大口顧客獲得なるか

2008年はGoogle Appsエンタープライズ版で勝負

2008/01/09

 今年はグーグルにとって、「GAPE」(Google Apps Premier Edition)の勝負を賭ける年になりそうだ。Google Appsのエンタープライズ版であるGAPEは、企業がホスティング型の電子メール、インスタントメッセージング、表計算などのアプリケーションを1ユーザーに付き年額50ドルで利用できるというサービス。

 数字の上では非常に順調そうだ――。毎日、2000社の企業がGoogle Appsに新規登録しているのだ。また、Microsoft OfficeやLotus Notesから解放されたという熱心な顧客の証言もある。

 問題は、マイクロソフトもIBMも、グーグルが市場シェアを奪うのを黙って見ているつもりはないということだ。マイクロソフトは「Office Live Workspace」を持っており、IBMは「Lotus Symphony」のSaaSバージョンで対抗する可能性が高い。

 アナリストらは、記録管理に関する法規制に則ったポートフォリオを、グーグルがSaaSを通じて提供できるのかと懐疑的な見方をしていたが、グーグルは昨年7月にセキュリティベンダのPostiniを6億2500万ドルで買収するという形でこの疑念に応えた。

 この買収で、大企業での普及の障害が取り除かれたかに思えた。グーグルは9月、自社のエンタープライズスイートの大手顧客としてCapgeminiを紹介した。しかしその後、グーグルにとってエンタープライズ市場での波風が静まったようだ。

 グーグルエンタープライズ部門のデイブ・ジルアード執行副社長が昨年12月に米eWEEKに語ったところによると、2008年には何件かの大口契約が控えており、その中にはCapgeminiの契約規模を上回る何千シートという契約もあるという。

 Appirioのクリス・バービンCEOはこれに関して、1月のeWEEKのインタビューで具体的に語っている。同社は、パーソナライズ型ホームページのiGoogleを通じてSalesforce.comの情報を提供する各種のGoogle Gadgetを開発した企業。

 バービン氏によると、グーグルでは1000〜2万シートの規模でGAPEを検討している6〜8社の大口見込客との契約を確保しようとしている。見込客の1社は、10万シートまで契約を拡大する可能性があるという。「これらは先進的な大手IT企業で、真剣に検討している」と同氏は話す。

 バービン氏はこれらの顧客の名前を明らかにしなかったが、グーグルでは金融サービスとハイテク分野をとりわけ重視しているという。これらの分野では、OfficeとLotusが堅固な基盤を築いている。ちなみにAppirioは、アプリケーション開発、SaaS戦略、SaaS配備のノウハウなどの面でグーグルの取り組みを支援している。

 しかしIDCのアナリストらは、グーグルがマイクロソフトとIBMから大口顧客を奪うのに必要な訴求力を獲得するのは難しいと考えているようだ。

 IDCのアナリスト、メリッサ・ウェブスター氏によると、ワープロ、表計算、プレゼンテーションアプリケーションといったオンラインツールは訴求力にならず、同氏が実施した調査では、グーグルのツールを利用しているのは回答者の6%に過ぎなかった。また、彼らのほぼ全員がMicrosoft Officeも利用しているという。

 「だからわたしは、グーグルがシェアを奪っているとは思わない」とウェブスター氏はeWEEKの取材で語った。「調査では将来的にグーグルを採用するという回答も多かったが、それでもマイクロソフト製品の利用は少しも減っていない。また、かなり多くのユーザーが、今年にはOffice 2007にアップグレードする予定だと答えている」。

 しかしバービン氏によると、高価で、管理しにくく、時代遅れのExchangeやLotus Notesアプリケーションにユーザーはうんざりしており、グーグルがシェアを獲得するだろうとしている。

 「Lotusはアスベストのようなソフトウェアだ。あらゆるところに存在し、誰も除去しようとしない。しかし健康に有害なので除去する必要がある」と同氏は話す。

 さらにバービン氏によると、マイクロソフトとIBMが本格的なSaaS型オフィスポートフォリオで攻勢をかけたとしても、製品を市場に投入するスピードではグーグルにかなわないという。

 しかしIDCのアナリスト、レイチェル・ハップ氏によると、マイクロソフトはグーグルがクラウドコンピューティングの分野を手に入れるのを、指をくわえて見ているようなことはしないという。また、グーグルのエンタープライズ向け製品がマイクロソフトやIBMの製品のように、大企業をサポートするためのサービスプロビジョンやインフラを備えているかどうかも疑問だとしている。

 「それに、グーグルはソーシャルプラットフォームやワイヤレスネットワークなど、壮大な構想をたくさん抱えているため、同社がオフィスやコラボレーションの分野でマイクロソフトとIBMの牙城を切り崩すのは非常に難しいだろう」とハップ氏は話す。

 このため、2008年はGoogle Appsの命運がかかった年になりそうだ。グーグルが今後12カ月の間に大口のGAPE導入契約を1ダースも獲得できれば、同スイートの普及に弾みがつくだろう。しかし大企業が飛びついてこなければ、グーグルがこれまでのようなリソースをGAPEに投入する可能性は低くなるだろう。

 たとえGAPEが失敗しても、グーグルがどのくらい損をするのかはっきりしない。このSaaSソフトウェアの魅力は、同社が数年前から展開してきたコンシューマー向けのGoogle Appsの強化バージョンであるという点にある。ユーザーは今後もGoogle Appsの無償版を利用し続けるだろう。クラウドの中では、すべてが関連し合っているのだ。

 また、ヤフーとは異なり、グーグルはエンタープライズ部門を全面的に閉鎖する必要もないだろう。同社には、企業向けの製品として「Geo」や「Google Search Appliance」などもあるからだ。

 とはいえ、今後5年ほどでオンライン広告市場が成熟してきたときにグーグルが堅実なSaaSビジネスを持っていれば、それは同社の経営を支える重要な収益源になる可能性がある。

原文へのリンク

(eWEEK Clint Boulton)

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