【インタビュー】サン・マイクロシステムズ ジェームズ・ゲートリー氏

サンの知られざる社内専用グリッド“Ranch”

2007/01/24

 サン・マイクロシステムズのグリッド・コンピューティングと言って真っ先に思いつくのは、1CPU、1時間当たりの利用料が1ドルで、必要なだけプロセッサパワーを利用できる「Sun Grid」だろう。サンが用意するグリッドと呼ばれるサーバ群に対してユーザーがアプリケーションをアップロード。多くの計算パワーを必要とするアプリケーションをグリッド上で実行し、ユーザーは結果だけを手にするというサービスだ。

 一方、2006年3月に同サービスが開始されるずっと以前の1990年から、サンは社内的に専用グリッドシステム“Ranch”(ランチ)を設計・運用していることは、あまり広く知られていない。Ranchの運用を担当するサン・マイクロシステムズ スケーラブル システムズ グループのジェームズ・ゲートリー氏に話を聞いた。

社内に5〜10人のヘビーユーザー

ranch01.jpg サン・マイクロシステムズ スケーラブル システムズ グループ コンピュート リソース担当 シニア ディレクター ジェームズ・ゲートリー氏(James Gateley)

――Ranchの概要について教えてください。

ゲートリー氏 Ranchは米国のサニーベール、オースチン、バーリントンの3カ所で運用されているグリッド・コンピュータです。3カ所で提供される処理能力を1CPU当たり900MHzとして計算すると、約1万3900個のCPUで構成されることになります。

 サン社内のエンジニアは、必要に応じてRanchを使います。Webブラウジングやメールの読み書きといった日常業務や、インタラクティブなアプリケーションでも使いますが、主な用途はバッチ処理的なシミュレーション計算です。1995年にリリースされたUltraSPARC I以来、すべてのプロセッサの設計をRanch上で行っています。先週正式発表した16コア搭載の「Rock」も、Ranch上で設計しました。

ranch02.png 1998年から2006年までの処理能力の変遷

――3カ所で運用されるRanchは、それぞれ用途やユーザーが異なるものですか?

ゲートリー氏 それぞれの空きキャパシティによって、どのRanchを使うかを決めることはありますが、ソフトウェア的なシステムは同一です。複数のサイトからセキュアな環境で同一のシステムが利用できます。

 現在1.4PBのデータを蓄積しているストレージも3カ所で同期しています。1.4PBの中には、これまでサンが開発してきたプロセッサの設計情報やシミュレーションの分析情報が保存されています。

――ユーザーは明示的にジョブを投入するRanchを決めるのですか?

ゲートリー氏 いえ、実はここにはちょっとした秘密がありまして、本当に計算資源を膨大に使っている“パワー・ユーザー”というのは5〜10人程度しかいないのです。ですから、誰がどのRanchを使うかといったことについては、彼らと話して決めているのです。サンの内部ではエンジニアの約半分がシンクライアントのSun Rayを使っていますが、そうしたユーザーが必要とする計算資源の量は、そう多くありません。

――その一部のパワー・ユーザーは、どのような計算処理を行うのでしょうか。

ゲートリー氏 例えばプロセッサ設計のシミュレーションで50GBのメモリが必要になるような処理があります。そのような膨大なメモリを誰か1人のコンピュータに搭載するのは効率が悪いですから、グリッドというアプローチは極めて有効なのです。

 あるいは、必要とするリソース自体はそう大きくないものの、膨大な数のジョブを処理しないといけないケースというのもあります。一例として、1カ月で19万1523個ものジョブを処理したエンジニアというのも過去にはいました。

――CPUの稼働率が95〜98%と極めて高いですね

ranch03.jpg カリフォルニア・サニーベールにあるRanch

ゲートリー氏 われわれが一般的に使うアプリケーションでは、CPUの利用率が80%前後です。つまり、10個のCPUで10個のアプリケーションを走らせると、2個のCPUが無駄になる計算です。ですから、10個のCPUまたはコアに対して12個のジョブを投入することで稼働率を高くしています。

 具体例で言うと、Sun Fire E4900は12個のCPUを搭載し、48個のコアを持ちますが、ここに常時50〜60個のジョブを投入しています。コアの数より若干多めのジョブを投入します。こうした多プロセッサ、多スレッドの環境をサポートするカギはSolaris 10です。

 人間がインターフェイス部分で関わるようなアプリケーションでは、CPUの利用率は、80%よりはるかに低いですから、そうした用途では1CPUにもっと多くのジョブを割り当てます。これはRanchではありませんが、例えば、サンの社内では4コア、32スレッドが同時実行可能なSun Fire T2000 1台を80〜90人のエンジニアがシンクライアントから使っています。

――システムの外販は検討していないのですか?

ゲートリー氏 グリッドコンピューティングについは、すでにサービスを提供しているSun Gridのほうで行ってまいります。Ranchはあくまでも社内向けということで“1テナント環境”に特化してデザインされています。もし、複数企業でシステムを使うということであれば、よりセキュリティも強化しないければならないでしょう。

 ただ、われわれのシステムに関心を持っていただいている企業は多く、去年、日本からだけでも25の企業から視察の方が来られました。業種で言えば、EDA(Electronic Design Automation)関連、金融関連、通信関連、IT関連です。そうした人々と、われわれがシステム構築で解決した問題や、彼らが直面した問題について互いにお話するのは、とてもエキサイティングなことですね。

(@IT 西村賢/垣内郁栄)

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