ガートナーが警告
国産ベンダが目覚める前にエンジニアの空洞化が始まる
2007/11/30
ガートナー ジャパンは11月30日、同社のイベント「Gartner SYMPOSIUM ITXPO 2007」でメディア向けのセッションを開催し、「日本の大手ベンダはオープン化で欧米のベンダに遅れて、また次の時代にも周回遅れになりそうになっている。20年は遅れる」(同社 ITインフラストラクチャ バイス プレジデント 亦賀忠明氏)と警告した。
ガートナーがこう警告する背景には、米国でグーグルが急成長し、IBMやオラクル、SAPなどの既存の大手ベンダに売り上げで迫りつつあることがある。グーグルは積極的な企業買収や、ユーザー指向のサービス開発、クラウド・コンピューティングの推進などで他社を圧倒。IBMなどもグーグルを最大のライバルと考え、クラウド・コンピューティングの戦略を練っている。そこにはNECや富士通、日立製作所などの国産ベンダが付け入る隙はなさそうだ。
象徴的なのはサーバの運用規模だ。ガートナーの推定によると、グーグルは100万台規模のサーバを運用し、サービスをグローバル規模で提供している。しかし、日本のサーバ出荷台数は年間でも60万台程度。日本は国を挙げてもグーグルにかなわない計算だ。ガートナーは100万台規模のサーバで構成したデータセンターがグローバルにサービスを提供する「テラアーキテクチャ」を提唱している。Webプラットフォームやクラウド・コンピューティングがその主要なアプリケーションになる。
このような数字もある。1億7000万の個人口座を抱える中国工商銀行が利用しているのはIBMのメインフレーム。2万MIPSの性能があるマシンで、テクノロジを効率化やコスト削減ではなく、「競争上の武器として使っている」と亦賀氏は指摘する。IBMのメインフレームに対して、富士通のメインフレームは3000MIPS程度といわれ、その差は歴然。亦賀氏は「2万MIPSのメインフレームは日本企業にとっては不要でも、地球規模を狙う銀行には必要だ。欧米企業と国内企業の顕著な差はスケールだ」と語った。
国産ベンダを見限る若いエンジニア
世界で勝負できない国産ベンダを見限ったのは若いエンジニアだ。大手IT企業は新卒の採用に難儀している。亦賀氏は「若い世代はどんどんWebメインになっている。オールドタイプのベンダはITリーダーとは思われていない。国産ベンダはこのことを認識して次世代に向かわないと場所がなくなる。国内だけでなく海外の状況を見る必要がある」と訴える。
国産ベンダに勢いがないのは企業のIT投資が増えず、要求が厳しくないことも理由だ。日本のIT投資は微増傾向が続いている。ガートナーの5月の調査によると日本のIT投資マインドは主要国の間で最低(参考記事)。ユーザー企業に対するアンケートでは「米国企業はITへの期待として新規顧客の獲得や顧客満足度の向上が上がるが、日本企業は業務改革や効率化」(ガートナー ジャパン ITデマンドリサーチ担当 バイス プレジデント 中野長昌氏)ともいい、ITを競争のための武器に使おうという意識は低い。ITの力を過小評価し、企業戦略の中枢にすえようとしない経営者の姿勢が最大の問題点とガートナーは見ている。
ただ、ユーザー企業のベンダを見る目がだんだんと厳しくなってきているのは事実。ユーザー企業の多くはグローバル規模で欧米企業と戦わざるを得なくなっていて、ITを活用しないと勝負にならないことに気づき始めた。そのユーザー企業の厳しい要求を受けて国産ベンダも次世代に向かわざるを得なくなるだろう。多層下請け構造や人月ビジネス、ユーザー企業の丸投げ、「付き合い」ベースのビジネスなど、「古いビジネスモデルは次第に崩れる」(ガートナー ジャパン グループ バイス プレジデント 山野井聡氏)と見ている。
キーは優秀な人材の流動性
国産ベンダが次世代に向かい始めればまた世界で戦えるようになるのか。問題は、そのときに優秀なエンジニアが日本にいないかもしれないということだ。3K職場などといわれるIT業界。山野井氏は「日本の本当に頭のいい人はシリコンバレーや、研究開発拠点として存在を増しているインドに出て行ってしまうのではないか」とIT業界の空洞化を懸念する。
そのうえで、山野井氏は、優秀なエンジニアを日本につなぎとめるには「プロフェッショナルな人材の流動性を高める仕掛けが必要」と話した。優秀なエンジニアを正しく評価し、給与で優遇し、高い生産性を維持して働ける職場環境を用意することがポイント。エンジニアのコミュニティの中でその企業の評判が高まれば、優秀なエンジニアが集まり、面白いサービスが生まれる。エンジニアを単なる作業者と考える企業からは人材が流出するだろう。このエンジニアの自由な移動を実現するには流動性を高める仕掛けが必要というのだ。
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