「世界を変える」か「降伏宣言」か

Google Gearsは永遠のベータではいけない

2007/06/14

 Google Gears――グーグルのオフラインWebアプリケーションを作るためのオープンソース技術――をめぐる騒ぎも多少収まったところで、この技術の世間の評判をちょっと見てみようと思った。

 わたしから見ればこの技術はかなり有望だが、ほかの人たちが言うことも気になっていた。

 いつもは秘密主義のグーグルが、Gearsについては5月31日のGoogle Developer Dayで大量の情報を提供した。それ以来、同社はグーグルについて公式なコメントをあまりしていないが、ほかの人たちがそれを補うほどこの技術について語ってきた。

 とは言え、Google Gearsは世の中を変える技術だと思うかと尋ねたところ、多くのRIA(リッチインターネットアプリケーション)専門家の間で意見は大きく異なっていた。

 「Gearsが世界を変えるかどうか、アドビシステムズやMozilla.org、Zimbraなど同じようなことをしているほかの組織が今後前向きにかかわってくるかどうかを判断するのは時期尚早だと思う」と話すのは、Burton Groupのアナリスト、ピーター・オケリー氏。「Gearsアーキテクチャはページ中心のソリューションに適しているかもしれないが、もっと複合的で文書指向であり、時々ネットワークに接続するタイプの――NotesやGrooveなどの製品で典型的な――作業にうまく対処できるかは分からない」

 Gearsを発表した最初のプレスリリースで、アドビとMozillaは同技術への協力を表明した。

 「わたしの最初の反応はこうだ。その1、人々はオフラインが重要であることを認識しつつある。その2、これは実際にソフトとサービス(サービスとしてのソフトウェアではない)のポイントを強化する。その3、ほかのベンダ(Zimbra)がオフラインに取り組んでいる。その4、Gear周りのオープンソースの取り組みは成功するはずだ。グーグルは初めGearsを必要最低限のものにしたようだから」とオケリー氏の同僚のマイク・ゴッタ氏は語る。

 同じくBurton Groupのアナリスト、ガイ・クリーズ氏は、Google Gearsは大変化をもたらす技術だと確信していると言う。

 「これは、マイクロソフトは正しいと認めるグーグルの降伏宣言だ。GearsはSaaS(サービスとしてのソフトウェア)とソフトが主眼であり、SaaSだけではない。ここで重要な疑問は、これらのAPIがどれだけ役に立つかということだ。大変な作業の大半をこなしてくれるのか、あるいは グーグルはそれを開発者任せにしているのか? 言い換えれば、APIをいくつか呼び出せばすむのか、ややこしい順番で42もの呼び出しを実行しなければならないのかということだ」(クリーズ氏)

 ノベルの開発者プラットフォーム担当責任者ミゲル・デ・イカザ氏は、Gearsを使うのが「待ちきれない」と話す。Gearsは世界を変えるか、との質問に、同氏はこう答えた。「間違いない! グーグルがAjaxを幅広く活用して、Webブラウザはまだ健在だと世に示したときのようだ」

 AMR Researchの調査ディレクター、ジム・マーフィー氏は、Gearsにより「マイクロソフトは従来の製品を、具体的には機能豊富だが機能過多で高価でもあるMicrosoft Office 2007を宣伝し、販売しようとする一方で、代替技術を慌てて市場に投入せざるを得なくなる。またGoogle GearsはRIA分野へのアドビの取り組みに信頼性を与える」と語る。

 Ruby on Railsフレームワークの作者であり、Web2.0世代の申し子デビッド・ハイネマイヤ・ハンソン氏は、「オフライン機能はそんなにすごいものだとは思わないが、様子見のアプローチを取っている」と話す。

 Zimbraの社長兼CTO(最高技術責任者)スコット・ディーツェン氏は、Gearsはもっとシンプルな汎用Webアプリケーションをオフラインに持ってこようとする取り組みのようだと語る。Zimbraは「Zimbra Desktop」でGearsと同様のアプローチを取り、マイクロサーバ、データベース、バックグラウンドでの非同期処理などの機能をサポートしている。

 「Google Gearsは、開発者の道具箱に加わる新しい魅力的なツールだ」と同氏は言う。「われわれがZimbra Desktopに取り入れているのと似たアーキテクチャに従っている。それ自体が大変化をもたらすことはないが、オンラインでもオフラインでもWeb (具体的にはWeb2.0)を普遍的な開発プラットフォームとして扱うもっと大きな動きが、確実に大きな変化をもたらす」

 Google Gearsは、各方面で受け入れられそうな具体的なクライアント側の保存方法を決定づけるとNexawebのコーチ・ウェイCTOは語る。「(単なる cookieを超えた)クライアント側でのデータ保存方法がないことが、Webアプリケーションの主な限界要因になっている。どうやってデータを保存するか、リレーショナルデータベースか、単純なファイルか? リレーショナルデータベースを使うのなら、どれを使うのか? この疑問に普遍的な答えを返すのは難しい」

 しかし「Google Gearsがあれば、SQLデータベースがクライアント側ストレージを提供する方法として広く受け入れられるようになるだろう」と同氏は言う。

 一方ZapThinkのアナリスト、ジェイソン・ブルームバーグ氏は、グーグルがGearsで大した功績を残せないのではないかと考えている。

 「Google Gearsは世の中を変えるようなものではない。『デスクトップソフトへの脅威』とも、マイクロソフトへの本格的な挑戦ともほど遠い。その代わりに、今日の多くのRIAソリューションの中核部分であるオフライン機能を開発者が追加できるようにする。言い換えれば、商用企業向けソフトの世界は以前からオフライン機能を持っていた。グーグルは軽量なオープンソースのツールキットを大衆にもたらす道を進んでいる。これにより、これまで以上に幅広い開発者が、Webアプリケーションにこの機能を追加できるようになる」(同氏)

 さらにAMRのマーフィー氏は次のように語っている。「現時点ではエンドカスタマーをめぐる戦いではない。開発者――Web開発者と新興のRIA 開発者、そして最終的には、採用プラットフォームの選択を迫られている、ほかのデバイスを設計する開発者――のマインドシェアと忠誠心を奪い合う戦いだ。 アドビは現在Flexを有し、いずれはApollo(Adobe Integrated Runtime:AIR)も提供するため、製品の観点から見ると良さそうだが、厳密には開発者をつかんでいるわけではないし、マイクロソフトが持っているような市場への強い影響力もなかった。グーグルはそれを変えている――同社はRIAの『インターネット』部分と密接に関連しており、OSから中立な傾向があり、最近は至る所から注目を浴びている」

 さらに、グーグルが秘密主義とコントロールを好んでいることについて、マーフィー氏はこうコメントしている。「もちろん、今のグーグルには開発者からの忠誠心や彼らへの訴求力はない――それが同社の課題になる。同社は開発者やパートナーに何でも進んで公開するということに慣れていない。常にコンシューマー・エンドユーザー体験のシンプルさを慎重にコントロールしたいと思っている。だがそれを変えなくてはならない」

 さらに、「Gearsのアイデアは非常に魅力的だが、ある時点でちゃんと機能することを証明しなければならない。それにグーグルのほかの多くのサービスのように永遠のベータであってはいけない」と同氏は語る。

原文へのリンク

(eWEEK Darryl K. Taft)

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