数々の疑問と憶測
BEAは市場の宝――買収しかけたオラクルの狙いは
2007/10/16
オラクルは10月12日、BEAシステムズを67億ドルで買収するという提案を行ったが、この提案は数々の疑問や憶測を呼んでいる。
過去2年間で36社の企業を獲得したオラクルの買収戦略は、同社の収益に貢献し、同社の市場シェアの拡大につながる大きな顧客ベースを持った企業を手に入れることを狙ったものである。金融サービス分野や通信業界で優良顧客を抱えるBEAも、オラクルの戦略にぴったり適合する。
しかしBEAに対するオラクルの申し出は、同社の「Fusion Middleware」戦略(およびアプリケーション戦略)にとって何を意味するのだろうか。オラクルはこの2年間、ミドルウェア戦略を前面に打ち出して自社のスイートの総合性を宣伝してきた。
また、オラクルの「Fusion Applications」スイートはFusion Middlewareを基盤とする。Fusion Applicationsでは、Oracle E-Business Suiteに、同社が買収した企業(PeopleSoft、JD Edwards、Siebel Systemsなど)の優れた機能が統合されるという。
BEAの買収後も、Fusion MiddlewareはFusion Applicationsの基盤であり続けるのだろうか。先週の時点では、11月にサンフランシスコで開催される「OpenWorld」カンファレンスにおいてオラクルがFusion Applicationsの出荷の大幅な延期を発表するのではないかという憶測が流れていた。同スイートは今のところ、2008年にリリースされる予定とされている。
IT調査会社、Deal Architectの創業者であるビニー・ミールチャンダニ氏は10月11日付のブログ記事の中で、「オラクルはOpenWorldで、Fusion Applicationsが早くても2009年まで延期になることを認めるだろう。同プロジェクトの技術責任者であるジョン・ウーキー氏がその責任を取って詰め腹を切らされるかもしれない」と記している。ウーキー氏ではなく、Fusion Middlewareを担当するトーマス・クリアン氏が責任を取らされるのではないかとの見方もある。Fusion Applicationsに関しては、BEAの買収という要因が絡んできたことで、さらに多くの憶測が飛び交うことになりそうだ。
金持ち企業が顧客に
オラクルの提案にBEAがどんな反応を示すかという問題もある。以前からオラクルの買収ターゲットとみられてきたBEAは、独立企業にとどまりたいという強い意思表示をしてきた。しかし同社の株価が着実に下落し、身売りを求める投資家からの圧力が強まるなど、BEA買収の条件は整ってきた。
Forrester Researchのアナリスト、レイ・ワング氏は10月12日付のブログ記事で、オラクルは戦いに備える必要があると指摘している。「SAP、 IBM、HP(Hewlett-Packard)などのベンダも、オラクル以上にBEAを欲しがっている。SAPのNetWeaverは非常に強力なエコシステムを築いているが、ミドルウェアプラットフォームとしては非常に貧弱だ」とワング氏は記している。
ワング氏によると、オラクルがBEAの買収を提案したのは、その顧客ベースが欲しいからだという。「BEAは通信業界と金融サービス業界の金持ち企業を顧客として抱えている」と同氏は述べている。
「IBMは、オラクルがミドルウェア分野を支配することに脅威を感じるだろう。HPは、この機会を市場での影響力の獲得に向けた出発点として利用する可能性がある。オラクルがBEAを買収すれば、独立企業としては最後の主要なミドルウェアプラットフォームプロバイダがなくなり、将来の競合企業には大きなインストールベースもサードパーティープレーヤーも残されていないことになる」(同氏)
さらにワング氏によると、BEAのアルフレッド・チュアング社長兼CEOが、同社を独立企業として維持することを望んでいるのは間違いないという。
10月7日にビジネス・オブジェクツの買収を発表したSAPは、従来の方針をほぼ180度転換し、組織的な成長と自社技術の強化を目的とした小規模企業の吸収型買収を目指すという方向を選択した。オラクルに強烈な対抗意識を燃やすSAPにとって、BEAは戦略の再転換のきっかけを与える可能性もある。
オラクルは、SAPの顧客をオラクルの技術で囲い込むことを狙った「SAP包囲戦略」を打ち出した。SAPおよびBEAの顧客企業は今後、オラクルの営業部隊の直接的なターゲットになるとみられる。
