プライバシーが短期的課題
Googleに降りかかる電子商取引の課題
2007/10/03
米国の平均的な企業経営幹部は、漸進的な変化を好む。例えば、18%のスピードアップを実現するとか、ある部分の効率を少しばかり改善し、別の部分で機能をいくつかの機能を追加する、といった変化である。
それどころか、ほとんどの経営幹部は、本音ではパラダイムシフトを決して望んでいない。大企業の典型的な幹部は、劇的な変化によって自分の会社の規模が現在よりもずっと小さくなる可能性を恐れているのだ。
全面的な変化を歓迎するのが新興企業や小規模なニッチプレーヤーであるのもそのためだ。それが人々の注目を集めるためだけであったとしても。
しかし大きな変化――例えば、インターネットおよびそれから派生したワールドワイドウェブ――を受け入れた小さな企業が大きくなった場合はどうなのだろうか?
それが、年商110億ドルの巨大検索企業、グーグルが直面している問題(そしてチャレンジ)である。先ごろグーグルのニューヨークオフィスで行われた記者会見において、グーグルの経営幹部とマネジャーは、今日の電子商取引を取り巻く難問について述べるとともに、同社がそれに対処するための最善の方法を模索中であることを明らかにした。
「電子商取引の初期のころは、一般的な小売業者や製造業者は、検索エンジンのリンクを利用して10種類ほどの製品の宣伝をしていたに過ぎない。今日、そういった企業がこの種のWebマーケティングで1万種類以上の製品を扱っていることも多い」――グーグルで北米地域の宣伝・商取引を担当するティム・アームストロング社長はこのように語った。
アームストロング氏をはじめとするグーグル幹部によると、この新しい環境では非常に斬新なアプローチが求められるという。グーグルの答えは「Asset Map」と呼ばれるソリューションだ。これは、小売業者が保有するあらゆる資産(すべての製品とサービスを含む)を視覚的に表示する方法だという。これにより、理屈の上では、広告リストから漏れている製品を把握できるだけでなく、一種の投資収益分析を試すこともできる。
「これは広告予算を運営予算に変えるものだ」とアームストロング氏は説明する。グーグルの広告は従来型の広告に近いもの(広告予算として分類されるもの)なのだろうか、それとも自動車販売業者が新しいショールームや販売特約店を設立するためのコストに近いのだろうか?
グーグルでは、同社の競売価格方式はマーケティングコストという分類に含まれないと主張している。グーグル幹部によると、これは広告購入パターンを在庫に合わせるのに役立つという。この可変価格方式は、消費者の関心に応じて予算を変化させることができるからだ。
理屈の上では、単に広告の購入を検討するのではなく、予測性の高い方法で需要に関する正確なリアルタイム情報が得られる。言い換えれば、例えば消費者がSUV(多目的自動車)の広告を見る回数がそれぞれの月(あるいは気象状況)に応じて同じように変動することが分かれば、広告の購入を判断する上で参考になる。
「iPod」検索に7000語
電子商取引をめぐるもう1つの重要な変化は、(主として若いユーザー向けに立ち上げられた)ソーシャルネットワーキングサイト(SNSサイト)とビデオサイトの爆発的増加である。例えば、Facebook、MySpace、YouTube(現在はグーグルの傘下)などである。これらのサイトは、10年前には決して存在しなかったような、ターゲットを絞り込んでカスタマイズしたキャンペーンの可能性を生み出している。
アームストロング氏によると、SNSサイトの普及は予想外だったという。「信じられないようなトラフィック量だ」と同氏は語る。当初、こういったサイトで検索が重要になるとは予想していなかったからだ。ビデオ検索に対する大きな需要は、「非常にうれしい驚きだ」と同氏。
その一方で、携帯端末の普及という状況がある。これは広告を制約するものであるが(小さい画面、少ないメモリ、非常に低い通信速度など)、常に消費者の身近にあり、正確な位置情報が含まれているため、さまざまな可能性を開くものと期待される。
