暗号化、差分、簡単設定の便利サービス

オンラインバックアップサービス「Mozy」を使ってみた

2007/08/17

 日曜日の夜、私はよく憂鬱になる。「週が明ければまた仕事が始まるのだ」と気が重くなる“ブルーマンデー”ではない。「今週末もまたバックアップ作業をさぼってしまった」と、なぜか後ろめたい気持ちになってしまうのだ。「たとえ明日ドライブがクラッシュしても、最悪3週間前までのデータは残っている……、いや、最後にバックアップしたのは4週間前だったか、5週間前だったか」と不安に思いながらも、もう何年もクラッシュに見舞われていないのだから来週も大丈夫だろうという不合理な理屈で自分を納得させる。

 私は長らくハードディスクバックアップを実行している。USB接続は高速で、外付けハードディスクへの数十GB程度のファイルコピーでも数時間で終わる。更新ファイルだけを対象とする差分バックアップであれば1回5〜10分程度と非常に手軽だ。専用のバックアップソフトを使うまでもなく、コピーコマンドのオプションを使えば指定フォルダの更新ファイルだけをバックアップ対象にできる(参考記事:xcopyでファイルをバックアップする)。

 ハードディスクバックアップを取り始めた頃は、いい時代になったものだと思った。遅くて容量の小さい光メディアよりはるかに便利だ。しかし、それでもしばらく続けていると面倒になってくる。

ネットワークバックアップこそ次世代のバックアップ手法

mozy01.png ネットワークバックアップサービスを提供するMozy

 外部メディアや外部ドライブを用意する必要がないネットワークバックアップこそ、次世代のバックアップ方法だろう。手軽にネットワークバックアップを使いたいと長らく思っていたのだが、オンラインストレージの値段は意外に安くならないし、容量も少ないものが多い。1GB程度の容量では何もバックアップできない。

 ところが、米国では「容量無制限」をうたう、実用的なネットワークバックアップサービスがいくつか出てきている。米TIME誌が7月に発表した「50 Best Websites 2007」を見ると、2位に3000票近い大差を付ける1万票を獲得し、堂々のトップに選ばれたのは「Mozy」というネットワークバックアップサービスだ。2006年4月にスタートしたばかりのベンチャー企業だが、各方面から高い評価を受けている。

 お盆休みで清らかな気持ちになっていたので、ハードディスクバックアップをやめてネットワークバックアップに移行することを念頭に、早速いちばん評価の高いMozyを使ってみた。

月額4.95ドルで容量無制限にも

 Mozyは劇的に安い。個人利用なら2GBまでは無償、月額4.95ドルを払う有償ユーザーなら、バックアップできる容量は無制限だ。Carboniteという同種のサービスも、年額49.95ドルで容量無制限をうたっている。

 容量無制限――、iPodが登場したときに感じた「もう容量の心配はない。すべて、そこに入る」という安心感に近いものを感じさせてくれる。最近私はFlickrの有料版を使っているが、やはり保存容量も転送容量も無制限だ。どうして米国には、こうした太っ腹のサービスがあって、日本にはないのだろうか?

 国内で同様のサービスを行っているところでは、例えば@niftyの「@niftyバックアップ」がある。容量2GBで月額525円だ。そのほか、あまり大手は参入していないが、独立系ベンダが提供するオンラインバックアップサービスでは、2GBで月額2000〜3000円といったところが相場のようだ。料金はともかく、2GBでは、もはやSDカードのバックアップすらできない。国境のないネットの世界を見ていると錯覚しがちだが、世界はまだそれほどフラットではない(正直、先ほどのTIME誌のリストに挙げられた名前のほとんどを私は知らなかった)。

 とはいえ、米国のトレンドが3〜5年遅れでやってくるのがIT業界の常識だとすれば、いずれ日本でも同様のバックアップサービスが始まるに違いない。少なくとも、英語圏のいずれかのサービスが日本語化されて上陸するのではないだろうか。

