映画予告を動画配信
GyaOがMS「Silverlight」採用――Flash Video落選のわけは?
2007/11/19
マイクロソフトは11月19日、USENが運営する動画配信サービス「GyaO」がマイクロソフトの「Microsoft Silverlight」を使った動画配信を始めたと発表した。大手サイトのSilverlight採用は国内で初めて。動画配信ではYouTubeやニコニコ動画が採用するFlash Videoが広く利用されているが、マイクロソフトはWindows環境との親和性の高さを武器にシェアの獲得を目指す。
Silverlightによる動画配信を始めたのは「GAGA USEN」の映画予告ページ。最新映画を紹介するWebサイトをSilverlightで構築し、動画を配信している。全画面での表示も可能だ。GyaOはこれまでWindows Media Videoで動画を配信してきたが、「カスタマサポートにはMacで見たいという、とても熱い思いが多く寄せられていた」(USEN GyaO事業本部 第一メディア局 WEB制作部 部長 高野輝次氏)といい、クロスプラットフォームの対応は必須条件だった。
Macユーザーに動画を配信するにはQuickTime、クロスプラットフォームならFlashビデオが有力。実際、USENはQuickTime、Flashビデオでの配信を実験的に行ったこともある。しかし、QuickTimeではコンテンツ管理や広告配信で要求を満たせず、Flashビデオではアクセスログの取得、分析機能が貧弱で、ユーザーの動向が読めないという問題があった。また、Windows Media Videoと比べると、DRM(デジタルライツマネジメント)機能が劣り、コンテンツプロバイダーを説得できないとの考えもあった。
USENがSilverlightを採用した理由はもう1つある。それは「すでにある数十万コンテンツのフォーマットをWindows Media Videoから別フォーマットに変更するのは現実的でない」ということ。フォーマット変更をはじめ、配信システムの大規模な改修が必要になりコストがかさむ。「いままでFlashビデオを使うという議論も内部で浮かんでは消えてきた。しかし、DRMをかけたWindows Media Videoを使うということはぶれなかった」という。
USENはSilverlightでクロスプラットフォーム対応やDRM、既存資産の活用などの問題を「一挙に解決できる」と期待する。現在1.0のSilverlightが1.1にバージョンアップし、DRM機能を備えるのが2008年前半。USENは1.1登場を機にSilverlightをGyaO本編の一部に適用する考えだ。Flash Playerと比べるとまだまだ低いSilverlightプラグインの普及率が高まってくるのを待って、GyaO全体に展開する。マイクロソフトはSilverlightプラグインの普及率の目標を明らかにしておらず、同社 デベロッパー&プラットフォーム統括本部 シニア プロダクトマネージャー 春日井良隆氏は「なるべく早く100%の普及率にしたい」と語るのみだった。
Silverlightを使った面白いコンテンツが増えることでプラグインの普及が期待できるが、高野氏はマイクロソフトに「運用しやすい環境やデータベースと柔軟に連携できる汎用性がもっと必要」と注文をつける。特に開発ツールが未整備のため「Silverlightはデザイナー1人では扱いづらい状況だ。Flashのように1人で開発できるようにしてほしい」と指摘。開発者コミュニティがこれからということもあり、「Googleで(Silverlightの調べ物を)検索しても何も出なかった」という状況もある。高野氏は「ナレッジの充実も必要」と話した。結果的に今回のGyaOでのSilverlight導入では「やりたかったことの半分しかできなかった」という。
YouTubeやニコニコ動画が急成長したのはWebブラウザ上ですぐに再生でき、ブログなどに簡単に埋め込めるFlash Videoの身軽さがエンドユーザーに受けた面もある。Flash Videoを使った動画共有サービスでは画質の悪さも指摘されることが多いが、高精細(HD)ビデオ再生を可能にする「H.264」対応の最新版「Flash Player 9」がまもなくリリースされる予定で、デビューしたてのSilverlightにとっては依然として強敵だ。配信企業や開発側のメリットだけでなく、エンドユーザーが感じることができるFlashにない明確なメリットをSilverlightが打ち出すことができるか――マイクロソフトの舵取りは難しい。
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