コントラスト比は測定器の限界超え

ソニー、世界初の有機ELテレビ12月発売へ

2007/10/01

ソニーは10月1日、表示デバイスに有機ELを用いた11型のパーソナルテレビ「XEL-1」を12月1日に発売すると発表した。価格は税込み20万円。月産2000台の予定。デジカメやケータイの表示デバイスとして小型パネルが使われることがあったが、テレビに有機ELを用いた製品は世界初。「これまでのディスプレイにない、まったく新しい映像表現」(代表執行役 副社長 コンスーマープロダクツグループ担当 井原勝美氏)を実現したという。

sony01.jpg 新商品を発表する代表執行役 副社長 コンスーマープロダクツグループ担当 井原勝美氏
sony02.jpg 明るさ、発色ともに液晶パネルとは別次元。食品や食材の質感は、これまでに見たことのないようなリアルさだ
sony03.jpg 黒い部分を完全に消灯できるため、従来のディスプレイではあり得ない高いコントラスト比を実現。暗いシーンもリアルに再現できる
sony04.jpg 金属の光沢や太陽の反射光なども見たことのない映像表現。高い輝度差を生かした絵作りにも目を見張る
sony05.jpg 最薄部で厚さ約3mmの薄型ディスプレイ。付属のリモコンも薄型だ

 パネルに蒸着した有機素材に電流を流すことで、有機分子が自体がホタルのように光る。自発光方式の有機ELには液晶ディスプレイのようなバックライトやプラズマディスプレイのような放電管が不要。このため大幅な薄型化が可能で、XEL-1では表示パネルは最薄部約3mmという。自発光であるためエネルギー効率も良く、一般的な映像を表示した場合、液晶パネルに比べて40%程度の消費比電力削減効果があるという。また、パネルの寿命は、一般的な液晶パネルの半分程度で、1日8時間の使用で10年程度(約3万時間)。

sony06.jpg 有機ELの発光原理。有機素材に直接電流を流すことで素材自体が発光する
sony07.jpg 有機ELパネルの構造

 表示パネルは薄型で背後に50度まで傾斜可能。解像度は960×540ドットで入力信号方式として、1080p、1080i、720p、480p、480iに対応。地上デジタル放送チューナーやスピーカーを本体に内蔵する。重量2.0kg。

 有機素材はRGBの3色分を新たに自社開発した。色をより鮮やかにするために、発光部にカラーフィルターを併用するほか、パネル背面側にミラーを設置。発光素材とミラーの間の「マイクロキャビティ構造」と呼ぶナノオーダーの空間で直射光と反射光が共振することで、高い開口率を実現しているという。また、低階調時の色再現性が高く、暗いシーンで有効という。

 従来、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイでは映像中の黒い部分の光をいかに落とすかが課題だったが、有機ELディスプレイでは「完全に消灯できる。これはほかのディスプレイではできないことで、エンジニアが惚れた点」(テレビ事業本部 E事業開発部 部長 白石由人氏)という。コントラスト比は100万対1以上で「測定器の限界を超えている」(白石氏)。

 輝度比が高い「有機ELにふさわしい映像はどうあるべきかを議論し」(白石氏)、全白部分の輝度表現において液晶ディスプレイと異なるアプローチを採用。液晶ディスプレイでは全白部分は同一輝度となるところ、表示サイズが小さくなるに従って輝度比を高める方式にした。この結果、金属の輝き、カメラのフラッシュ、太陽の反射光などで、これまでにない映像表現ができるという。また、応答速度は液晶より1000倍程度速い、数マイクロ秒単位のため、スポーツなど動きの激しいシーンを滑らかに表示できるという。

 ソニーでは1994年に有機ELの研究に着手。パネル寿命の問題や生産コストなど課題が多く、製品化に時間がかかった。今年に入り、「ソニーでは4月に年内に製品をリリースすると発表したが、量産に向けた準備が整った」(井原氏)。既存の製造ラインを流用することで新規投資を抑えたが、「価格は複数の人にいくらなら買うかを尋ねて商品力で決めた。採算性は考えていない」(同)とコスト的課題が残る戦略商品とのニュアンスをほのめかした。短期的に見た場合のテレビ事業の主軸はあくまでも液晶パネルを用いた製品だ。

 今後の展開について井原氏は「とりあえず11型で出したが、もっと大型のものを開発するのがわれわれに与えられたチャレンジ。今までにない薄いパネルによって新しい利用場所や利用形態もありえる。そうしたライフスタイルも模索していきたい」と語った。

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(@IT 西村賢)

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