初の定量的調査で見えてきたベンチャーの実態
日本のIT大手はWeb2.0に興味なし、調査で浮き彫り
2007/08/30
ミクシィ、カカクコム、オウケイウェイブ、ディー・エヌ・エー、ドリコムなどWeb2.0企業とされる17社の株式公開時の時価総額は約1兆円。それだけの経済規模を持つ企業群に対して、日本の大手ITベンダやSIerは1円も投資していない。日本のIT大手はWeb2.0に興味なし――。そう捉えられかねない調査結果が8月30日に発表された。
日本になかったベンチャー企業のデータベース
資料を発表したのは2006年8月に設立されたNPO法人、Japan Venture Research(JVR)。日本で初めてベンチャー企業の資本政策情報をデータベース化し、大学や研究機関、シンクタンク、ベンチャーキャピタル業界、ベンチャー起業家への情報サービスを行う。
日本では年間2000社以上のベンチャー企業に対して約2000億円の投資がVC(ベンチャーキャピタル)によって行われているが、その実態が明らかにされることはなかった。第三者割当増資のタイミング、回数、出資金額、出資者リストなどは、個別には上場時の目論見書などに断片的に存在することはあったが、包括的に把握、分析するためのデータベースがなかった。こうした情報は、投資する側に必要なばかりでなく、ベンチャー企業の経営にも重要な情報となる。例えば増資時に株価をいくらに設定するかを巡り、ベンチャー企業の社長と出資者であるVCの間で客観的データに基づかない“せめぎ合い”が起こるケースもあるという。データを蓄積・共有するインフラがないため、ベンチャー企業の創業者は、事業を成長させていく過程で重要な「資本政策」について暗中模索といった状態となりがちだ。自分の株の持ち分をいくらにするのか、社員のストックオプションをどう設計するのかなどを判断する基準となるデータも存在しない。
「アメリカやヨーロッパにはベンチャー関連の情報をトラックして提供する企業がある。日本にはそうした企業や機関が存在しないのに、最初は驚いた」。そう語るのはJVRで理事のを務めるアレン・マイナー氏だ。マイナー氏は日本ベンチャーキャピタル協会の理事を務めるほか、2000年には投資事業を行う会社、サンブリッジを設立するなど、日本でベンチャー企業に関連した活動を続けている。「日本にもベンチャー企業の情報を提供するところがあったほうがいいんじゃないですかという話をすると、あったほうがいいと、みんな言う。これまで私は、いろいろな人にやりませんかと言ったり、いっそアメリカの企業が日本に進出しないかなと思ったりしてきました。でも結局、誰もやらないのなら自分でやろうと始めた」(マイナー氏)。ただ、事業として利益を上げていくのは難しいとの判断から、NPO法人として立ち上げたという。
約450社の上場前の業績、社員数、調達金額をデータベース化
JVR代表理事の北村彰氏によれば、調査対象としたのは2000年から2007年までに新興市場に上場したベンチャー企業約450社。これらの企業の会社設立から上場までの会社業績、売上高、利益、社員数、投資したVC名、ファンド名、株価、増株数、調達金額などをデータベース化した。また、内外のVC約150社、440ファンドの投資内容についても検索ができるという。「上場時に公表する目論見書などには、上場までのプロセスがすべて書いてあるわけではない。例えば第三者割当増資の出資者リストに『○○、△△ほか5社』などとなっているケースがある」(北村氏)。そのため、データベース作成に当たってはパブリックに入手可能な資料から情報の空白を埋めたり、電話による聞き取り調査を行ったという。
JVRはまだ無名のNPO法人。苦労も多かったという。しかし、今回調査を公表したことでデータベースの存在意義が広く認識され、今後は情報を集めやすくなるのではないかと見ているという。共有データベースができて透明性が高まれば、むしろ米国のように積極的に投資情報を公開するようになるのではないかという。「アメリカではベンチャーは増資を受けた事実を公表したがります。有名VCがバックに付けばお墨付きを得たようなものだからです。また、VCのほうも投資活動の内容をPRします。そうしないとVCとしてのランクが落ちるからです」(北村氏)
今後は四半期ごとに調査データを公開する予定だ。また情報が集めやすくなれば、いずれ公開前のベンチャー企業についても訪問調査を行うことでデータを収集できればという。
第1弾としてWeb2.0企業の分析レポート
データベースの情報を使えば、これまでできなかった、さまざまな分析が可能だ。例えばVCごとのパフォーマンスランキングが作成できる。あるいは得意な業種があるのか、また投資ステージは初期か中期か上場前の後期かなど、各VCの特徴も分かる。資本金や売り上げ、増資金額といった数字のグラフが、上場までに一般的にどういうカーブを描くのかも業種ごとに分析が可能だ。
そうした分析の第1弾として、JVRでは、富士通総研との共同研究で「Web2.0ベンチャー企業の調査」を発表した。
調査を担当した富士通総研の湯川抗氏が引き出した結果は多岐に渡る。例えばICT企業や一般のベンチャーに比べて、Web2.0企業(湯川氏の定義に当てはまる17社)は、公開時の時価総額や調達金額が高い傾向が見られたという。公開時の平均時価総額は、ICT企業で約256億円、Web2.0企業で約612億円。また公開時のPERはマザーズ平均が155倍であるのに対してICT企業が229倍、Web2.0企業では301倍となることが分かったという。
Web2.0企業に投資したVCは最大805倍、平均でも約27倍のリターンを得ている。時計の針を戻し、17社の設立時期を見てみると、“Web2.0”がブームとなる2004年より後に設立された会社はゼロ。そして、Web2.0企業の資金調達のスピードは、きわめて速いという分析と合わせて考えると、「Web2.0が話題となる前から、CGMビジネスに期待した投資家が多かったのではないか」(湯川氏)という。
また、Web2.0企業に積極的に投資をしている企業、VC、ファンドには偏りが見られたという。「Web2.0企業に積極的に投資をしていない大手VCがある一方で、三菱UFJキャピタルやみずほキャピタルといった銀行系のVCの一部は積極的に投資をしている」(湯川氏)。また事業会社の投資実績で見てみると、伊藤忠グループや住友商事が積極投資を行っている一方、日本の大手ITベンダやSIerは、Web2.0企業にほとんど投資を行っていない事実も明白になった。1兆円もの市場価値があり、これだけ投資効果が高いWeb2.0というジャンルで、最もITを理解しているはずの大手ITベンダの姿は不在だ。アメリカでインテルやサン・マイクロシステムズなどが投資会社を作り、新興ITベンチャーに積極的に投資を行っているのとは対照的だ。湯川氏は、大手ITベンダの年間数千億円にもなる巨額の研究開発費のほんの0.1%でもWeb2.0企業への投資に回すのは悪いことではないのではないか、と話した。
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