「SaaS Proxy」でSaaS市場を加速する構想も明らかに
SaaS型付箋共有サービス「lino」発表、インフォテリア
2008/04/02
SaaS専業ベンダのインフォテリア・オンラインは4月2日、個人向けサービスの第1弾となるオンライン付箋サービス「lino」(リノ)のベータ版を公開した。AjaxやJavaScriptを使い、Webブラウザでローカルアプリケーションのような使い勝手を実現しているのが特徴で、本物のコルクボード上に付箋を貼ったりはがしたりする気軽さで利用できる。サービスの利用は無料。日本語と英語によるサービスを提供を行い、海外メディアへの広報活動も行う。Firefox 2、Safari 3、Internet Explorer 7に対応する。Internet Explorer 6はサポート外という。
コルクボードに付箋を貼る気軽さ
作成した付箋紙はメールのようにほかのユーザーに送信できるほか、付箋紙を貼る“キャンバス”を共有することで、目的に応じて情報共有の場を作ることができる。送付された付箋は受信側のキャンバス上に付箋となって現れる。送信元の付箋は、送信後に消滅するが、オプションのチェックボックスをオンにすることで、そのまま元通りコピーを残すこともできる。
10色の付箋が作成できるほか、画像を貼れる付箋や、透明な付箋を利用できる。透明な付箋に書いた文字を画像に載せることで、画像に対するキャプションを作成できる。
付箋はlinoにログインした状態で作成できるほか、メール経由やWebブラウザのブックマークレットを利用して作成できる。Webブラウザでメモするテキストを選択して、ブックマークレットを呼び出すと、テキストが引用された状態で付箋作成画面が開く。このとき、Webページに含まれる画像も同時にリストアップされ、選択することで必要な画像も付箋に含められる。
みんなで写真を貼り付けてオンラインアルバムも
さまざまな情報をテキストや画像を付箋という単位で管理し、上下左右にスクロールする4画面分ほどのキャンバス上の位置情報で整理する。こうした見方をすると、linoは従来からある付箋紙アプリケーションと同等だが、オンライン化したことで用途が大きく広がった。
例えばキャンバスを複数ユーザーで共有することで伝言板やアイデア共有の場として利用できる。あるいは、複数の友人で共有することで、パーティーの写真を皆で貼り付けてアルバム化するオンライン写真共有サービスのような利用が可能だ。付箋やキャンバスの公開範囲を全体公開、友だちに公開、非公開の3つから選べる。
キャンバスは利用目的によって自由に増やせるほか、背景画像を自由に変更できる。現在のところキャンバスの数や作成できる付箋の数に上限はない。
linoはNTTドコモ、au、ソフトバンク、ウィルコムの各ケータイからのアクセスにも対応している。ケータイから付箋を作成・閲覧できるほか、撮影した写真をメール添付でアップロードすることもできる。
名前を書いた付箋を用意してオフィスの座席表とすることも可能だ。棚や机のだいたいの位置を対応させておけば簡易な座席表となり、配置換えがあってもマウスのドラッグだけで対応できる。また、オフィスでの利用なら、付箋を送受信することで電話メモ代わりに使うことができる。
汎用性が高く、アイデア次第で用途が広がる可能性を感じさせる点もlinoの特徴だ。
付箋をカードと見立てて、アイデアプロセッサや各種分析ツールとしても利用できる。キーワードや商品名、商品写真を付箋にすることで、SWOT分析やポジショニング分析が可能だ。こうした応用は従来のパワーポイントのようなツールでも可能だが、オンラインサービスとしたことでコラボレーションがしやすいというメリットがある。
付箋中に書かれたURLはクリッカブルなリンクとなる。外部情報へのリンクや特定キャンバスへのリンクを埋め込むことで、Wikiのように、ハイパーテキストベースのコラボレーションツールとして使うこともできる。
付箋には締め切り日を設定できる。ToDo情報やイベント情報を付箋として作成しておけば、キャンバスの隅に表示されるカレンダーからスケジュール管理が可能だ。特定の日の予定を集めることや、iCalendar、RSSを使った外部ツールとの連携もでき、例えばGoogleカレンダーと併用できる。
ソーシャルな機能も盛り込んだ。公開設定としたキャンバスを“公開リスト”に載せることで、ほかのユーザーに存在を知らせることができる。ほかのユーザーに付箋の貼付を許可することで掲示板的な利用もできる。付箋の貼付を匿名ユーザーに許可することもできる。また、ブラックリストを設定することで特定ユーザーからの付箋を拒否することも可能だ。
「SaaSはXMLと同様確固たるムーブメント」
