「トヨタのプリウスのように新市場を生み出す製品」
シスコの新データセンタースイッチに欠けているものとは
2008/01/29
シスコシステムズは1月29日、データセンター・バックボーンスイッチ「Nexus 7000」をほとんど日米同時に発表した。サーバ、ストレージ、ネットワークを直接つなぎ込み、同社のいう「Unified Fabric」(統合接続環境)を構成するための製品だ。トヨタ自動車がハイブリッド車プリウスで自動車に新たな価値を持ち込んだように、まったく新しい市場を作り出す製品だと同社は強調する。
日本の報道関係者にこの製品を遠隔会議システム「TelePresence」経由で説明した米シスコ データセンター、スイッチング、サービスグループ担当上級副社長 ジェイシュリー・ウラル(Jayshree Ullal)氏は、「この製品をはじめとするデータセンター関連製品には過去3年間、毎年10億ドルの研究開発費を費やしてきた。この間に取得した関連特許は1500以上で、1日当たり1、2件の計算になる」と同社の開発努力を説明した。同氏は、新製品のほかCatalyst 6500/4900M、ストレージネットワーク製品、InfiniBand製品などのデータセンター関連製品を、数年後には10億ドルのビジネスに育てたいと話した。
シスコのストレージネットワーキング製品「MDSシリーズ」のSAN-OSとスイッチング製品のIOSをベースに開発したOSを搭載するNexus 7000シリーズは、10スロットのシステムを2月に販売開始の予定。15Tbpsを超える総スイッチング容量を実現できるアーキテクチャを備え、最大で1スロット当たり230Gbpsの接続を可能にする。40Gbps、100Gbpsのイーサネットにも将来対応するという。Nexusシリーズでは今後、より大型の18スロットモデルのほか、小さなラック型モデルやブレード型モデルも提供する。
Nexus 7000がこれほどのスイッチング容量を実現したのは、多数のサーバやストレージを直接つなぎ込むための製品だからだ。仮想化の普及により、サーバとストレージの間の通信量は大幅に増え、サーバに搭載されるデータネットワーク・インターフェイスやストレージネットワーク・インターフェイスの数も大幅に増加している。新製品はデータとストレージのネットワーキングをイーサネット1本に統合し、一方でデータセンター内のネットワーク機器を1台に集約することで、大幅な省電力効果が得られるとする。サーバとストレージの統合的な制御ができれば、新たな付加価値機能の可能性も広がる。すでに、サーバやユーザー端末などで論理的なグループを構成し、これらの間のトラフィックにはラインレートで暗号化を行う機能を搭載している。
しかし、新製品には、シスコのこうしたビジョンを実現するには欠けている部分がいくつかある。
第1に、現時点ではストレージを接続する方法が用意されていない。当初用意される回線モジュールは32ポート10Gbpsイーサネット・モジュールと48ポート10/100/1000Mbpsイーサネット・モジュールのみ。これではiSCSIストレージやNASをつなげることしかできない。ファイバチャネルSANやInfiniBandの回線モジュールを提供する予定はないため、本格的にストレージが統合できるのは、現在標準化作業を進めているFibre Channel over Ethernet(FCoE)のモジュールが登場してからということになる。
ウラル氏は「今年中ごろにFCoEの標準化が終わった後で、回線モジュールを提供する。人々がFCoEへの移行を始めるには、来年1年間掛かるだろう」と話す。
第2に、15Tbps超のアーキテクチャを持ちながらも、当初は1.4Tbpsの容量しか実現できない。これはNexus 7000のOSが、シャーシに搭載可能な5枚のファブリックモジュールのうち、1枚しか活用できないからだという。今後のOSバージョンでこの問題は解消される。
第3に、サーバ、ストレージ、ネットワークを統合・集約できるならば、これらに各種のソフトウェアサービスを適用することで、よりインテリジェントなデータセンターを実現できる可能性が生まれる。しかしウラル氏は現在のところ、こうしたソフトウェアを動かすためのモジュールをNexus 7000用に提供する考えはないとしている。「サーバ・ロードバランシングなどはすでに別製品の機能として提供している。(Nexus 7000に)統合すべきという顧客の要望があれば対応する」(ウラル氏)。ただし、シスコ日本法人によると、MDSシリーズで実現されている保存データの暗号化やデータ移行機能が組み込まれる可能性は十分にあるという。
データセンターに特化したNX-OSを搭載するNexus 7000は、IOSをベースとするCatalystシリーズに比べてWAN接続関連の機能を限定している。例えばBGPに対応しているが、フルルート(インターネット上のすべての経路情報)を扱えるわけではない。それよりも信頼性や障害回復時間の極小化に重点を置いているという。Nexus 7000ではサービスを止めることなくOSをバージョンアップできる。
また、単一のOSを複数の仮想インスタンスに分割し、あたかも別個のルーティングスイッチが複数動作しているように使える「仮想デバイスコンテキスト」機能を提供する。同機能では、いずれかの仮想インスタンスで障害が発生しても、ほかのインスタンスに影響を与えることがない。この機能は商用データセンターが顧客に仮想ネットワークサービスを提供するのにも使えるという。同機能は、今年中のOSバージョンアップで、Virtual Switching System(VSS)とともに利用できるようになる。つまり、複数のルーティグプロセッサにまたがる形で、複数の仮想OSインスタンスを走らせられるようになるという。
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