新動画プレーヤーとコミュニティサイトで「市場を盛り上げる」
動画市場に新風、リアルが新戦略を発表
2007/10/18
リアルネットワークスは10月18日、マルチメディアプレーヤーの最新バージョンとなる「リアルプレーヤー11」を発表した。11月末からWindowsプラットフォーム向け日本語版ベータの無償ダウンロード提供開始する。正式版提供は2008年以降。
これまで独自の動画フォーマットを含む動画プレーヤーとして知られてきたリアルプレーヤーだが、新バージョンではビジネスモデルを大きく転換。既存動画サイトの映像コンテンツをクリック1つでダウンロードする機能や、視聴した動画コンテンツについてのブログエントリをその場で作成してコメントを書く機能などを採り入れた。来日して会見した米リアルネットワークス会長兼CEOのロブ・グレーザー(Rob Glaser)氏は「今回の新バージョンは12年前に最初のバージョンをリリースして以来の大きなステップ」と語り、「動画サイトやメディア企業と、それを視聴するユーザーの間に立って、その結びつきを支援していきたい」とした。
YouTube動画をまとめてダウンロード、iPodへの転送も可能
新プレーヤーは独立したアプリケーションとして各種フォーマットの動画の再生が行えるほか、Webブラウザのプラグインとして動画サイトの動画再生もできる。Webブラウザ中のプラグインで再生中の動画にマウスを載せるとダウンロードボタンが現われ、ワンクリックで動画を自分のPCに保存できる。複数同時にダウンロードすることもでき、有償プラグインのiPod転送機能を用いれば、気になった動画を連続でダウンロードしておいて、iPodで見るといったことができる。
これまで動画や音楽をCDに書き込む機能は備えていたが、新たにロキシオ製の簡易DVDオーサリングの有償プラグインも用意した。ダウンロードした動画を、メディアライブラリからドラッグ&ドロップしてDVDを作成できる。
iPod転送プラグイン、DVDオーサリングプラグインの価格は未定。DVDではMPEG-2、iPodにはMPEG-4にトランスコードして転送する。「MPEGのライセンス料がかかるため、プレーヤー本体同様にフリーで提供するのは不可能」(グレーザー氏)としている。
動画投稿ができない動画ブログ・コミュニティサイト
米国向けプレーヤーでは、動画リンクを他のユーザーとシェアする仕組みを用意したが、日本向けプレーヤーではリアルが提供する新ブログサイト「Cliplog」(クリップログ)を用意した。
動画の視聴が終わると「動画ブログに書く」というメニューが現れる。クリックすると、あらかじめユーザー登録したIDでブログエントリが作成され、動画へのリンクが入った記事がすぐに書き込めるようになっている。「これは動画プレーヤーを開発している会社にしかできないこと」(同社日本法人 取締役事業本部長 伊藤隆博氏)で、「ブログやコメントは書けるが、動画コンテンツの投稿を受け付けるわけではない」(伊藤氏)という。動画自体は動画サイトやメディア企業のものをリンクする形で取り込み、「トラフィックを自分のところに集めて終わりではない。動画市場を広げることが、われわれの使命」(伊藤氏)という発想だ。プレーヤーには動画の検索機能を搭載したが、これもユーザーをメディア側に導くという同社のスタンスの現れだという。
Cliplogではブログサービスのほかにも、同じ興味を持つユーザー同士を結びつけるコミュニティサービスを展開する。例えば、同一ジャンルの動画を何回見たかでランキング表を公開する。「ランボルギーニの動画を10月だけで200回再生しているとしたら、そのランキングが出る」(伊藤氏)。150回再生した2位の人は、1位の人のブログを見て、そこでつながりができる。
波乱の来歴、変遷するビジネスモデル
リアルネットワークスはマルチメディアプレーヤーの草分け的存在。1995年に元マイクロソフト社員のロブ・グレーザー氏が、業界で初めて音声データのストリーム配信という技術分野を開拓して創業(創業時の社名はプログレッシブ・ネットワークス)。1997年にビデオ配信技術でも先陣を切り、追随する他社をリードした。
リアルプレーヤーはインターネット黎明期には高いシェアを持っていたが、その後はマイクロソフトのOSに標準でバンドルされているWindows Media Playerにシェアを奪われた。
デスクトップOSでの支配的立場を濫用して他社を排除するマイクロソフトのビジネス行為は、独占禁止法違反として非難された。2004年3月には欧州委員会がEU競争法違反と認定して4億9700万ユーロの制裁金を課す決定を行った。その後、控訴審を経て2007年9月にこの裁定は確定。マイクロソフトは欧州でメディアプレーヤーなしのWindowsも発売している。
同じく2004年12月、リアルネットワークスは米国で独占禁止法違反としてマイクロソフトを提訴。2005年10月に両社は4億6000万ドルで和解が成立している。
OSの市場支配力を濫用したマイクロソフトにシェアを大幅に奪われたという事実認定は行われたが、リアルプレーヤーが失ったシェアを戻すことはなかった。
第2期を経て、第3期へ
しかしこの間、第2期ともいうべき同社の歴史のなかで、ダウンロード課金型のゲームや、定額制の音楽配信などで順調に収益を伸ばしている。また日本ではあまり知られていないが発信側に聞こえる携帯電話の呼び出し音を音楽に変える「リング・バック・トーン」と呼ばれる携帯電話向けの音楽配信ビジネスでも、同社は収益を上げているという。2007年上半期の収益は2億6600万ドル。従業員数もワールドワイドで1650名を数える。
こうしたビジネスは現在進行中だ。現在個人向けに月額945円で提供している定額制音楽配信サービスの「RealMusic」を、ちょうどUSEN440のように「マンションやネットカフェなどB2Bでもニーズがあれば考えていきたい」(伊藤氏)とするほか、現在ダウンロード課金や月額788円の定額制としているゲームでも、「次は広告ベースの無償ゲームサービスを考えている。このジャンルは欧米では驚くべき売り上げを上げている」(伊藤氏)など、新しいビジネスモデルの模索を続ける。
今回の新プレーヤーとコミュニティサイトの立ち上げは、リアル社にとって第3期ともいうべきビジネスだ。動画サイトやメディア企業と競合せず、利便性を追求したメディアプレーヤーを手がかりにコミュニティ形成を狙う。「動画サイト企業とも提携したいと考えている」(伊藤氏)という同社の新戦略は新鮮だ。盛り上がるオンライン動画市場で、取り残された感が強かった動画プレーヤーが、新たな台風の目となるかもしれない。
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