グローバルSCMの構築で43%の在庫削減、21%の販売増を実現

グローバルSCMやDWH構築時に苦労するのは標準化や定義〜富士フイルム

2007/10/11

 米ラスベガスで開催中のテラデータのユーザーイベント「PARTNERS 2007」では、富士フイルムコンピューターシステム システム事業部 情報活用推進部 部長 下堀泉氏が、同社におけるテラデータの導入事例を説明した。

富士フイルムが取り組む3つの経営課題

下堀氏写真 富士フイルムコンピューターシステム システム事業部 情報活用推進部 部長
下堀泉氏

 富士フイルムグループは、持株会社の富士フイルムホールディングスを中核とした227社からなる企業グループ。資本金403億円、従業員7万6358名で2005年の売上高は2兆6670億円。コア事業は、デジカメやカラーフィルムなどのイメージングソリューション、映像機器や医療機器、録音メディアなどのインフォメーションソリューション、オフィスプリンタやオフィス関連機器などのドキュメントソリューションの3つ。売上比率は、ドキュメントが41%、インフォメーションが33%、イメージが26%となっている。

 下堀氏の所属する富士フイルムコンピューターシステムは、富士フイルムのIT子会社で1998年創立。135名の従業員と140名のコンサルタントが在籍する。コンサルティング業務やシステム設計などを手掛ける。

 現在、富士フイルムでは経営課題として、グローバルオペレーションの観点から連結会社のスピンオフやM&Aを視野に入れた「ビジネス環境の変化」、経営強化のための「連結経営の強化」、“ONE FUJIFILM”を実現するためにIT環境整備なども含めたビジョンを実現する「Vision75」の3つを挙げている。その背景には、部門ごとの壁による業務の横串展開の難しさが存在するという。

グローバルなSCMの構築で43%の在庫削減、21%の販売増を実現

 このような問題を踏まえて、同社ではVision75の中でIT戦略を策定。SCM情報管理システムや連携経営情報システム、グループ間をつなぐERPの開発、共通購買システム、グループ横断のDWHの構築などに取り組んだ。グローバルSCMシステムでは、世界各国の売り上げやサービス、開発などあらゆる情報を統合DWHで一元管理することを目指した。

 実際のグローバルSCMシステムでは、ワールドワイドでPSI(P:Production/Purchase、S:Sales、I:Inventory)を統一し、データ統合を図った。スケジュールとしては、まず2005年10月に日本や中国、ドイツなど9カ国で開始し、現在では28社、全体の70%が対応しているという。

 グローバルSCMシステムの概要は、関連会社の商品情報やPSI、見込み情報などがグローバルマスターDBに集められ、ETLを介してDWHに蓄積される仕組み。同社では、グローバルの企業を、地域ごとにアジア/オーストラリア地区、ヨーロッパ地区、北米地区の3つに分割し、時差に合わせてデータの更新時間をずらしてデータのアップロードを行っている。例えば、ETLであれば、アジア地区は7時30分〜10時30分、ヨーロッパは14時30分〜17時30分、北米は21時30分〜24時30分となる。

 レポートは、経営者向けと担当者向けに分類。経営者にはより広い視点のものを用意し、担当者には、その担当者に必要な範囲に絞ったより詳細なデータを提供する。

 また、このシステムを構築する際に、在庫状況が一目で分かるビューを用意した。これにより、販売や仕入れ状況、在庫数の経過などと組み合わせて閲覧することによって「なぜその会社に在庫がたまっているのか?」が判明し、在庫削減効果が非常に大きかったという。システム導入による効果は、在庫削減効果が43%、仕事の効率化が25%、在庫の効率化による販売増が21%、在庫のひっぱく状況が分かることによって航空便から船便へ切り替えたことによる航空輸送費削減効果が11%あった。

DWH構築時に最も苦労したのが、各国で異なるコードの標準化

 従来の富士フイルムのシステムでは部署や会社単位など、ロケーションごとにデータベースを構築していた。この場合には、扱うデータ量が少ないことなどから速度面などでメリットがあったものの、「コードが一致しない、項目がデータベースごとで定義が違うなど、統一するには非常に難しい問題が残っていた」(下堀氏)という。そこで今回のDWH構築時には、データをすべて一度DWHに集めてから再度変換して利用する方法を採用した。

 このDWHでは、ERPやレガシーシステムなどの各アプリケーションから寄せられるデータソースをDWHに格納。DWHから仮想的なアプリケーションサーバを通してユーザーに閲覧させたり、ビューを通して見せることもできる。

 そして、DWH構築時に最も考慮したのが“データ定義”だ。同社では、製造業向けのデータ定義テンプレートである「mLDM」(Manufacturing Logical Data Model)を採用した。

 BIは、経営者向けの分析用と担当者向けの定型レポートに分類。分析用は非定型で機能重視のツールが必要だったことからテラデータのBIツールを採用した。担当者向けは利用人数が多いことから「安価であることが重要だった」(下堀氏)とし、コグノスのツールを採用した。

 この際に苦労したのが“各国で異なる製品コードの標準化”だ。いままでは、各国の各部署や各企業ごとに製品コードが存在し、グループ全体の標準コードが存在しなかった。このため、まずグループ標準コード「OGCコード」を作成。OGCコードは、「最初にその商品を扱う企業のコードを採用する」というルールに則る。ただし、OGCコードはDWHなどに格納する際のものであり、すべての企業の製品コードをこれに統一するには至っていない。

 実際には、各国から送られてきたコードをETLを介してDWH/BIに格納し、そこでOGCコードに変換する。その際に、各国のローカルサーバやETLで変換してからDWHに格納する方法も考えられたが、各国のサーバなどの負荷を少しでも減らすためにDWHによる変換にした。

 下堀氏は最後に、「このようなグローバルな取り組みは、各国・各企業の協力が必須だ。しかし、協力を得ることは非常に難しい。今回の取り組みのポイントは、トップダウンで行った点だ。もし、ボトムアップだったら難しかっただろう。さらに、今回はCIOが企画とITの両方の部門を統括していた点もスムーズに展開した要因に挙げられるだろう」と今回のプロジェクトのポイントを説明した。

(@IT 大津心)

情報をお寄せください:



@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)