Web 2.0 EXPO Tokyo 2007基調講演レポート
Twitter創始者が語るWeb 2.0の要諦
2007/11/16
東京・渋谷で開催中の「Web2.0 EXPO Tokyo 2007」の基調講演に11月16日、Twitter創始者のエヴァン・ウィリアム(Evan Williams)氏が登場した。Web 2.0の顔とも言えるティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏と対談し、これまでのウィリアム氏の来歴や、なぜTwitterが注目を集めているかなどを語った。
Blogger、Odeo、Twitter……、失敗と成功の繰り返し
ウィリアム氏はTwitterプロジェクトを始めるまでに失敗と成功を繰り返した経緯を持つ、ある意味では典型的なシリコンバレーの起業家だ。最初の会社は1993年、21才のときに出身地のネブラスカで始めた。大学はドロップアウト。「ほかの人たちや組織のために働くのが、ずっと嫌いだった」という彼は、組織に属することは「自分の性に合わない」と話す。“権威”も気にしない。
最初の会社は3年ほどで失敗。シリコンバレーのあるカリフォルニア州に移住して、出版社のオライリー・メディアに入る。雇用する側だったオライリー氏は振り返る。「うちの会社にいたのは9カ月? どうして、こんなやり方でやってるんだって、いつも口にしていたね」。
1999年にWeb上のコラボレーションツールを提供する目的で「Pyra Labs」を起業。最初の基本機能の実装を後にBlogger.comとして同年8月に一般公開。当時まだ目新しかったキーワード「ブログ」のホスティングサイトとして話題を集めた。2000年前後のドットコムバブルの煽りで資金難の時期を乗り越え、Blogger.comは2003年にはグーグルによって買収される。ドットコムバブルの時代を振り返り、ウィリアム氏はいう。「つらい時期だった。レイオフもあった。でも、やめなかった。もともとそんなに大所帯になったことは1度もなかったしね」。お金や人を集めすぎなかったことが、ネットバブル崩壊の時代を生き延びられた理由の1つだという。
買収されグーグルに加わったウィリアム氏だが、そのグーグルも2年ほどで去る。グーグルならBlogger.comをもっと大きく育てられると考えたこともあるが、組織に属するのが嫌いという氏の性格が影響したという。「グーグルは、すばらしい場所だった。今みたいに巨大じゃなかったし、まだ社員も800人ほど。でも、ぼくにとっては、それでも多すぎたんだ」(ウィリアム氏)。
グーグルを去った後、今度はWeb上でポッドキャスト関連のサービスを提供するベンチャー企業「Odeo」をノア・グラス氏(Noah Glass)とともに立ち上げる。「当時、ポッドキャスティングは大きな注目を集めていた。だけど、まだ商業向けのサービスはなかった」(ウィリアム氏)。資金は多く集まった。
第三者から見れば、Odeoはさい先のよいスタートを切った順風満帆のベンチャーだったが、ウィリアム氏は違った感想を持ったようだ。「資金が潤沢で経営陣が増えることで当惑した。周囲からは成長への期待もあるし、プロダクトの成長や成功より、会社自体にフォーカスがあった。そうしたことに、ぼくは違和感を感じていたんだ」。
Railsを使って2週間でプロトタイプが完成
ウィリアム氏がOdeo内で始めた小さなプロジェクトが「Twitter」だ。Ruby on Railsを使って2週間で最初の動くバージョンを作り上げたという。
「2週間というのは、1つのプロジェクトで2、3年かかる大企業向けシステムの開発とは、ずいぶん違うモデルだね。開発期間が3年の予定のプロジェクトで、1年が経過した時点で『3年遅れ』ということがあるぐらいだからね(笑)」(オライリー氏)
「Web 2.0カルチャーの中にいると当たり前のことだから忘れていますが、確かにRailsの生産性の高さは普通じゃないですね。文字通り一晩でできちゃうんです。もちろん作ったコードに対してまたスケーラビリティや堅牢性を追加していかないといけないわけですが、プロトタイプが短期間でできるというのは重要です。ちょっと試してみて、ユーザーが気に入るようなら、さらに追加投資するといったことができますから。たくさん資金を集めるのはWeb 1.0的ですね。Web 2.0ではいくつかの小さなアイデアを形にして走り始めて、その後にお金を集めるんです」(ウィリアム氏)
「Railsで書くということは、どのぐらい重要なこと?」(オライリー氏)
