三菱電機が動力不要の実用的な水冷方式を開発

“気泡で冷却”がPCの排熱問題を解決!?

2008/01/30

 三菱電機は1月30日、ポンプレス水冷システムが抱えていた課題を解決し、世界で初めて実用的なシステムを開発したと発表した。電力など動力が不要。機械駆動部がなく、メンテナンスも不要で信頼性が高いという。

 試作した冷却システムは、従来のポンプ式の水冷システムより20%程度小さい50×100×25センチで、10kWの冷却性能を持つという。電力設備、通信・情報設備、鉄道・交通インフラへの適用を皮切りに、小型軽量化を進め、パソコンや家電製品などにも応用していく考えだ。

ノートPCやPS3で使われるヒートパイプの原理

 ノートPCや家庭用ゲーム機のケースを開けると、CPUやGPUといった高熱を発するデバイスに対して赤銅色のパイプが取り付けられていることがある。素材に銅が使われることが多い“ヒートパイプ”だ。CPUなどで発生した熱を数センチから十数センチほどヒートパイプで運び、放熱フィンと空冷ファンで熱を外気に逃がす。

 ヒートパイプは中空構造になっており、内部には液体が適量封入されている。一般に気圧は低く設定されており、封入液体は設計時に定められた温度で沸騰し、蒸気となって熱を高速に運ぶ。吸熱部で蒸発した封入物質は、放熱部側で再び液体となって熱を放出する。パイプの壁面には“ウィック”と呼ばれる金属メッシュが張り巡らされており、毛細管現象により液体は再び吸熱部へと戻る。

 ヒートパイプは、蒸発→蒸気で熱輸送→凝縮→液体移動という対流サイクルで熱を効率よく運ぶ。同程度の直径であれば、熱伝導率の高い銅に比べても数百倍の性能を持つ。

熱輸送能力に優れる水冷方式を気泡で駆動

 ヒートパイプは金属に比べて効率の良い熱輸送が可能だが、水冷方式に比べると熱輸送能力が小さい。液体に比べて蒸気のような気体は容積当たりの潜熱がきわめて小さいからだ。また、毛細管力は弱い力であるため、重力に逆らって液体を移動させるのが難しいという問題もある。水平方向で完結したノートPCのようなシステムでは問題ないが、上から下へ熱輸送を行うと効率が悪くなる。

 一方、水冷方式では冷却水を循環させるポンプや動力源が必要であるためメンテナンス性やエネルギー効率が悪いという問題がある。そこで、これまでにもポンプを不要とするポンプレス水冷システムが研究されてきた。

 ポンプレス水冷システムでは、気泡の浮力を駆動力に変える。具体的には、吸熱部で沸騰した冷却液中で発生する気泡を駆動力に使う。沸騰する液体部をスリットのような構造体で挟み込むと、気泡の上昇に合わせて周囲の液体にも流れができる。こうすることで、ポンプなどの動力源を使わず、完全に閉じた系だけで熱輸送を行う水冷システムを構成することができる。

mitsubishi01.jpg 気泡を駆動力にするポンプレス水冷システムの原理

ポンプレス水冷システムの課題を解決

 ポンプレス水冷システムは2つの課題を抱えていた。1つは、その原理上、放熱部を必ず上端に配置する必要があり、設置の自由度が低かったこと。もう1つは高性能化が難しいという点だ。

 放熱部には、気泡と冷却液が一緒に流れ込む。そのため、放熱部を流れる冷却液の流動抵抗は大きくなっており、放熱面積を大きくするための経路の微細化が難しい。

 三菱電機は、内部に熱交換器を設置することにより、こうした課題を解決した。蒸気となって上昇した気泡は、熱k交換器と呼ばれる部分で凝縮させる。液体と気体が混合した状態の高温液が、液体のみの高温液となって放熱器へと移動する。高温液は放熱器で冷却風などによって冷やされ、再び熱交換器へと循環する。熱交換器に戻った低温液は、主に気泡が凝縮する際に発生する熱を吸収して、再び吸熱部へと循環する。

mitsubishi02.png 新ポンプレス水冷システムの概略図
mitsubishi03.png 従来方式との動作原理の違い

 従来のポンプレス水冷システムと異なり、放熱器には高温液だけが送られるため、細管を用いた高性能な放熱器が利用できるようになった。また、液体のみによる熱輸送が行えるため、設置の自由度が増したほか、数十メートルの熱輸送も可能になる。

mitsubishi04.jpg 三菱電機 先端技術総合研究所 機械システム技術部 熱流体・騒音グループ専任 一法師 茂俊氏

 こうした特性のため、ポンプレス水冷システムを都会のヒートアイランド現象対策に生かすというアイデアも、研究レベルではあるという。地下7メートル程度まで掘り進むと、土壌の温度が、その土地の1年を通した平均気温となる。7メートルより浅い部分は季節による温度変化を繰り返すが、それより深いところでは土壌の温度は一定だ。

 7メートルの地表部を断熱層として考え、それより深い地下にまで熱を運べば、地中に熱を蓄えられる。夏期に高熱となった路面から地中に熱を運び、冬期には凍結対策として熱を取り出すというアイデアだ。いったん設置すればメンテナンスが不要で電力も使わない。

電鉄系を中心に事業化、小型化も視野に

 三菱電機では2、3年後の導入を目指し、電力設備や交通設備への販売を計画する。「まずは事業として軌道に乗せることが先決。電鉄系を中心に販売していき、小型化を進めて適用範囲を広げていく」(三菱電機 先端技術総合研究所 機械システム技術部 熱流体・騒音グループ専任 一法師 茂俊氏)という。小型化については「実際に研究していく中で課題も見つかっていくものと思う」としながらも、「冷却装置は本来誰も使いたいものではないため、小さければ小さいほどいい」と話し、ノートPCやモバイル端末など小型デバイスへの適用にも意欲を見せた。

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(@IT 西村賢)

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