ゆすり行為と非難

「MSはオープンソースコミュニティを分断した」――Ubuntu創設者

2007/08/08

「マイクロソフトは数社の主要Linuxベンダと特許免責契約を結ぶことにより、Linux/オープンソースコミュニティを分断した」 ――Ubuntuプロジェクトのリーダーを務めるCanonicalのマーク・シャトルワースCEOは、米eWEEKの取材でこのように述べた。

 シャトルワース氏によると、マイクロソフトの戦略に秘められた狙いは、オープンソースコミュニティにくさびを打ち込み、市場を混乱させることだという。さらに同氏は、マイクロソフトがLinuxをはじめとするオープンソースソフトウェアによって侵害されているとする同社の235件の特許を開示にしないことに対しても、異論を唱えている。

 「これは、ゆすり行為だと言わざるを得ない。マイクロソフトのスティーブ・バルマーCEOが『(Linuxユーザーは)開示されていないバランスシート上の負債を抱えている』と語るのは、ゆすりにほかならず、われわれはそのような駆け引きに応じるべきではない。また、マイクロソフトが自社の知的財産のことを心配しているという点については、フリーソフトウェアコミュニティには、他人の知的財産を侵害したいと考えている人いない。特許を開示すれば、われわれはコードを修正する。開示しないのであれば、どうしようもない」とシャトルワース氏は語る。

 マイクロソフトでは、どの特許が侵害されているかを開示すると述べているが、それはベンダとの個別の話し合いの中でのみ行われるとしている。シャトルワース氏によると、それは開示ではないという。特許とは一般に公開される文書であるというのがその理由だ。

 「現段階では、マイクロソフトが本当にやろうとしているのは市場を混乱させることだというのは明らかだと思う。この狙いは功を奏しておらず、 マイクロソフトとのそういった類の交渉に応じるのを拒んでいる企業はまったく影響を受けていない。逆に、交渉に応じた企業は高い代償を払う羽目になったことを示す証拠はたくさんある」(同氏)

 シャトルワース氏は、マイクロソフトが資金力に物を言わせてベンダ各社に特許関連契約を結ばせたことも非難している。同氏によると、そういった契約がコミュニティを分断させるのを同社は知っていたという。

 「これらのディストリビューターが明らかに不利な契約を結んでしまったのは、短期的な財政的プレッシャーがあったためだ。これらの契約でお金を払っているのはマイクロソフトだ。要するに、マイクロソフトは契約を金で買っているということなのだ。これはオープンソースコミュニティにくさびを打ち込む格好になったと思う」(同氏)

 マイクロソフトの広報担当者は、シャトルワース氏の指摘についてコメントを差し控えている。

 「道を誤った企業にとって、これが良い結果に終わるとは思えない」とシャトルワース氏は言う。「結局、優秀な開発者の意欲をかき立てるのはオープンソースの精神なのだ。Novellがマイクロソフトと契約して以来、開発者たちはノベルを見放し、オラクルやグーグルなどの企業の方に行ってしまった。これはノベルにとって不幸なことだが、彼らの決定から当然予測された帰結であり、フリーソフトウェアの真の原動力は何かということに関する理解の欠如を示すものだ」。

独占権は社会の利益にならない

 同氏によると、すべてのソフトウェア特許は、他人のアイデアをベースとして開発を行うプロセスを阻害するという形でイノベーションを妨げたという。「特許というのは、製品の中心的なアイデアの開示を促すことによってイノベーションを促進することが本来の目的であり、アイデアを神秘のベールで覆い隠すのが目的ではない」と同氏は語る。

 何らかの効果を達成するのに用いた方法とプロセスを文書化するのを発明者に促し、その見返りとして、そのアイデアに関してある程度の独占権を発明者に与えるというのが特許の考え方だ。「しかしソフトウェアの場合、コードがリリースされた瞬間に魔法の種が明らかになる。開発者が開示しようとしているものに対して独占権を与えることは、決して社会の利益にならない」と同氏は指摘する。

