品質を担保しつつコストメリットを確保

HP大連コールセンターに見る「集約」と「品質」のバランス

2008/02/29

 「お客様がお使いのパソコンの型番はxyzで、この場合には……」。かすかに外国語なまりのある流暢(りゅうちょう)な日本語が聞こえてきた。日本向けのカスタマーサポートを行っているのは、採用試験での合格率が3%という狭き門をくぐり抜けてきた中国人スタッフだった。ヒューレット・パッカードが中国に構える5つのソフトウェア開発の拠点の1つ大連のソリューションセンターは、オフショア開発の拠点のほかに、日中韓向けサポートを集約したコールセンターも抱えている。

cc01.jpg 日中韓のサポート要員を1カ所に集約したHPの大連コールセンター

 「デスクトップ、ノートPCなど日本のコンシューマからの問い合わせ電話は、ほとんどここで受けている」(大連コールセンター担当マネージャ)。120人体制の日本向けサポート部隊の6割は中国人、4割は日本人。日本人スタッフも現地採用だ。見通しのよいフロアの各コンパートメントを見渡すと、漢字とアルファベットで各スタッフの名札が壁にかけられている。名札から国籍は明らかだが、応対中の電話のやりとりの声や顔をちょっと見ただけでは、日本人なのか中国人なのか分からないケースもある。

cc02.jpg 日本からの電話のほとんどを受けるというサポートメンバーの6割は中国人スタッフ。残り4割は日本人だ

 コールセンターのオフショアリングは諸刃(もろは)の剣となりかねない。現地スタッフ中心の編成で品質低下を招き、顧客離れを起こした例が少なくないからだ。高品質なサービスを要求する日本のエンドユーザーにとって、電話サポートとは「電話がつながる」という以上のことを意味する。日本人スタッフように一定のサービス品質が担保できないオフショアのコールセンターは、コストカットという恩恵の一方、ブランド力低下というボディブローとしてメーカーに返ってくる。

 「むやみに人数を増やすのではなく、少人数でいかにアバンダンを少なくするかに腐心している」。サポートサービスの品質向上について前出の担当マネージャは、そう語る。現地スタッフの比率を上げすぎないことや、各オペレータの稼働状況のリアルタイムでの把握、サポート終了後の任意アンケートによる顧客満足度データの収集など、客観データに基づくサービス品質改善を常時行うという。作り込まれたサポート関連データの分析専用アプリケーションは「日中韓のサポートセンターを大連に集約したからこそ、コスト的に見合う」ものだという。日本と大連との時差は1時間。韓国は日本と時差がない。サポートセンターの壁に掛けられた時計は、どれも日本時間を指している。

cc03.jpg 稼働状況をモニターする液晶パネル。全体の状況だけでなく、個別オペレータの状況や、各オペレータに対する顧客からの評価も指標化し、常にPDCAサイクルを回しているという
cc04.jpg 中国HP大連拠点の総合受付にかけられた4つの時計。並べてみると、事実上時差がない日中韓の「近さ」が改めてはっきり分かる

 センター開設以来、「採用面接をしなかった週はないというほど現地スタッフの応募が多い」という。その合格率はわずか3%。常に現地同業他社の上位20%に入るよう設定しているという高い給与水準と、中国におけるヒューレット・パッカードの強いブランド力で、向上心のある優秀な人材が集まる。

 同社が初めて中国に地に足を踏み入れたのは1985年。政府からのサポートを取り付けたジョイントベンチャーとしてスタートした。市場参入が早かったことや政府との太いパイプを維持し続けてきたことなどから、同地でのHPのブランド力はきわめて高い。中国HPは、2001年から6年連続で「中国でもっとも尊敬される企業」に選ばれているといい、2005年には中国・アジアにおける“ベスト雇用主企業” としても認められるなど、労働市場でも中国HPの存在感は強い。

 「これは、うちにも欲しいね」。ある大手企業のCIOは思わずそう漏らした。豊富な図と手書きによる追加書き込みでびっちりページが埋まったサポートマニュアル。TCP/IP、Windows設定などジャンルごとにテーブルに十数冊が並ぶ。各冊子は決して大部ではないが、要を得た図と書き込みが、サポートノウハウの蓄積を感じさせた。

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(@IT 西村賢)

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