USNは次世代SNSとなるか

NIFTY-Serve化するmixi

2007/10/12

 SNSサービスの雄mixiは、NIFTY-Serveの末期に似た状態にあるのではないか。NIFTY-Serveというのは、ニフティが提供するISPおよびWebサービスとしての@niftyの前身であるパソコン通信ホスト局のことだ。パソコン通信時代の最大手だった。

 2002年にFriendsterの登場で始まったSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)ブームは、国や言語の違いで分断されているとはいえ、それぞれ版図が固まった感もある。

 しかし、それは見ようによってはパソコン通信時代末期の、大手ホスト局の群雄割拠に似ている。「ホスト局」というのは、今でいうISPのようなもので、利用者は、それぞれのホストを提供する事業者と契約し、特定の電話番号にダイヤルアップ接続することで掲示板やチャットルームなど個別のサービスを受けることができた。そうしたホスト局としては、米国にはCompuServeやFidoNetがあり、日本には富士通の子会社であるニフティが運営するNIFTY-Severと、現在のBIGLOBEにつながるPC-VANがあった。「草の根BBS」と呼ばれる個人運営のパソコン通信ホスト局も、星の数ほどあった。今では信じられないことだが、これらの各ホスト局の掲示板は互いに独立していて、会員だけがアクセスできた。電子メールも、一部の相互接続をのぞいて、会員間のやりとりに限られていた。

 1990年代後半に、これらパソコン通信ホスト各局に何が起こったか? 個別に存在する“ネットワーク”を互いに接続するという理念をもつ“インター=ネットワーク”(inter=network)、すなわちインターネットが普及し、その波に飲まれる形で自然消滅するか、@niftyのようにインターネット色を段階的に強めて転身するかした。NIFTY-Serveは会員にだけ閉じられた掲示板をしばらくはWeb上にも残したが、一般のインターネットユーザーから見ることのできない独自サービスは不評を買った。NIFTY-Serveの会員自身も各種Webサービスへ拡散していったことから、クローズドコミュニティとしての掲示板は維持できなくなった。

 このとき起こった変化と同様のことが、SNSの世界にも起こるのではないか。現在個別に閉じたネットワークを形成しているSNSは、相互接続性を高めるか、開かれた共通プラットフォームに移行する可能性がある。

 グーグルはOrkutの立ち上げで一度SNSに失敗しているが(ブラジル人向けSNSとしての大成功を成功と呼ぶのなら、Orkutは成功しているが)、彼らが次世代SNSとして考えているのは“USN”だと噂されている。Unified Social Network、つまり統合されたソーシャルネットワークだ。

SNSの本質はコミュニティとして閉じることか

 今さらだがmixiの特徴を挙げてみよう。それまでフラットだったインターネットの世界にmixiが作った空間の特徴を記者なりに列挙すると、「招待制」「クローズド」「非匿名的」「自己情報のコントロール可能性」「人と人とのつながりの定義」「人の活動履歴の見える化」「緩やかな情報共有によるコミュニケーション」「参加者間で醸成・共有されたコミュニティ感や安心感」「未知の人や情報とつながる可能性(セレンディピティ)」といったところになる。

 mixiは10月からWebページに新デザインを導入した。といっても、アクセス頻度が週に1度に満たない記者には間違い探しにすら思えるマイナーなデザイン変更だ。そのような変更でさえ、現在「デザインを元に戻して」と訴えるユーザーたちの署名活動が始まっている。そんなmixiユーザーを見ていると、mixiをmixiたらしめているいちばんの本質は「mixiに参加しているという帰属感」のようなものではないかと記者には思われる。そういう意味ではmixiは、SNS以上の何かかもしれない。

 そういう「コミュニティ」に愛着を感じるユーザーの心情は理解できる。その一方、招待制やクローズドといった特徴はユーザーが1000万を超えた今、もはや形骸化しているのも事実だろう。そうした今、改めてSNSの本質とは何かを考えると、“ソーシャル”という原義通りに「人と人とのつながり」と、そのメタ情報を利用したデータフローのコントロールこそSNSの本質ではないかと思える。

 とすれば、SNSが閉じたネットワークである必然性はない。むしろ、情報の流れをせき止めるクローズドという特性は、人をつなぐという本質と相反する面もある。

 今はmixiに一極集中しているから面倒さを感じないが、もう少しSNSが多様化してくれば、ユーザーにとってSNS同士の壁は、人のつながりを寸断し、データの流れを阻害する障壁になってくる。mixiにアカウントを持ち、それなりにアクセスしている人には実感しづらいかもしれないが、一気に“マイミク切り”をして事実上mixiから離れた記者などには、mixiの壁は、情報の壁以外の何物でもない。

 日本ほど一極集中していない米国で、SNSで定義された人のリンクを、ほかのSNSにインポートするような仕組みや、OpenIDといったSNS間の相互接続をにらんだ仕組み、あるいは後述するUSNが提唱されているのは興味深いことだ。

コミュニティではなくプラットフォームとしてのSNS

 人のつながりや人の活動を見える化してネットワーク化するSNSをプラットフォームとして扱う例が増えている。

 昨日(2007年10月11日)、NTTレゾナントが発表したSNSサービス「gooホーム」は、参入が遅かったこともあって、当初から招待制を排してオープンなプラットフォームを目指すとしている。コミュニティの掲示板はgooホームの非会員でも見ることができるし、ブログも設定によっては今まで通り、アクセス可能な範囲はインターネットグローバルだ。

