都内で説明会を実施

グーグルが取り組む“検索”の今

2008/06/09

 来日中の米グーグル副社長、マリッサ・メイヤー氏は6月9日に都内で会見した。メイヤー氏は、グーグルの検索サービスについて改めて説明するにあたり、こんな古いエピソードを紹介した。

 ある時、大学生グループを対象に検索エンジンのユーザビリティテストを行った。「1994年のオリンピックで最も多く金メダルを獲得した国はどこか」というのが問題だ。ところが、15秒経っても、30秒経っても、45秒が経っても被験者は検索しようとしない。「彼らは、まだページの表示がすべて終わってないと思い、残りが表示されるのを待っていたのです」(メイヤー氏)。このユーザーテスト以来、グーグルではトップページの一番下に“(c)Google”という文字を入れるようにしたという。「あれは何も著作権表示のためというのではありません。ここでページが終わりですよということを示すために、あそこに入れてあるのです」(メイヤー氏)

google01.jpg 米グーグル 検索製品および利便性向上担当副社長のマリッサ・メイヤー(Marissa Mayer)氏

 ユーザーに直接関係のない情報はあえて表示しないというシンプルさ、後にグーグルの検索ポリシーを象徴することとなった、あの素っ気ない白いページには、こんなエピソードも残っているという。当時珍しかったシンプルなWebページを見て、被験者の学生には「これは何かの心理学の実験ですか?」と尋ねた者もいたという。

まだ多くのイノベーションが必要

 メイヤー氏は、グーグルはトップページの見た目に反して、背後にあるテクノロジーは極めて複雑で洗練されているという。ユーザーが入力した1つの検索クエリは、データセンター内のロードバランサ、Webサーバ、広告と検索のサーバなど数百から1000台のサーバを経て、最終的に1つの検索結果ページを表示しているという。

 メイヤー氏はグーグルが検索サービスで現在取り組んでいる3分野を紹介した。

 1つは、すでに昨年から提供が始まっている“ユニバーサルサーチ”だ。これは1つの検索クエリに対して、イメージ、ビデオ、ニュースなどこれまで別々に提供してきた検索サービスの結果をまとめて返す検索サービスだ。「スティーブ・ジョブズ」で検索すれば、Wikipediaのエントリとともに、YouTubeにアップされた同氏の講演ビデオや、直近のニュース、関連書籍が並ぶ。「こうしたアプローチには批判的な人もいる。しかし、蝶ネクタイの結び方を調べるような検索ではビデオのほうがずっといい」(メイヤー氏)。

 モバイルと音声も、現在グーグルが取り組んでいる分野だ。音声による検索として同社は2007年末に、北米で「GOOG-411」というサービスを開始している。フリーダイヤルの番号に電話をかけ、電話越しに声でメッセージを伝えることで、地域情報を得られるサービスだ。音声検索やモバイル検索が重要だという理由としてメイヤー氏自身、検索しようと思うときの「5回に4回はPCを離れて」いて、PCだけでは満たせない検索ニーズがあるからという。

 検索にはまだまだ多くのイノベーションが必要だというメイヤー氏が挙げる、もう1つ別の将来の検索サービスの例は、言語の壁を文字通り取っ払うというものだ。例えばアラビア語は、Webページ全体の1%しかなく、プリンタのカラー印刷のテストページが1ページも存在しないという。ユーザーから受け取った検索クエリをすべての言語に翻訳して検索し、言語によらずベストの結果を再びそのユーザーの母語に翻訳して提示するようなサービスが考えられるという。

ケータイによる検索サービス開発の技術的難しさ

 グーグルにおけるモバイル検索のプライオリティは上がっているというが、そのモバイル検索で日本市場は先行している。携帯電話の利用者数でこそ日本は中国やアメリカに及ばないが、モバイル検索の国別クエリでは「ダントツでナンバーワン」(モバイル担当プロダクトマネージャ 岸本豪氏)という。すでに日本では約25%のユーザーがPCを利用せず、ケータイだけで検索を使っている。

