2008 JavaOneレポート
ブラウザから飛び出すJavaFXをデモ、サン
2008/05/07
米サン・マイクロシステムズは5月6日(現地時間)、米国サンフランシスコで開催中の開発者向けイベント「2008 JavaOne」で、マイクロソフトのSilverlightやアドビシステムズのAdobe AIRに並ぶRIAランタイム「JavaFX」のリリース予定を発表し、最新ビルドに基づくデモンストレーションを行った。
JavaFXは1年前の同イベントで発表された技術で、JavaMEやJavaSEといったJavaVM上で利用するプレゼンテーション層のミドルウェア。JavaFX Scriptと呼ぶスクリプト言語で画面設計を行うことができ、デスクトップでもモバイル端末でも、同じコード、同じスクリプトによるアプリケーションが稼働することが最大のウリだ。
サンでソフトウェア担当責任者を務めるリッチ・グリーン氏はJavaFXを使ったデモンストレーションを披露した。
デモンストレーションの1つは、FlickrやTwitter、FacebookといったソーシャルネットワークのデータやアクティビティをアグリゲートするJavaFXアプリケーション、「Connected Life」だ。Connected LifeはWebブラウザ上のJavaアプレットとして稼働すると同時に、Webブラウザからドラッグ&ドロップすることでローカルアプリケーションとして利用できる。RIAはWebブラウザとローカルアプリケーションのギャップを埋める領域としてマイクロソフトやアドビが取り組んでいるが、今のところユーザーのアクションでダイナミックにWebブラウザの枠を文字通り「飛び出して」、ローカルアプリケーションとして使えるようにしたのはJavaFXが初めてだ。Webブラウザのプラグインとして稼働するJavaVMとデスクトップ上で稼働するJavaVMの間で起動中のアプレットを受け渡す仕組みなど詳細は不明だ。
いったんローカルに移したアプレットは、保存して再び起動することもでき、通常のローカルアプリケーションとして利用できる。ファイルシステムにアクセスすることもでき、デモンストレーションではWebカメラで撮影した写真をConnected Lifeのウィンドウにドラッグ&ドロップしてFlickrにアップロードするという操作を実演した。
さらにサンは、同一のコードとスクリプトを携帯電話で実行してみせたほか、グーグルが推進するオープンなモバイル端末向けアプリケーションフレームワーク「Android」のエミュレータ上でも同じアプリケーションを実行してみせた。Javaの生みの親でJavaFXの開発を牽引するジェームス・ゴスリング氏はAndroidに対して「企業同士のアライアンスでは製品は出てこない。製品を作るのは企業だ。AndroidはGPLベースのコードの塊を出しただけで、まだ実装も情報も少なすぎて話にならない」とやや批判的だが、Android上でのデモンストレーションは「JavaFXがデバイスによらず普遍的に実行できることを示す例だ」としている。AndroidはLinux上に独自実装のJavaVMを搭載している。
開発中の製品のデモンストレーションにはトラブルが付き物だが、それにしても今回の一連のデモンストレーションはスムーズとは言い難く、Webブラウザからデスクトップにアプレットを移す操作では、頻繁にアプリケーション(あるいはJavaVM)がフリーズしていた。現在サンのJavaチームではJavaFXに大きなリソースを割いているというが、今回改めて明かした開発スケジュールによれば、モバイル向けの「JavaFX Mobile 1.0」および「JavaFX TV 1.0」の正式リリースは2009年春を予定。Java FX Mobile 1.0は発表からリリースまで丸2年かかる難産になりそうだ。ただし、モバイル向けの前に「JavaFX Desktop 1.0」が2008年秋にリリース予定であるほか、SDKの早期提供プログラムは2008年7月の開始を予定しているという。
2D、3D、HD映像を使ったデモンストレーション
グリーン氏はJavaFXのデモンストレーションとして、2Dや3Dのインターフェイスを活用した例も披露した。1つはFlickrのデータを読み込むマッシュアップ的なアプリケーションで、画面上を写真の群れがゆっくりと流れるという動的な2Dのインターフェイスを備える。「blue」や「red」などと文字列を入力すると、その文字列にマッチするタグが付けられた写真が徐々に集団となって集まる。JavaFXというよりもRIAの威力というべきかもしれないが、WebブラウザやAjaxだけで実現できるものとは次元の違うリッチなマッシュアップの実例として、新しいインターネットのあり方を垣間見せてくれるものだ。サンCEOのジョナサン・シュワルツ氏はRIAという言葉の代わりに「Rich Internet Device」という言い方もしていて「スマートフォンだけでなく、アマゾンの電子書籍端末や車載のダッシュボード、ブルーレイディスクプレイヤーなど、あらゆるデバイスが対象だ」(シュワルツ氏)と、JavaFXが対象とする領域の広さを繰り返し指摘した。
JavaFXではマルチメディアサポートも進んでいる。HD映像を多数表示して、それらを3次元の球体表面上に並べるというデモンストレーションでは、非常にスムーズに何十もの映像と音声が並列に再生されていた。
遅れてきたJavaFX、その強みと弱み
競合するSilverlightやAdobe AIRに対してスケジュール面で大きな遅れをとっているJavaFXだが、サンの強みはモバイル環境におけるJavaVMのインストールベースの大きさだ。同社によれば、ノートPCの91%、携帯電話の85%にJavaVMが搭載されている。携帯電話メーカーやコンテンツプロバイダは、JavaFXのようなリッチなUIを実現する技術を望んでいるが、SilverlightもAdobe AIRも、まだこうした分野には深く切り込めていない。Silverlightに関してはノキアが3月に同社の端末で採用すると発表した例があり、Adobe AIRについては今後Flashとともに技術のオープン化を進め、組み込みやモバイル系などでの採用を容易にすると発表したばかりだが、いずれもスタートラインに立ったばかりだ。
JavaFXチームは2007年11月に、HTMLレンダリングエンジンのWebKitをJavaFXに統合するとアナウンスしている。Java向けプレゼンテーション層はJavaFXの登場で一気に選択肢が増えることになる。サンは公式にコメントしていないが、今後はJavaVMにWebKitを統合していくのではないかとの観測もある。
JavaFXの課題はオーサリング環境だ。現時点では「今後12〜18カ月でデザイナたちが慣れ親しんだアドビのツールをサポートしていく。まずはIDEによるサポート、続いてスクリプトユーザーのためのサポート、最後にデザイナ向けのサポートと段階的に進める」(JavaFXを担当するシニア・ディレクターのパラム・シン氏)としているが具体策を示していない。
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