ワング氏によると、BEAの独立を維持するためにSI(システムインテグレーター)各社が連合を結成するという可能性も考えられるという。「BEAは市場の宝なのだ。同社の独立維持を望むSIは多い。顧客がBEAを選ぶのには理由がある。自分たちのニーズ合ったベストな製品だと考えているからだ。これらの顧客の1社がBEAを支援あるいは同社の独立を維持するために、自らBEAの買収に乗り出す可能性もある」と同氏は話す。
どちらを残すのか
オラクルによるBEAの買収提案をめぐる最大の疑問は、両社の製品間に重複する部分が多いため、オラクルがBEAのミドルウェア技術をFusion Middlewareに組み込むつもりなのか、それともBEAの技術を別個のスタックとして利用するのかという点だ。
「問題は、FusionとBEAのAquaLogicミドルウェアのどちらが残るのかということだ。両方を抱えておく意味がないからだ」とワング氏は話す。
異なる見解を抱くアナリストもいる。AMR Researchのアナリスト、ビル・スワントン氏によると、最大の疑問は、技術的な観点からオラクルはBEAをどうするつもりなのかということだという。「よく見れば、SOAプラットフォームに関してはBEAの方が大きな成功を収めている。彼らはオラクルよりもずっと先を進んでいる」と同氏は指摘する。「BEAは通信および金融業界でオラクルよりもはるかに大きな契約を結んでおり、その顧客ベースはオラクルにとって魅力的だといえる」。
スワントン氏は5月に公表した報告書「SOA and BPM for Enterprise: A Dose of Reality」(SOAとBPM:企業にとっての現実)の中で、オラクルの技術とBEA(ならびにIBM、SAP、Tibco、WebMethods)の技術を比較している。
スワントン氏はこの調査を通じて、BEAの技術がオラクルの技術よりも優れている点がいくつかあることが分かったという。「BEAのサービスレジストリとリポジトリの方が、はるかに完成度が高い。優れたユーザーインターフェイスと優れたBAM(Business Activity Monitoring)機能を備え、BPM(Business Process Management)技術もオラクルの技術より少し優れている」と同氏。
「BEAのレジストリ、リポジトリ、ユーザーインターフェイス、BAM、BPMの各技術はすべて、Fusion Middlewareで直接利用することができる」とスワントン氏は指摘する。
一方、Enterprise Applications Consultingのジョシュア・グリーンバウム社長によると、オラクルはBEAよりも広範な統合プラットフォームを提供しているという。「Fusion Middlewareには、オラクルが持っているアプリケーションスタックに組み込める機能が非常にたくさんある」と同氏は話す。
オラクルの買収提案は、BEAの幹部にとっては朗報ではないかもしれないが、同社の顧客には好意的に受け止められるとグリーンバウム氏は考えている。「BEAの顧客は長期的な凋落傾向にある企業に頼ってきた。今回の買収提案は、オラクル技術をスムーズに導入するチャンスを顧客に与えるものだ」と同氏は語る。
BEA顧客を取り込み、移行させる
グリーンバウム氏によると、BEAの買収を狙うオラクルの動機は基本的に顧客志向であり、技術志向ではないという。「BEAの顧客を取り込み、アプリケーション分野でやったのと同様の作戦を展開しようというわけだ。まずメンテナンスビジネスを手に入れ、最終的にこれらの顧客をオラクルに移行させるというのが同社の作戦だ」と同氏は分析する。
オラクルは実際、買収を通じてアプリケーション事業を拡大してきた。同社は2005年、敵対的買収をめぐる戦いの末、大手ERP (Enterprise Resource Planning)ベンダのPeopleSoftを手中に収めた。PeopleSoftは当時、もう1社のERPベンダーであるJD Edwardsを100億ドルを超える金額で買収したばかりだった。
オラクルはPeopleSoftの買収で自社の顧客ベースを大幅に拡大する一方で、アプリケーション企業の買収を続け、2006年にはSiebel Systemsを、今年5月にはAgileを手に入れた(買収金額はそれぞれ58億5000万ドルと4億9500万ドル)。
オラクルがソフトウェアベンダの買収で狙っているのは、データベースとミドルウェアとアプリケーションを連携するという戦略の推進であり、BEAの技術もこの戦略に適合する。
「これはまさにワンストッピングショッピング戦略だ」とグリーンバウム氏は語り、ミドルウェア技術はコモディティ化しつつあり、戦略的優位としての意味が薄れてきたと指摘する。「現在では、一種の宗教的な熱意からミドルウェアを採用するユーザーはいない」(同氏)
(eWEEK Renee Boucher Ferguson)
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