linoを提供するインフォテリア・オンラインは2007年10月設立。親会社のインフォテリアは、XML専業ベンダとして1998年に設立され、XML処理エンジンやシステム連携を行う「ASTERIA」シリーズを手がける。まだXMLの将来性に懐疑的な人が多かった中、「XMLがITを支えるインフラになる」と確信して起業した同社代表取締役代表社長兼CEOの平野洋一郎氏は、1998年当時のXMLと、現在のSaaSの状況が似ているという。「SaaSはXMLと異なり規格名ではない。だから10年後にどう呼ばれているか分からないが、ネットワークを通じてソフトウェアを配布するというこの形態は、5年とか10年かけて普及するXMLに匹敵する確固たるムーブメントだ」(平野社長)。
インフォテリアでは、XML関連製品のほか、SaaS型オンライン表計算ソフトウェア「OnSheet」やソーシャルカレンダーの「c2talk」、トピック管理・バグ追跡ASPサービス「Topika」、CometベースのWebチャットサービス「Lingr」などWebサービス関連でもサービス開発を進めてきた。これらのうちc2talk、Topikaの2つの事業について、その販売業務を4月付けで子会社のインフォテリア・オンラインに委託。グループ全体でSaaS事業に本腰を入れる。こうした措置について平野氏は「XMLの初期と同様に、まだSaaSには不便な点が多くある。そうしたものを改善し、貢献していくという宣言でもある」と話している。
“SaaS Proxy”で過渡期のニーズに応える
「2007年はSaaS元年と言われたが、今後2年程度で淘汰されると考えている」。こう語るのはインフォテリア・オンライン 代表取締役社長の藤縄智春氏だ。
SaaSにはインストール不要、自動更新、ITインフラの非資産化など多くのメリットがあるものの、企業ユーザーの現場の目から見るとセキュリティやパフォーマンスの面で二の足を踏む現状がある。そうした現場の懸念を払拭し、SaaS市場の拡大を図るため、同社は「SaaS Proxy」構想の実現に向けて活動中だ。
SaaS Proxyは現状ではまだ構想段階だが、今後1、2カ月で具体化して年内にもソフトウェアまたはハードウェアアプライアンスなどの形で製品化していく計画だ。SaaS Proxyを企業内LANのDMZに配置することで、例えば企業内のネットワーク利用ポリシーに適合した形でポート変換を行ったり、ユーザーのデータだけをローカルサーバのデータベースに保存する形にするなどの実装が考えられるという。当初は同社の特定サービスにだけ対応する形で実装する可能性があるものの、同社としてはSaaS Proxyの仕様を標準化するなどして他社SaaSサービスへの対応も検討したい考えだ。
SaaS ProxyはSaaS本来のメリットの一部を削ぐ形になるが、過渡期におけるテクノロジーとして、こうした独自の進化は必須だと考えているという。「単なる既存パッケージのSaaS化ではうまくいかない。顧客に求められる運用体制やサービス内容はSaaS専業でないと分からない」(藤縄氏)。
法人のカスタマイズニーズに応える体制作り
インフォテリア・オンラインはlinoに続き、2008年度中に2つのベータサービスまたは正式サービスの提供を開始する。「個人向けと法人向け双方を両立させ経営を安定化、売上ポートフォリオの健全化を目指す」(藤縄氏)。個人向けサービスで圧倒的ユーザー数を獲得することで市場認知を高めていく一方、そこで洗練されたサービスを法人市場に展開するという流れだ。3年後に2010年までに売上高3億円を目指す。「SaaS事業では利用料が小額だが、コンシューマービジネスが立ち上がれば目標を達成できると自信をもっている」(藤縄氏)。
SaaS専業らしく、日本市場で地歩を固めてから海外展開というステップは考えていない。linoに限らず今後も同社は、すべてのサービスで日本語と同時に英語によるサービスや広報活動を展開する。「ものによっては英語のサービスが先になることもありえる」(藤縄氏)。
2008年度中にはサービスディストリビュータ向けプログラムを開始する予定だ。従来のパッケージソフトウェアにおけるSI事業者やソリューションベンダ同様に、インフォテリア・オンラインが開発したSaaSをカスタマイズする事業者に情報提供や教育を行っていく。また、例えば表計算アプリケーションのOnSheetをAPI利用でソリューションの一部として取り込むなどサードベンダによるマッシュアップも支援していく。「ASPは1つのアプリケーションだが、SaaSはソフトウェアという違いがある。モジュール単位で利用してもらうこともできる」(平野氏)。
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