ソフトウェア特許の権利かでコミュニティの知識活用

集合知による特許レビューの枠組み模索へ

2007/12/21

 特許審査にもネットを使った集合知が活用されるようになるかもしれない。特許出願において、特許成立の要件である新規性を判断するのは特許庁の担当審査官だ。各ジャンルに通じた審査官は関連する先行技術の資料を集め、既存の技術・特許との違いを検討する。その結果、当該申請が既存技術から容易に考案できる内容のものに対しては特許権は与えない。

 このプロセスで問題となるのは、審査官が先行技術を十分に知らなかったり、調査しきれないことがあることだ。中でも、ソフトウェア特許では、良く知られたアルゴリズムや、すでに広く使われている技術が特許として成立してしまうという弊害が指摘されてきた。

 こうした背景から米特許庁は、申請された特許をネット上で公開し、審査官が読むべき先行技術の資料を、主に専門家からなるコミュニティ参加者が指摘する“コミュニティ・パテント・レビュー”と呼ばれる仕組みを2007年6月から試験的に運用し始めている。現在、「Peer-to-Patent」と名付けられたWebサイトではコンピュータアーキテクチャ、ソフトウェア、情報セキュリティに関する250の出願中の特許が、申請者の許諾の元、公開されている。プロフィールを登録した参加者は、先行技術へのポインタを指示したり、当該特許についてコメントをつけて議論を行うことが可能だ。

ipa01.jpg 内閣官房 知的財産戦略推進事務局主査で弁理士の井戸川義信氏(情報処理推進機構が12月21日に主催した「ソフトウェアライセンシングと知財問題に関するシンポジウム」で撮影)

 同様の仕組みが日本でも始まる可能性が出てきた。「米国と同様の仕組みをそのまま日本に持ち込むのは難しいが、すでに報告書に提言として盛り込まれている。来年にも取り組みへが始まると期待している」。そう語るのは、内閣官房 知的財産戦略推進事務局主査の井戸川義信氏だ。

 日本では2003年以来、「知財立国」のかけ声の元に内閣に設置された知的財産戦略本部は、首相を本部長とし、有識者らが毎年「知的財産推進計画」をとりまとめ、実行している。現在は2008年3月に発表される2008年度版の推進計画に向けた専門家らによる調査委員会の報告書をまとめ、12月13日に行われた知財戦略本部の会合にかけたところだ。科学技術における重点推進分野としてライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテク・材料の4つで、今年8月から調査が行われた。

 井戸川氏によれば、情報通信分野のプロジェクトチームが提出した報告書にはソフトウェア分野に関する提言として、コミュニティ・パテント・レビューを検討すべきという提言のほか、注目すべき提言が含まれている。それらには、SaaSに対応したガイドラインの策定や検索エンジンに関する著作権法の改正、GPLv3の文言解釈にかかる問題の解決などがある。

 また、2007年の推進計画に含まれていた“パテント・コモンズ”についても2008年版の推進計画引き続き言及されている。パテント・コモンズとは、各企業が持つ知財権をパブリックドメインとして相互利用することで、ソフトウェア間の相互運用性やイノベーションの促進を図るもの。

 米国で問題となっている“パテントトロール”と呼ばれる問題についても、国内での対策を検討し始めているという。パテントトロールとは、当該技術を開発・発明していない企業が特許権を買い取り、大手企業を対象に損害賠償請求や差止請求裁判を起こすという濫訴の問題だ。米国では2006年5月に連邦最高裁判所が「差し止めても公共の利益に反しない」「差し止めを認めないと取り返しのつかない損害を原告が被る」など4要件を満たさない限り、必ずしも特許侵害の認定で差し止め命令が出るわけではない、という司法判断を下している。報告書では、法的正当性と、民法上の権利濫用の法理をバランスさせるガイドラインを模索するために多角的な議論が必要だと指摘している。

(@IT 西村賢)

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