携帯端末の可能性についてアームストロング氏は、「あらゆる携帯電話が個人向けの宣伝を即座に受け取るようになる」と話す。
こういった要因が絡み合う一方で、消費者およびビジネスユーザーはWeb検索に非常に慣れてきた。「ユーザーの検索方法は以前よりもはるかに高度化している」とアームストロング氏は語り、例えば、検索クエリの平均的な語数が大幅に増えていると指摘する。また、ユーザーがどういった検索語を用いるかを推測するのも難しくなっている。例えば、「iPod」を検索するのに使用される可能性のある検索語の数は7000にも上るという。
最大の短期的課題はプライバシー
しかし、グーグルにとって最大の短期的課題はプライバシーである。グーグルのリテール部門の責任者を務めるジョン・マカティアー氏によると、同社の現在のポリシーでは、サードパーティーのcookieの使用が禁じられているという。プライバシーについては常識にとらわれないと一般に考えられている企業としては、これは意外なスタンスである。
検索エンジンでの広告掲載については、従来から2種類の広告販売方式がある。1つは文脈型で、関連性の高いページに広告が掲載される。もう1つの方式である挙動型では、サイトを訪れたのは誰なのか、そしてその人の最近のトラフィックなどに注目する。
サードパーティーのcookieの使用禁止というポリシーを自らに課しているグーグルの場合、挙動方式を採用するのは難しいと思われるが、cookieを使用しない手法の開発も進められている。そういったこともあり、すべてのポリシーが見直され、修正される可能性もある。
理論的には、広告主にとって、挙動型の広告掲載の方がより効果的である。結局、文脈型広告が特定のページに掲載されるのは、広告対象となる人々がそういったページを見る可能性が高いからである。挙動型広告は、ユーザーがどんなページにアクセスしたいと考えているかにかかわらず、より正確な予測が可能である。
しかし挙動型cookieも完璧とはいえない。ユーザーが偶然、無関係なページにアクセスすることもあるだろうし、まったく異なった好みを持った知人に一度きりのプレゼントを購入しようとしているのかもしれない。唯一の理想的なアプローチは、両方のテクニックを併用することである。
携帯電話は、精度の高い地理情報ベースのターゲット広告の可能性を提供するが、グーグルではIPアドレスと検索語を使って、地理的に局限された広告を配信する実験を行っている。グーグルのリテール部門で業界セールスマネージャを務めるブレット・ゴフィン氏によると、今日、IPアドレスに基づく位置特定の精度は約85%だという。
不正確な15%の部分には多くの要因が寄与している。例えば、Webサーフィンをしているユーザーのアドレスではなく、ブロードバンドISP(インターネットサービスプロバイダー)の場所が示されるといったケースだ。両者が近いことも多いが、正確ではない。会員の場所に関する手がかりをほとんど与えないことで有名なドメインもある(AOL.comなど)。VPNもIPアドレスの場所の精度を大きく狂わせることがある。
テレビ局のWebサイトや気象情報サイトなど、位置を強く示唆するサイトもある。また、検索語句そのものが位置特定につながるケースもある(例えば「オースティン市内の家具店」など)。
マカティアー氏によると、今日、ユーザーがWebに費やす時間は、テレビを観る時間とほぼ同じだという。こういったWebトラフィックをすべて含めると、1日当たりの検索数は約80億件に上る。
Web広告に対して最大の潜在的インパクトを持っているのが、複数チャネルを融合した販売方式であることは、ほとんど疑う余地がない。「オンライン広告が従来店舗での売り上げ拡大につながる可能性があることを示す証拠が、ようやく小売業者に見え始めてきた」とマカティアー氏は話す。
分かりやすい例としては、実際の店舗で使える割引券を印刷できるサイトが挙げられる。この方式では、小売店は割引券が何回印刷されたか(関心の度合いを推定できる)、そしてそれらが何回使われたかを把握することができる。
(eWEEK Evan Schuman)
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