ソフトウェア工学の「今」
失敗プロジェクトの削減と要求工学への期待
2007/02/09
NTTデータ 技術開発本部 ソフトウェア工学推進センタは2月9日、「ソフトウェア工学の『今』」と題したセミナーを開催した。話題はソフトウェア工学における3つの軸(=「プロセス」「技術」「人材育成」)について。
ソフトウェア工学とは何か。一言でいうと「ソフトウェア開発の生産技術」(神谷氏)である。より具体的には「ソフトウェアを効率的に設計、開発するための手法に関する学問、もしくはそのための技術」(同)ということになる。その目的は、ソフトウェアの開発効率や生産性、品質の向上である。
目的を達成するためには3つの軸について十分な検討を経なければならない。それが「プロセス」「技術」「人材育成」であると同センタは考えている。
ソフトウェア工学における開発プロセスとは知見の体系である。開発現場で蓄積されたノウハウのよい部分を収集し、体系化したものが開発方法論と呼ばれる。それゆえ、開発企業によって、独自の方法論があるのは当然のことだ。1990年代には、従来型の開発方法論に「こつ」や「定石」といった上級者レベルの知見をパターン化し、方法論に組み込む動きが活発化した。アナリシスパターンなどはこれだ。
現在、開発プロセスの領域で盛んに議論されているのが「超上流」に関することである。顧客の要求を獲得し、定義する作業を同センタはこのように呼ぶ。NTTデータ 技術開発本部 ソフトウェア工学推進センタ センタ長 木谷強氏によると、失敗プロジェクトの多発化の要因として、要求獲得/定義の失敗が担う責任は非常に大きいという。NTTデータでは、MOYA(Model-Oriented Methodology for Your Awareness)という独自の方法論を作成し、組織におけるビジネス活動を的確に表現する試みを行っている。
「超上流」の課題として神谷氏は、ビジネス上の要求を情報システム仕様に円滑につなげる仕組みの構築と、期待するビジネス効果の達成を評価する仕組みの構築の2点を挙げる。
ソフトウェア工学における技術とは主にツールの使用による人的作業の自動化を指す。1980年代頃に普及が進んだCASE(Computer-Aided Software Engineering)がその役割を担っていたが、メインフレームが主流だった時代から技術のオープン化が進み、「特定の開発標準依存」「実装プラットフォーム依存」という2つの性質を持つCASEの利用は衰えた。ただし、現在ではプラットフォームがJ2EEと.NETに集約され、改めてCASEの注目度が高まっている。その流れに乗って、米国の標準化団体OMGが、設計から製造工程の自動化を促進する技術「MDA」(Model Driven Architecture)を推進しているが、その適用効果については、定量的な評価が待たれる状態である。
ソフトウェア工学における人材育成の対象範囲が拡大している。ITが社会インフラで活用されるようになると、ソフトウェアに求められる信頼性はこれまで以上に高レベルとなる。1つの開発プロジェクトに携わる開発者数は増加し、システムの利用範囲も拡大、開発要求を持つ人と開発する人との距離も広がる一方だ。企業との協力体制の下、大学教育において実践的なソフトウェア開発教育の充実が求められており、国(文部科学省など)は中期計画として、ITスペシャリストの育成を推進するプログラムを展開している。
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