 記者の受けた印象では、gooホームは、これまでのSNSサービスとは、かなり異なるものだ。gooというWebサービスのブランドにとってSNS機能は各種の情報サービスを提供するためのプラットフォームに過ぎない。人と人とをつなぐという意味でのSNSは、もはや基盤層でしかなく、その上で何をやるか、何ができるかこそが問われている。「何ができるか」の部分には、今後、外部サービスの取り込みも含まれてくるに違いない。そうしたとき、SNS同士やWebサービス同士の相互接続、あるいは相互乗り入れは重要になってくるだろう。さらに時代が進めば、パソコン通信ホスト局が拘泥した、ユーザーおよびユーザー生成コンテンツの囲い込みモデルが破綻したように、囲い込み型の大規模SNSも、いずれ破綻するときが来るだろう。特定の趣味を持つ人々だけ集めるSNSでもない限り、ユーザー側に囲い込まれるメリットがないからだ。

 SNSを基盤層として考えているのは、“エンタープライズ2.0”の標語の下、法人向けのイントラ情報システムで高いシェアを持つリアルコムも同じだ。同社は自社のソフトウェアの強みは、ユーザーのIDや活動、ファイルのメタデータまでを一括して管理するミドルウェア「Aurora Platform」にあるという。その上にどういうサービスを作り込むかは各組織のニーズに応じてコンサルティングを行ってから決める。当たり前のようだが、SNSで実現する「人をつなぐ」のは目的ではなく道具に過ぎないわけだ。

 mixiの過熱に、道具が目的に見えてしまう一時的な心理的熱狂があったと考えるのは記者だけだろうか。もちろんmixiも、当初こそ「SNSありき」だったものが、徐々に情報サービスを充実させていて、今後どう変わっていくのかは分からない。ただ、どうしても記者にはmixiが、末期のNIFTY-Serveに酷似して思われるのだ。

 もう1つ、SNSを基盤にした例として記者が注目したのが、NECが10月9日に発表したSaaS型のSNSサービス「Social Tool Mart」だ。SNS的な人脈管理システムを使い、コンテンツ管理やスケジュール管理といったサービスを法人向けに提供するものだ。ここでは、もはや「SNSサービスを提供する」という言葉が意味不明に思えてくるほど、SNSが各種サービス提供の前提に過ぎなくなっている。

 gooホームやNECのSocial Tool Martは、WebサービスにおけるSNSというものの位置付けが、大きく変わりつつあることを示す例だと記者は考える。SNSは、それ単体で意味のあるサービスではなく、あくまでも基盤に過ぎない。基盤としてのSNSは、今後その適用範囲を大きく広げて行くことになるだろう。

USNは次世代SNSとなるか

 グーグルが出資する「Socialstream」が、ちょっとした話題だ。Socialstreamは、米カーネギーメロン大学で進行中の研究プロジェクトだ。グーグルがSocialstreamを同社のSNSサービスであるOrkutに統合するか、新たにSocialstreamをOrkutと別のサービスとして立ち上げるのか、さまざまな憶測が飛び交っている。OrkutはOrkutで第1世代のSNSとして現状維持するとしても、グーグルにはYouTubeやGtalkなどを横串で突き刺して統合するSNS層が、現時点では欠けているようにも見える。

 Socialstreamは、各種SNSやWebサービスを統合する「SNSアグリゲーションサービス」と呼ぶべきものだ。プロジェクト発案者自身はUSN(Unified Social Network)と名付けている。メタSNSと呼んでもいいかもしれない。

 Socialstreamでは、ユーザーがホームページにアクセスすると、そのユーザーが登録している複数のSNSから情報を収集。各SNSにアクセスすることなく、友人の撮った最近の写真を見たり、メッセージを読んだり、あるいはそれに対してメッセージを書き込むことができる。単に寄せ集めるだけでなく、「タイムライン」という目新しいユーザーインターフェイスも備える。つながりのあるユーザーのアクティビティが、タイムライン上に一覧表示されるというものだ。

sns01.png USNという新しい概念を提唱する実験的プロジェクト、Socialstreamのユーザーホームページの画面

SNSの歴史はたかが5年

 ユーザーの獲得数という観点からいえば、mixiは圧倒的な一人勝ちを収めている。その集中具合が、mixiの使い勝手を増している面がある。しかし、多様なSNSアプリケーションや、SNS的なWebサービスが登場すれば事情は変わってくる。それらを組み合わせて使いたいとユーザーが考え、SNSは基盤でしかないと思うようになれば、mixiの求心力が弱まるときが来るだろう。あるいはNIFTY-Serveが@niftyへと変身しても活発なブログの利用率を誇るなどコミュニティのDNAを維持できたのと同様に、mixiも徐々にオープンになり、モデルを変えていくのかもしれない。

 2強体制だったパソコン通信の世界で、ライバルのPC-VANを引き離し、NIFTY-Serveの独走体制が固まったかに思えたころ、その独走を支えたビジネスモデル自体が足下から崩れた。それでもパソコン通信としてのNIFTY-Serveは20年間続いたサービスだ。1995年の時点では、そのサービスがインターネットなかで解消していくと考えた人は少なかっただろう。

 わずか5年ほどの歴史しかないSNSの世界。「mixiの独走で決まり」と考えるのは早計だ。次にやってくるかもしれない変化の兆しは、あちこちに見え始めている。

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(@IT 西村賢)

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