NRIが生活者1万人アンケートを実施し、IT消費動向を分析
インターネットではなくブロードバンドが消費を変えた
2007/10/24
野村総合研究所(NRI)は10月24日、第64回メディアフォーラムを開催し、同社が実施した1万人アンケート調査から判明したIT消費の動向について、NRI サービス事業コンサルティング部 上級コンサルタント 塩崎潤一氏が解説した。
景気観は良好、プレミアム消費と利便性消費が伸びる
調査は、NRIが「生活者1万人アンケート調査」として2006年に実施。1997年から3年おきに実施しているもので今回が4回目となる。調査は全国の満15歳〜69歳の男女個人を対象に実施したもので、調査方法は自宅に調査用紙を配布し、その後回収に行く「訪問留置法」を採用。回収サンプルは1万71人。塩崎氏は、「インターネットアンケートでは1万規模は珍しくないが、この調査は訪問留置法を採用している点がポイントだ。訪問留置法でこの規模の調査をやっている民間企業はほかにはないだろう。1万人規模で実施したからこそ見えてくるものもある」とアピールした。
調査は年収や貯蓄額、株式保有率などの「財産・金融」や、パソコンやデジタルカメラなどの「商品保有率」、スーパーマーケットなどの「チャネル利用回数」、インターネット利用率やADSLなどの「インターネット接触」、健康や雇用などに対する「直面している不安」といった7項目について行われた。
調査を見ると、「今年から来年にかけて景気がどうなると考えているか」については、“よくなる”が18.3%で2003年の8.4%から大幅に改善しており、景気観は良好なようだ。チャネルの利用状況では百貨店の利用割合が低下、それに反比例して大型家庭電気店やショッピングモールの利用が増加した。また、コンビニの利用頻度が増加している半面、一般商店街の利用頻度は低下している。
塩崎氏は消費スタイルにも注目。自分が気に入った付加価値には高価であっても対価を支払う「プレミアム消費」が2006年には19%に増加(2003年18%)、とにかく安い製品を購入する「安さ納得消費」は2006年には32%に低下(同34%)した。また、こだわりの商品を少しでも安く買おうとする「徹底探索消費」は2006年は13%で横ばい(同13%)、購入時に安さよりも利便性を重視する「利便性消費」が2006年には36%で微増(同35%)した。
これらの点について同氏は、「利便性消費は、ある意味何も考えていないともいえる。この形は40〜50代男性に多い。これは、日本のように『○○のブランドなら安心できる』『△△さんのいうことなら信用できる』という信頼度の高い社会ならではだ。欧米にはない消費行動だろう。中国では、商品が信用できないことから数年前までは徹底探索消費が圧倒的に多かったが、昨今は利便性消費に移行しつつある。少しづつ日本化してきているのかもしれない」と解説した。
ブロードバンドが第3の革命を起こし、消費情報の主権交代が起きた
パソコン利用は、2000年からの6年間で大幅に上昇。利用頻度は「ほぼ毎日」が2000年の21.8%から2006年には37.9%に、インターネット利用頻度も「ほぼ毎日」が同25.9%から同47.8%に上昇した。
消費面でも、日用雑貨品はインターネットを活用した情報収集は少ないが、電気製品や自動車、旅行などの比較的大型消費になると、企業のHPや商品比較サイト、掲示板・ブログなどでの情報収集が盛んに行われることが分かった。これらの点について塩崎氏は、「最大の要因はブロードバンドの普及だ。電話、テレビに次ぐ第3の革命といえるほどだ。ブロードバンドは2002年の5%から2006年には39%にまで拡大した。ブロードバンドにって常時接続が当たり前となり、消費スタイルに大きく影響を与えている」と分析した。
実際、インターネット利用率は、先進層を中心に追従層、大衆層でも増加。特に大衆層は2003年の36.6%から2006年には49.2%に、無関心層も同22.3%から同34.0%へ拡大するなど、大衆層でも大きく浸透してきていることが分かった。インターネットショッピングでは、20代が2003年の22.6%から2006年には35.7%へ、30代も同24.5%から同35.7%へ増加。インターネットオークションも、20代で同14.2%から同22.7%へ、30代で同12.7%から同21.5%へ増加しており、20代〜40代を中心に急増していることが分かる。
また、ブロードバンドの普及によって情報の検索が当たり前となり、よく「検討」し、「評判」を気にするユーザーが増えたようだ。例えば、「よく検討してから買う」と回答したユーザーは、2003年の58.5%から2006年には62.0%へ。「使っている人の評判が気になる」は、同16.2%から同20.9%へ増加している。
そのほか、インターネットが信頼できるメディアへとなりつつあるようだ。「インターネット上の情報に対する信頼」では、10代〜30代はおおむね40%台で推移。50代は2003年の26.6%が2006年には29.8%へ、60代の同15.5%から同19.4%へ増加している。この点については、「以前は2ちゃんねるなどが、熟年層のインターネット情報の信頼度を下げていたが、現在では若年層を中心に情報の取捨選択ができるようになってきた点が大きい」(塩崎氏)とコメントした。
そして、塩崎氏が強調するのが、「消費情報の主権交代」だ。従来であれば、企業側は商品情報をマス広告を通じて自社に都合の良い情報だけを流していた。また、インターネット普及後であっても、商品情報は自社HPなど限られた場所だけにしか掲載されていないため、コントロール可能だった。しかし、ブロードバンド普及後は、ブログや掲示板、口コミサイトの登場により、CGM(Consumer Generated Media)に主権が移動。利用者の欲しい情報を利用者自身が発信できるようになったという。「これにより、企業のマーケティング戦略は大きく転換せざるを得なくなっている」(塩崎氏)と語った。
すべての消費に対して消費者は“検索”するようになる
塩崎氏は、ブロードバンドの普及によって消費者がITを使いこなすようになり、GoogleやAmazonを使いこなす“グーグルゾン消費”が台頭。商品の良い点だけでなく、悪い点や価格に関する情報を検索で手に入れてから消費に移るようになっていくと指摘した。
そして、このようにITを使いこなすことで10種類の新しい消費スタイルが創造されているという。1つ目がテレビを見ながらPCを同時に立ち上げ、CMを見ながら購入する「ダブルウィンドウ消費」。Googleアラートや米リバースオークションなど、欲しい商品を登録しておいて見つかったら購入する「アラート消費」。サンプル百貨店などで試してから購入する「テイスティング消費」。欲しいものをメーカーに作ってもらう「オーダーメイド消費」。死に筋商品でも購入できる「ロングテール消費」。テレビなどの影響で突発的に消費量が拡大する「スパイク消費」。商品の普及が急速に立ち上がる「スカイロケット消費」。高くても好きなものを購入する「一点豪華消費」。使いかけの化粧品なども買えるオークションなどの「使い回し消費」。情報を自分で取捨選択する「自己責任消費」の10種類だ。
塩崎氏は、「ブロードバンドで消費情報が増加し、ユーザーは検索すればさまざまな情報を入手できるようになった。これは、IT消費に大きく貢献しているだろう。一方で、ユーザー自身で情報の取捨選択をしなければならなくなり、自己責任は増している。また、企業側もマーケティング手法を大きく変えなければならなくなってきている。米国などで主流となりつつあるMarketing ROIなども取り入れていかなければならないだろう」とコメントした。
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