 シャトルワース氏は、マイクロソフトがもうすぐソフトウェア特許の廃止に向けたロビー活動を始めるのではないかとの見方も示している。

 「マイクロソフトは、特許訴訟を起こされて莫大な和解金を支払わされるようになる危険性が非常に高い。彼らは1980年代の収益構造を維持するための手段として特許を利用したいと考えてはいるが、今はもうそのような時代ではないことを彼らも理解し、もうすぐ方針を転換してソフトウェア特許の廃止に向けたロビー活動を始めるだろう。それが彼らを束縛から解き放つ唯一の手段であるからだ。マイクロソフトはまだ競争することができ、有力な競争相手だ。彼らは競争で卑劣な戦術に頼る必要はない」(同氏)

Ubuntu LinuxはGPL v3.0でリリースへ

 またシャトルワース氏は、最近リリースされたGeneral Public License 3.0を全面的に支持しており、Ubuntu Linux用に作成される新しいコードは同ライセンスの下でリリースするとしている。

 「GPLv3は多くの点で優れたライセンスだ。(Linuxの創始者である)リーナス・トーバルズ氏らがこの新ライセンスに関して提起した問題の幾つかは、カーネルレベルの問題であり、それ以外の部分にはあまり関係がない。全般的に、これは非常によくできたライセンスだと思う。特に重要なのは、ライセンス作成のプロセスが素晴らしかったことだ。Windowsのエンドユーザーライセンスの作成でもアドビ・システムズのユーザーライセンスの作成でも、このようなプロセスは絶対に見られないだろう。いろいろと欠点はあるかもしれないが、GPLv3は一部のプロプライエタリライセンスよりもはるかに優れたライセンスだ」(同氏)

 同氏によると、GPLv3はGPLv2よりもずっとよくできており、はるかに適用範囲が広く、GPLv2が作成されて以降の業界の変化を反映しているという。

 「あらゆるコードをGPLv3に移行する必要があるとは思わないし、LinuxカーネルがGPLv3に移行しなければ問題だとも思わない。しかし結局のところ、ただ反発したり、GPLv3をむげに拒絶したりするのは無意味だ。わたしが本当に望んでいるのは、従来のライセンスに対する新ライセンスのメリットに関して、カーネル開発者の間で理性的な議論が行われることだ」とシャトルワース氏は話す。

 トーバルズ氏がGPLv3の規定の一部を公に批判したことをどう思うかとの質問に対して、「トーバルズ氏は柔軟で実利主義的な考え方の持ち主であり、Linuxとコミュニティの利益を大切に思っている」とシャトルワース氏は語っている。

 「彼は断固とした態度を示すタイプのリーダーだが、考え方を改めるのを決していとわない。それが偉大なリーダーとしての彼の資質の1つだ。カーネルがGPLv3に移行するのはあり得ないとは思わないし、移行しなかったとしても大きな問題になるとは思わない」(同氏)

関係断絶は正しくない

 シャトルワース氏は、マイクロソフトとはいかなる形の特許契約も結ぶつもりはないと強調しながらも、将来的に同社と協力する可能性は否定せず、制裁や関係断絶といった政策は正しくないという考えを示した。

 「企業は人間よりも変わる可能性がある。Linuxベンダ各社は間違った考え方が忍び込むのに対処しなければならなかった」と同氏は話す。ロンドンに本社を置くCanonicalも例外ではなかったという。

 「マイクロソフトとの関係は維持する必要がある。われわれがいつか将来、マイクロソフトと協力することになったとしても落胆しないでもらいたい。しかしいまのところ、何も起きそうにない。彼らは現時点では、オープンソースコミュニティのためになり、われわれが取り組む価値があると思えるようなものを何も示していないからだ」とシャトルワース氏は語る。「彼らは、現段階で提供できるものをあまり持っていないと思う。しかしWindows上で動作するオープンソースソフトウェアはたくさんあるので、われわれは彼らをむげに拒絶すべきではない」。

 「マイクロソフトのマルチメディアファイルフォーマットのライセンスを受けることにはまったく関心がない。レッドハットはライセンスを受けようとしているようだが」と同氏は話す。ただし、OEMの場合や特定のデバイスの場合については、その限りではないという。

 「しかしマイクロソフトはいつか、同社が1997年以来喧伝してきたメディア戦略がうまくいっていないことに気付くだろう。 マイクロソフトはメディアコンテンツチャネルとしての地位をまったく確立できないでいる。このため、彼らはたぶん別のアプローチを模索しようとするだろう」(同氏)

原文へのリンク

(eWEEK Peter Galli)

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