あらゆる無線通信規格に1チップで対応可能に
ソフト無線実現に大きく前進、NECが要素技術開発
2008/02/04
NECは2月1日、1チップで多様な無線規格に対応するために必要なアナログベースバンドLSI技術の開発に成功したと発表した。
BluetoothやZigbeeといった近距離の無線通信からIEEE 802.11a/b/g/nの無線LAN、HSDPAやWCDMA、デジタル放送、GPSといった長距離の無線通信まで含めて、1チップで対応できる道筋が開けた。現在の携帯電話端末は高機能な製品だと5、6個の専用チップを搭載していて、実装面積のうえでもコストのうえでも負担が大きくなっている。新技術によって1チップが可能となれば、小型化に貢献できる。また、ソフトウェアの変更だけで異なる周波数帯や無線規格に対応可能となる。同社デバイスプラットフォーム研究所長の望月康則氏は、今回の成果を、次のように説明する。「PCでは表計算でもワープロでも、切り替えて使える。それと同様のことが無線通信でも実現できる」。
成果は2月3日から米国で開催中のISSCC(International Solid-State Circuits Conference)で発表する。ソニーも同様の研究成果を発表すると見られるが、ソフトウェア無線を実現する鍵となるアナログベースバンドLSI技術の開発はNECが世界初。ソフトウェア無線というアイデア自体は2、3年前から議論されてきたが、先端デバイスの発展によって数GHzの高周波無線の処理が現実的となり、実現の可能性が高まっていた。
NECが開発に成功したのは、妨害波除去を行うフィルタ。従来、アナログ回路で行っていたフィルタ処理を、プログラムによって制御可能とした。
無線通信では通信を行う基地局からの電波は弱く、近隣の通信機器からの電波は強い。この近隣からの強い“妨害波”を除去するためにフィルタを用いる。
利用する周波数帯や周波数の幅、妨害波の強度によってフィルタの特性を変える必要がある。このため、アナログ回路によるフィルタでは、対応する無線規格が増えるごとにフィルタを増やす必要があった。一方、新たに開発したソフトウェア制御によるフィルタでは、電流のパルス幅の時間制御を行うことで任意のフィルタ特性を実現できる。
今回NECが開発したのはソフトウェア無線を実現するのに必要な4つの要素技術のうちの1つ。実際にソフトウェア無線を実現するには、ほかに、周波数変換、AD・DA変換、信号処理などの処理工程をすべてソフトウェア制御にする必要がある。ただ、「今回開発した部分が最も難しい。ほかの技術は、それほど難しくないと考えている」(NECデバイスプラットフォーム研究所 研究部長 深石宗生氏)といい、NECでは「3年をめどに要素技術の完成と実用化を目指す」(深石氏)としている。
ソフトウェア無線が実現されれば、1チップであらゆる無線通信規格に対応する究極のチップも登場するかもしれない。また、端末購入時に対応していない無線通信規格であってもファームウェアのバージョンアップで対応できるなど柔軟性が高くなる。例えば、国内向けの携帯電話端末にGSM対応ソフトウェアモジュールを適用して海外で利用するといった用途が考えられる。
地上波テレビを見ながらメールを使う、など同時に複数の無線規格を用いる用途もあるため、実際の実装では複数チップを搭載することになる可能性もある。ただ、ソフトウェア無線が一般化してくれば、異なる無線通信プロトコルを時分割で処理して1チップで行えるようになる可能性もあるという。
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