諸問題はあるけれど……

2006年「YouTube」が愛された理由

2007/01/05

 「悔しい……」。2006年10月に開催された米オラクルの大規模イベント「Oracle OpenWorld」で、米デルの会長 マイケル・デル(Michael S.Dell)氏が基調講演を行った。記者は別の取材があり、講演を聞くことはできなかったが、講演でIT業界の重鎮が登場するアニメが流されたと出席したほかの記者から聞き、猛烈に悔しくなった。海外のイベントで流されることが多いこれらのアニメはIT業界のトピックスを取り上げ、デフォルメされた重鎮たち(のキャラクター)が大騒ぎする内容。競合する企業を中心とした比喩や皮肉、ジョークがとても楽しい。

デルのアニメをYouTubeで発見

 デル氏の講演はさておき、アニメだけは見てみたかった。記者はホテルに戻り、「Youtube」にアクセスした。検索ボックスに「dell oracle anime」などと検索キーワードを入力するとあっさりと目的の映像が見つかった。この映像はデル自身が投稿しているようで、リンクをたどるとデル氏の講演などもアップロードされている。YouTubeって面白いなと記者はあらためて思った。

ユーザー増が面白いコンテンツ生む

 2006年に急成長し、米グーグルに16億5000万ドルで買収されるという最高の“出口”を見たYouTube。支持を集めた最大の理由は、投稿されているコンテンツの面白さだろう。国内では2005年末から注目を集め、ネットレイティングスによると2006年3月の日本からの訪問者数は212万人。訪問者の利用頻度や利用時間は米国ユーザーを上回ったという。2006年7月には「極楽とんぼ」問題関連の映像が数多くYouTubeに投稿され、完全にブレークした。面白いコンテンツが日本からのユーザー数増加につながり、そのユーザーがさらにコンテンツを投稿するという相乗効果が出ている。

 YouTubeが人気を集める背景には、ユーザーをコンテンツに確実にアクセスさせるための仕掛けがある。1つはWebサイトやブログ上で簡単に再生できるFlash Video形式の動画を採用していることだ。Flash PlayerはほとんどのPCにインストールされていて、Flash Videoを再生するのに新たなアプリケーションをインストールする必要はない。思い立ったときにすぐに映像を見られるという敷居の低さがユーザーの増加に寄与している。

“口コミ”でユーザー呼び込む仕掛け

 もう1つは“口コミ”をユーザー誘導にうまく利用していることだろう。映像ごとにコメントやタグを付けることが可能。加えて映像ページの「Embed」タグをブログのエントリなどに貼り付けるだけで、ブログ上で映像を表示させることができる。自分が気に入った映像をブログで簡単に紹介でき、人気が口コミで広がりやすい。「はてなダイアリー」のようにブログ上で映像を紹介するためのタグを用意しているサービスもある。YouTubeは開発者向けにWebサイトなどで映像を利用できるAPIを公開し、異なるサービスを組み合わせるマッシュアップを推奨している。

 YouTubeを語るうえで避けられないのは著作権問題だ。実際、2006年に国内で話題になったYouTubeの映像コンテンツの多くはテレビ番組などのキャプチャで、著作権を侵害したコンテンツだった。国内テレビ局などはYouTubeを問題視。著作権を侵害している映像を削除するよう何度も要請している。民放テレビ局やNHK、日本音楽著作権協会(JASRAC)など23団体は10月20日、各団体が著作権を持つコンテンツをYouTubeが削除したと発表した。削除されたコンテンツは約3万に及ぶ。また、同じ23団体は12月に著作権を侵害するコンテンツの公開を防ぐための具体策を採るよう求める書面をYouTubeに送付。YouTubeは要請を受け入れると回答した。

国内テレビ局も番組を投稿

 国内では著作権問題をクリアしたうえでYouTubeのビジネス展開が本格化するとみられるが、米国ではすでにYouTubeを使ったビジネス展開が始まっている。YouTubeはCBS、SONY BMG、UMG、Warner Musicとそれぞれ提携。各社の映像コンテンツをYouTubeで配信する。膨大なユーザーが訪れ、口コミで人気が広がるYouTubeを評価した提携だ。ナイキなどYouTubeで映像コンテンツを配信し、話題を呼ぶ企業も出ている。国内でも東京のローカルテレビ局、東京メトロポリタンテレビジョンが情報番組「BlogTV」のコンテンツをYouTubeと「Google Video」「Revver」などに投稿している。

 著作権侵害の場になるというリスクが何らかの形で排除されれば、広告やプロモーションで日本企業がYouTubeを使うケースも増えてくるのではないか。豊富な資金と技術力を持つグーグル傘下になったことでYouTubeが今後どう進むのか。注目している企業や開発者は多い。

関連リンク

(@IT 垣内郁栄)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)