「作成するアプリケーションによりますね。例えば検索エンジンのようなものは、高度なアルゴリズムを使った超高速でロバストな処理が求められますから、Javaで書いたほうがいいでしょう。でも、Twitterみたいに機能の追加や試行錯誤を繰り返すアプリケーションでは、Railsは威力を発揮しますよ」(ウィリアム氏)
「これ、何に使うの?」というTwitterへの疑問
Twitterはこれまでにない独自のリアル・タイムコミュニケーションツールだ。メッセージの多くは、たわいない身辺の雑記や独り言。140バイトの短いメッセージを「フォロワー」たちが見るともなしに見て、反応したり、しなかったりする。
そうした機能説明を聞くと、最初は誰もが「何がうれしくて、そんなことするの?」という反応をする。「でも騒ぎが大きくなり、みんなTwitterを試してみる。使ってみたら、みんな中毒」(オライリー氏)というのが1つのパターンだ。
Twitterとは、そもそも何なのか? オライリー氏の本質に迫る質問に対してウィリアム氏は答える。
「それはぼくにも分からないんだよね。サービスのデザインは最も難しいところ。いろんな使い方ができるように柔軟にすることが大事。カギは、サービスをシンプルにすることと、本来の目的と違う目的で利用ができる再利用性を高めること」(ウィリアム氏)。
Twitterでは、これまで本当に近しい家族や友人に口頭でしか知らせなかったような情報を広くパブリックにする。すると、「月に1度も合わない友だちや、地球の裏側にいる友だちともつながる」(オライリー氏)という“つながり”の新鮮な感覚が得られる。
ただつながるだけではない。「制限さえしなければ、ユーザーはいろいろな使い方を思いつくもの」(ウィリアム氏)というのがTwitterの本質の1つだ。例えばTwitterにはメッセージに対してコメントを付ける機能はないが、ニックネームの前に「@」を付けて特定の誰かのメッセージにコメントするという慣習が広まった。今ではこの記法をサポートする新機能もあるという。
「今のところビジネスモデルはない」
APIを公開したことで、さらに使い方は広まった。
携帯電話やインスタントメッセンジャーと連携するサービスや地図と連携したマッシュアップサービスなど、現在、Twitterに何らかの付加価値を付けた数十のサービスが利用できる。日本語でも携帯電話からTwitterにアクセスできるゲートウェイサービスがある。
そのほか、外部のタイマーと組み合わせてリマインダー機能を実現した人や、ECサイトの在庫状況をアナウンスするのに使っているようなケースもあるという。「今のところビジネスモデルというようなものは何もありません。APIを使った第三者によるサービスによって、われわれは利益を得ていませんが、さまざまなサービスが出てくることでTwitterの価値が上がる。今は価値を高めることに注力しています。これが、どうやってお金に結びつくのか今のところ分かりません。でも、リアルタイムコミュニケーションは便利なものなのです」(ウィリアム氏)
ウィリアム氏によれば、Twitterのトラフィックの20%は日本からのものだという。開発リソースの問題で現在着手できていないが、メニューの日本語化は優先順位の高い課題だという。
汎用性が高く、無目的であるため、何に使っていいのか分からず戸惑う人の多いTwitter。現在はSNSやブログと異なるソーシャルメディアとして一部のユーザーが受け入れているだけの状況だ。しかし、ブログの使われ方が多様化した過程と同じことが起こりえるとしたら、Twitterのポテンシャルは高い。
日々の記録をWebページで公開するというだけのブログも、最初は物好きだけが使っていた。その後、企業のWebサイト全体を管理するCMS(Contents Management System)としても使われるようになったし、マーケティングやイベント関係など情報更新の多いWebサイトでも使われている。エンタープライズ2.0のかけ声とともに組織内の情報共有インフラとしても使われるようになっている。
少ない資金で小回り良く始めること、サービスをシンプルで自由度の高いものにしてユーザー自身に使い方を考え出してもらうこと。Blogger.comとTwitterというきわめてWeb 2.0的なサービスを立ち上げたウィリアム氏の話は示唆に富む。
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