448ビットのBlowfishと128ビットのSSLで暗号化

mozy02.png Mozyの専用クライアントソフト

 MozyはクライアントPCに専用ツールを入れて使うネットワークバックアップサービスだ。ファイルはMozyが用意するサーバ群にコピーする。クライアントソフトは、Windows Vista/XP/2000のほか、ベータ版ながらMac OS X対応のものがある。FAT32もサポートするが、NTFSの利用が推奨されている。NTFSであれば、アプリケーションで使用中のファイルのバックアップや、ブロック単位での差分バックアップにも対応する。

 ファイルはクライアント側で暗号化された後にSSL上で転送される。デフォルトの暗号アルゴリズムは448ビットのBlowfishで、Mozyが用意する暗号鍵を使う。懐疑的な人のために、暗号鍵をローカルで生成して保存する選択もできるようになっている。ただその場合、クライアントPCに保存される鍵を失ったら2度とデータは復元できなくなる。それは「ドライブがクラッシュする心配から解放される」というバックアップの目的とは相容れないので、私はMozyを疑おうとは考えなかった。もちろん、USBドライブに暗号鍵を保存して引き出しにしまっておくという手もあるだろう。

 すでに書いたように個人利用なら2GBまでは無償で、月額4.95ドルの有償ユーザーならバックアップできる容量は無制限だ。SOHOを含む法人ユーザーの場合は月額3.95ドル、1GB当たり0.5ドルとなっている。

秀逸なバックアップ設定ウィザード

 バックアップ対象は初期導入時のウィザードで設定するが(もちろん導入後に設定もできる)、この選択ウィザードは秀逸だ。

 何も考えずにウィザードを進めると、標準的なバックアップ対象を適当に探し出してきてくれる。見ると、「Email and Contacts」としてThunderbirdのデータが、また、Internet Explorerだけでなく、FirefoxやOperaのお気に入りについても自動でバックアップ対象に加えられている。メジャーとはいえないアプリケーションまでカバーしていて心強い。一瞬でも「漏れがあるのではないか」と思わせるようでは手軽なバックアップとはいえない。

 ちなみに、OSやアプリケーションを含めたシステム全体をバックアップするという選択肢はない。

mozy03.png ウィザードが自動的に設定したバックアップ対象。OperaやThunderbirdといったメジャーではないソフトウェアも入っている

 多くのバックアップソフトでは「対象ファイル」や「対象フォルダ」をユーザーが指定するのに対して、Mozyでは“セット”という概念でバックアップ対象を指定できる。例えば表計算関連のファイルは標準で1つのセットで指定されている。このセットでは、全ドライブ中で表計算のデータと思われる拡張子を持ったファイルが指定されている。デスクトップに仮に置いたり、ある時ふと作ったフォルダに入っているデータまで対象になるわけで、固定的なフォルダを対象にしたバックアップではできない柔軟な指定が可能だ。

 それぞれのセットには条件を加えられる。ファイル名、サイズ、拡張子、作成日、更新日などで必要なファイルだけを指定したり、不要なファイルを除外できる。

 最初にウィザードを起動してファイルを検索した時には、バックアップ対象となるファイルの総容量は13GBとなった。ひとまず私は無償版を申し込んだので2GBの容量しかなく、少しバックアップ対象を減らしてみることにした。

 例えばメールボックスの中で「ml」「release」というファイル名を除外した。これは日々受け取るメーリングリストやプレスリリースのメールで、バックアップは不要だ。あるいは、1カ月以上前の写真データでサイズが1MB以上のものという指定で、リサイズしていない写真データも除外した。1カ月以上前の10MBを超えるMP3データも、会議や取材の音声データで聞き返すことはないから除外した。

 こうした除外ルールを適用することで、あっという間にバックアップ対象を1.3GBにまで抑えることができた。バックアップ対象ファイルのルールを変更すると、変更するたびにドライブをサーチし、対象バックアップファイルをリストアップして必要容量を表示してくれるが便利だ。

mozy04.png バックアップ対象はルールベースでリストに含めるか除外するかを指定できる(クリックで拡大)

