Internet Week 2007レポート
IPアドレス枯渇問題、「ろくな対策はないが、IPv6はまだまし」
2007/11/20
IPv4アドレス枯渇問題が再浮上している。枯渇が予想される2011年までに対策を議論するため、総務省は2007年8月に「インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会」を発足。これまで会合を2度開催している。
11月19日から4日間の予定で始まったInternet Week 2007の2日目、「IPv4アドレス在庫枯渇問題見通す」と題したセッションが行われ、最新動向報告が行われた。
石油資源の枯渇問題と似て、かつて“なくなる”と言われたものが、今でもなくなっていないことから、IPアドレスが枯渇するという予測自体に疑問が呈されることも少なくない。「かつて2002年の段階で『2006年にIPv4のアドレスがなくなる』とぶち上げた総務省の研究会報告があったため、われわれが言っても『本当になくなるのか』と各方面から突っ込みが入る」(総務省 総合通信基盤局 データ通信課 課長補佐 高村信氏)。
その一方、ネットワーク関係者の間では「遅くとも2013年、現在の予測では2011年には各国のアドレス在庫がなくなる」(社団法人 日本ネットワークインフォメーションセンター 前村昌紀氏)という見方が強まっている。
2007年11月時点でIANA(Internet Assigned Numbers Authority)が保持し、欧州やアジア、アフリカといった各地域のRIR(Regional Interenet Registry)に割り振ることができる、いわゆる“/8”のアドレスブロックは42個。2000年の段階で100個以上残っていたものが半分以下となっている。欧州やBRICsをはじめとする新興国でブロードバンド接続が普及しつつある現在、RIRからのアドレスの割り当て要求は加速している。例えば、アジア圏のアドレスを管轄するAPNICが2007年に割り振ったアドレスの過半数は中国向け。在庫が払底するのは時間の問題だ。
現在、最も引き合いに出される枯渇時期予測の数字はAPINICのジェフ・ヒューストン(Geoff Huston)氏の予測モデルに基づくものが多い。ヒューストン氏がWebページで公開している考察と統計データによれば、現在のペースでアドレス消費が進めば、まずIANAのアドレス在庫が2010年9月29日に枯渇し、それに引き続き、RIRのアドレス在庫は2011年7月23日に枯渇する。それが2007年11月20日現在の予測だ。
高村氏は「枯渇する時期の予測は難しいが、実際になくなってからでは準備が間に合わない」と話す。予測が難しいのは、IANAのブロック割り当てが、現在の“/8”ブロック(1677万個)単位ではなく、“/12”(105万個)ブロック単位など細かくなって延命する可能性や、IPv4アドレスの売買を行う市場が登場して、割り当て済みアドレスが市場に戻ってくる可能性もあるからだ。
ただ、売買市場の整備やアドレスの再割り当てはコストがかさむため見通しは明るくない。
アドレスの再利用については、ネットワーク変更のコストがかかりすぎるため「かつてクラスAで割り当てたアドレスブロック49個のうち、戻ってくる可能性がありそうなのは20個程度。その半分の、さらに半分のアドレスが実際戻るとすると5個程度ではないか」(前村氏)という。インターネット黎明期の割り当てポリシーの曖昧さもあり、IANAやRIRが、すでにアドレスを保有する組織に対してアドレスの強制返還を求める法的根拠も乏しい。任意のアドレスの地理的配置を市場に任せて動かすと、ルータのルーティング処理が破綻を来すという技術上の制約もある。
アドレス枯渇問題に対してあり得る打開策としては、NATなど既存のアドレス変換技術を活用する方法もある。ただ、この方法も変換テーブルが小規模から大規模になったときに、どこまでスケールするのか、どこまでコストがかかるのか不透明だ。高村氏は家庭内ブロードバンドルータを例に取り、処理能力上の制約を説明する。「Ajaxなどの技術が出てきて、1台のPCで50本のセッションを張るようなWebアプリケーションも登場している。すると、家庭用ブロードバンドルータではPCを2台同時に使うだけで過負荷で使えなくなる」。今後、これまでにない規模のネットワークでNATを使って発生するコストや制約を予測するのは難しい。高村氏は、枯渇問題に対する方策には「正直ろくな案がないが、IPv6はコストが見積もれるだけまし」と話した。
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