人月見積もりについては、現場から不満の声が上がっているのは確かだが、いまだに見積もりの尺度として活用されているのは事実だ。黒岩氏はそれを米自動車産業の「フォード方式」と同様の生産方式であるとする。前述のように米国では、フォード方式からリーン方式への脱皮を図る動きがあった。少し後で、ソフトウェア業界も同様の動きをする。

 黒岩氏によると、トヨタ生産方式の核心は、「人にやさしい生産システム」であるということだ。「まずは仕組み改善、機械化(ITも同じ)は最後」というのがTPSの教えであるとする。機械重視の欧米文化が生み出した開発生産性向上のためのプロセスが、ツールを中心とした現在のソフトウェア開発プロセスであると黒岩氏はいう。米国でパッケージソフトの開発が活発になり、世界のIT市場を制したのは、まさに機械重視の文化によるものだが、一方でユーザーの要求に合わせたきめ細やかなプログラム対応では日本は世界一の技術を持つ。しかし、結果的に日本のソフトウェア企業は米国産のパッケージに駆逐された格好になった。

 トヨタは1990年代初頭のバブル崩壊後、トヨタ生産方式の原点に立ち返り、人中心のライン構築を行った。日本のソフトウェア業界は、いわば、トヨタとまったく逆の道を選択したともいえる。つまり、米国のパッケージソフトウェアに市場を席巻されたことで、米国のソフトウェア開発方式をそのまま受け入れ、彼らと同等の道を歩もうとしている、ということだ。

 どうしたら日本のソフトづくりは強くなれるか? 黒岩氏のアドバイスは明快である。こまかなPDCAのマネジメントサイクルを作り出すこと。ここでいうマネジメントとは、統制や管理ではなく、改善への支援という緩やかなものだ。その結果生み出される明るい職場が、生産性向上に果たす役割は大きい。システム作りは顧客との共同作業である、という考えは、一般に「トヨタの大部屋活動」を応用したものだ。人月稼業からの脱皮や、ソフトウェアアーキテクチャ(フレームワークとクラスライブラリといったソフトの資産化)も積極的に採用することだ。

(@IT 谷古宇浩司)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)