転送時には時間優先、処理速度優先などを設定可

 バックアップ対象ファイルの設定が終われば、バックアップスケジュールの設定だ。時間を指定したバックアップや、明示的にボタンをクリックして始める手動バックアップのほか、自動バックアップが選べる。自動バックアップでは、指定時間(デフォルトで30分)以上アイドル状態が続くとバックアップが始まる。また、使用するネットワーク帯域は32kbps〜1Mbpsの間で選べるほか、暗号化に使うCPUの処理能力の設定もできる。暗号化は、それなりに重い処理のようだが、最速の設定にしたところ、Core 2 Duo(1.8GHz)のマシンで十数Mbps程度のスループットが出た。ネットワークのスループットより、はるかに速く、あまり意味がない。もう少し落としたほうがCPU利用率が低くて済むのかもしれない。

mozy05.png ネットワーク利用帯域は32kbps〜1Mbpsまで可変。時間帯によって絞ることもできる

 今回はテストなので約1000個(約100MB)のファイルをバックアップ対象としてみた。画像やテキスト、オフィス文書がメインだ。バックグラウンドの処理で、暗号化処理と転送に2時間13分かかった。転送速度は219kbpsで、デフォルトで設定されているネットワーク利用帯域の256kbpsと、ほぼ一致する。

 単純計算すると10GBなら200時間(まるまる1週間強)もかかることになり、かなり遅い。最速の設定で1Mbpsにし、それでフルにスループットが出たとしても50時間だ。いくら、全データが転送対象となるのは初回だけだで、その後は数分単位で終わることだとはいっても、気の遠くなるような話だ。デスクトップであれば問題はないが、ノートPCなら初回のバックアップは何度かに分けて作業する必要があるかもしれない。

意外に面倒なリストア作業

 ファイルのリストア(復元)には2つの方法がある。

 1つは「マイコンピュータ」の中に現れる「Mozy Remote Backup」からフォルダツリーをたどっていってファイルやフォルダを探す方法。目的のフォルダやファイルを右クリックして「Restore」を選択すると、システムに常駐したMozyクライアントがMozyのサーバから該当ファイルを持ってきて元の場所にファイルを置いてくれる。

 リストアのもう1つの方法は、Webサイトでフォルダツリーをたどる方法。Mozyのサイトにログインすると、自分用の復元ページが現れる。続いてファイル名検索や、エクスプローラのようなドロップダウンリストで、リストアしたいファイルやフォルダを探してチェックボックスにマークを付ける。

 リストアしたファイルは、ダウンロードする方法と、DVDで受け取る方法が選べる。ダウンロードを指定すると指定ファイルがzipでアーカイブされ、そのファイルのURLがメールで送られてくる。DVDは北米大陸のユーザー限定だが、作業費用29.95ドル、FedExによる翌日配送の送料が35ドル、0.5GB当たり0.5ドルなどとなっている。

mozy06.png マイコンピュータの中にできた仮想的なドライブから、目的のファイルやフォルダを探して復元できる。ファイル名の日本語は特に問題がないようだ
mozy07.png Webサイトで復元するファイルを指定した場合は、圧縮ファイルのダウンロードかDVD配送でデータを受け取る

ハイブリッド方式なら現実的か

 ハードディスクバックアップによる高速さと、ネットワークバックアップの手軽さを組み合わせて使うのが現実的かもしれない。いくら放っておくだけだとはいっても、100GBとか200GBのファイル転送で1週間も2週間もかかるのではウンザリだし、リストアするのも大変だ。

 1カ月に1度はハードディスクにバックアップを取り、直近1カ月のデータだけをオンラインに、という“ハイブリッド方式”なら、バックアップファイル容量が2GBに収まる可能性もある。

 もし読者が「お盆が終わろうというのにバックアップを取らなかった」と自責の念にかられているのなら、Mozyを試してみてはいかがだろうか。

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(@IT 西村賢)

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