スーパーアーキテクト育成講座、第1期生が修了
産業界には科学がない、大学には実践がない
2007/03/27
産業界には実践があるが科学がない、大学には科学はあるが実践がない。ソフトウェア産業界における優秀なアーキテクト不足の問題は、産業界とアカデミックな世界のギャップにある。アカデミックな世界には、複雑・高度化するソフトウェア開発で有用な先端的ツールや手法が存在しているが、実際の課題に適用した教材が不足している。一方、産業界では難度の高い新規開発課題に対して、高い品質の設計が行える優れたアーキテクトが不足している。ソフトウェア産業の国際競争力低下の背景には産学間の隔たりがある――。
こうした問題意識から、国立情報学研究所(NII)では文部科学省の支援を受け、2005年9月から教育プログラム「トップエスイー『サイエンスによる知的ものづくり教育』」を開始している。NIIのほか、NTTデータ、日立製作所、富士通総研、東芝、日本電気など11社と、大学関係者として東工大、早稲田大、東大、筑波大などから研究者らが参加している。
講座では今後特に国際競争力が必要な分野として情報家電にフォーカスし、「要求分析」「形式的仕様記述」「設計モデル検証」「コンポーネントベース開発」「アジャイル開発」などで実践的な課題を解決する演習中心の講義を行う。問題を抽象化して分析する能力やモデリング能力などを身につけるとともに、ソフトウェア工学の先端研究の成果に基づく開発手法やツールの使いこなしを学ぶ。プロジェクト事務局の国立情報学研究所 教授・情報アーキテクチャ研究主幹の本位田真一氏は「ツール類は優れたものがあるのに、それらを使いこなせる人は少ない」という。
トップエスイーの講座は現在、第2期生の26人が受講中で、今年6月には第3期生30人を公募する。この3月で第1期生12人が講座を修了した。受講生は20代後半。大学院生や博士課程在籍者、ソフトウェアベンダの社員などで占められる。第1期生として3名の修了者を出したNTTデータの松本隆明技術開発本部長は、現在のソフトウェア開発における問題点として「きちんと上流工程から設計ができておらず、開発そのものが科学的でない」ことを指摘する。開発プロジェクトが遅れがちになり、ソフトウェア産業界が“3K”のレッテルを貼られている大きな原因だという。また、情報家電で年率数十%という割合でソフトウェアが肥大化している現状から、東芝 ソフトウェア技術センター所長の江口和俊氏は「今後は品質やコストで国際的な競争力を持つには上流工程が重要になっていく。そうした開発プロセスをソフトウェア工学の裏付けを取りながら確立していく」と話す。
講座で用いた教材は、実際に用いた課題も含めて講義ノートとしてまとめて順次出版。大学や企業を対象に配布する。17教材のうち8教材は出版済みだ。
トップエスイー講座のような高度な教育を受けたアーキテクトの活躍を期待する産業界の声が強い一方、「講座を修了した本人を直接現場に投入しても焼け石に水」(前出 江口氏)であることから、いかに知識やノウハウを伝達していくかが今後の鍵だ。例えば東芝では技術センターで講座の内容を咀嚼して全社に広めたい考えだ。また、NIIでは今後、講座の拠点を1カ所だけでなく「水平展開して全国に広め、毎年30名×100カ所で3000人のアーキテクトを輩出するぐらいにしていかないといけない」(国立情報学研究所 副所長 東倉洋一氏)としている。
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