もうローカルアプリは要らない
Flickrの新画像編集機能「Picnik」を使ってみた
2007/12/05
いよいよローカルPCにアプリケーションをインストールする時代は終わった、これからは「マイページにインストールする」時代だ――。米Yahoo!傘下の画像共有サイト、米Flickr(フリッカー)が12月5日に新たに追加した画像編集機能を使ってみて、そう唸らずにいられなかった。それは、単に画像編集アプリケーションとしての使い勝手や機能がWebブラウザ上でも十分なレベルに達したと感じたからというだけではない。従来とはまったく異なるアプリケーションの配布・利用形態が現実のものとなったことを改めて認識させられたからだ。
機能自体は一般向けのレタッチ機能のみ
新たに加わった画像編集機能は、プリセットされた各種エフェクトをかけたり、赤目を修正したり、写真に額縁を付けるといった一般ユーザー向けのものが多く、Photoshopなどの画像編集ソフトを使っているユーザーには物足りないだろう。色温度や彩度はスライドバーで変更できるが、トーンカーブはいじれない。
もっとも、もともとFlickrが提供していた回転機能だけの編集機能に比べれば無償で利用できる機能だけでも価値がある。「自動補正」「任意角度での回転」「切り抜き」「リサイズ」「色温度・彩度変更」「シャープネス調整」「赤目修正」「基本エフェクト」「テキスト書き込み」「レタッチ」「額縁追加」など、多くのユーザーは写真関係の作業をオンラインだけで完結できそうだ。
これらの機能はFlashアプリケーションとして提供されるため、ローカルアプリケーションにきわめて近い使い勝手を実現している。例えばスライドバーで画像を回転すると、リアルタイムで画像が回転する。データを保存しようとするとポップアップウィンドウでダイアログも現れる。全画面で使っていると、まるでローカルアプリケーションでローカルのデータを操作している錯覚を覚えるほどだ。
まったく新しいソフトウェア・エコシステムの誕生
Flickrが提供しているように見えるこれらの新機能は、Flickrが開発したものでも、Flickrドメインのサーバ上で稼働するものでもない。Flickrは米Picnikと提携し、Picnikが提供する画像編集サービスをFlickr上からシームレスに呼び出せるようにした、というのが正確だ。
Flickrに新たに追加された「edit this」ボタンを押すと、Picnik側からローカルのWebブラウザ上にFlashアプリケーションが読み込まれ、あたかもFlickr上のサービスであるかのように画像編集画面が開く。つまり、Flickrに対してPicnikがプラグイン機能を提供している形だ。FlickrがPicnikからコードを買い取ったとか、機能統合したというのではなく、一方のサービスが他方に埋め込まれる形で連携して動作している。
こう書くと単なるマッシュアップのようだが、ちょっと違う。Flickrから見れば外部アプリケーションとして起動するPicnikの画像編集アプリケーションは、Flickr側のアカウント情報や画像データなどにアクセスできる。認証やアクセス権限の管理がきちんと行われた形で埋め込まれているのだ。
これは、マーク・アンドリーセン氏がいう「レベル2のプラットフォーム」だが(参考記事:Web上に登場した3種類の“プラットフォーム”)、こうした形態によるアプリケーション提供は確実に増えているようだ。
PicnikはFlickrだけでなく、画像アルバム・共有サイトのPicasa、photobucket、webshotsなどにも画像編集アプリケーションを提供している。また、SNSサイトのFacebookにも、Picnikは外部アプリケーションとして画像編集アプリケーションを提供している。
Facebookユーザーは、サードパーティ製のアプリケーションを任意に選択して“インストール”ができる。すでにゲームやコミュニケーションツールなど多くのアプリケーションが有償・無償で提供されている。運営会社1社が新機能を少しずつ加えるのとはまったく異なり、似たような機能を提供するアプリケーションが大量にあり、ユーザーが取捨選択するという世界だ。
Facebookでは単純にアプリケーションを“加える(add)”と表現しているが、その際に必要になるのは使用許諾の確認と、外部アプリケーションがユーザーのどのデータにアクセスできるのかを明示的に許可・不許可するという確認画面だ(このインターフェイスはFBMLという独自のマークアップ言語で定義する)。実行バイナリをディスクにコピーする従来の意味でのインストールとは異なるが、この儀式はユーザー体験としてはSNSなどコミュニティサイト上で「マイページにアプリケーションをインストールする」という感覚に近い。
Picnikは自社ドメインで画像編集機能を提供しているが、新規ユーザーが使うにはハードルが高い。「画像のアップロード→編集・加工→ほかのサイトなどで利用」と、いったんPicnikのサーバ上に画像を置く必要があるからだ。
しかし、もはやPicnikが自ドメイン上で画像編集アプリケーションをユーザーに利用してもらう理由はあまりない。FlickrやFacebookなど大規模なユーザーベースを持つサイトで“インストール”してもらうだけでいいのだから。Picnikは基本機能を無償で提供し、少し凝った機能をプレミアム機能として年額24.95ドルで利用できるようにしている。
おもしろいのはプレミアム機能も、無償利用の状態で試用できることだ。データの保存ができず、画像に「Premium Feature」の文字を載せることで有償版サービスへのアップグレードを促すという方法を取っている。これはシェアウェアなどで一般的な方法だが、かつてコンシューマ向けOS上でシェアウェア文化が花開いたように、今後はこうしたネット上の“プラットフォーム”に単機能のサービスをシェアウェア的に提供する企業や開発者が増えていくのではないだろうか。mixiも参加するOpenSocialが目指すのも、こうした新しいソフトウェア・エコシステムが回っていく世界だろう。
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