google02.jpg モバイル担当プロダクトマネージャ 岸本豪氏

 岸本氏によればモバイルコンテンツが充実していることも、日本のモバイル市場の特徴だが、その分、日本のエンジニアが挑戦すべき課題は多いという。例えば、キャリアのゲートウェイのIPアドレスでないとサーバがモバイル向けコンテンツを返さないため、クローリングができないサイトがあったり、Webページの絶対数が少なく相互のリンクも少ないため、従来のページランクがうまく機能しないということがあるという。ほとんどどこからもリンクされていないWebサイトを、ある瞬間から一斉に誰もが探し始めるというようなニーズにも応えなければならない。このほか、特殊な絵文字の処理や、端末ごとに対応機能に差があるWebブラウザに対してベストの表示を心がけなければならないことも難しい課題という。

テレビ視聴とモバイル検索の密な関係

 モバイル検索固有の現象もいくつか確認されているという。検索担当プロダクトマネージャを務める倉岡寛氏は、テレビ放送とモバイル検索の関連性を指摘する。

 「日本でおもしろいのはテレビを見ながら検索することが多いこと。PCだと、電源がついてない、起動してWebブラウザを立ち上げないといけないが、モバイルは手軽さゆえにおもしろいことが起こっている」(倉岡氏)

 例えば、午後8時ぐらいのいわゆるゴールデンタイムに花粉症に関する番組が放映されていると、同一の検索クエリが集中して“スパイク”となって現れるという。iGoogleやGoogleモバイルのガジェットとして提供している「Google急上昇ワード」は、そうした急激な検索クエリの増加を捉えて検索窓の横に表示するサービスだ。「話題の度合いが一定の値を超えたものしか表示されない。だから朝はあまり出てこなくて、夜は頻繁に出てくる。こうしたキーワードは社会のトレンドを映し出しているのではないか。検索というものを一歩引いて見た場合、“気づき”の要素もある」(倉岡氏)

google03.jpg PCとモバイルで検索トラフィックを比較したグラフ。グラフは1日の検索数の推移を見るためのもので絶対的な検索数の比を示していない。昼休みにPCとモバイルの検索で正反対の傾向が出ているなど傾向の違いが読み取れる

「もっともっと検索してください」

 日本語固有の問題も、日本のグーグルが取り組んでいる課題だ。同社ソフトウェアエンジニアの賀沢秀人氏は、日本語の文字種の多さと、それによる処理の難しさを指摘する。東京名物の「黒ごまたまご」は正式名称では「たまご」とひらがなで表記する。しかし、ユーザーが検索クエリを入力した場合「黒ごま卵」となるケースもある。

google04.jpg グーグル ソフトウェアエンジニア 賀沢秀人氏

 こうしたかな漢字変換による表記の揺れや、誤変換について、ユーザーの意図をくみ取った検索結果を提示するようにしているという。「たまごをひらがなで書くのが正解ということではない。ただ、黒ごまたまごの場合には“たまご”と書くのが、おそらく正しいと考えられる。われわれがそう考えるのではなく、Web上で集めたデータから判断して、柔軟にマッチさせている」(賀沢氏)。賀沢氏によれば、IMEの切り替え忘れや、スペースの押し忘れなど操作ミスによる誤変換の検索クエリも多く、そのため「paresutina」の検索に対して「パレスチナ」を提示するようなことも行う。「IMEの誤変換も見ている。誤変換でないなら、それはユーザーの意図した文字列と判断できる」(賀沢氏)。実際にデータを見てIMEの癖や誤変換を分析しているという。検索精度を上げるのに有効なのはデータだという。「インプットデータは多ければ多いほど精度を上げられる。もっともっと検索してほしい。今はまだデータの力を使いきれてないと思っている」(賀沢氏)

 検索の根本部分でも、賀沢氏はまだまだやるべきことがあるという。

 「プレゼン資料を作成していて、“マック版のパワーポイントでインデントの幅を変える方法”と検索したが、何も出てこない。がっかりです」(賀沢氏)。ところが、いろいろと検索キーワードを変えて検索したところ、マイクロソフトの公式ページに、そのものずばりの解説が見つかったという。「いちいちキーワードを選ぶなど、やりたくない。何も考えずに探したいものを入力して、“あ、これだ”という結果を返したい。われわれにはまだやれることはたくさんある」(賀沢氏)。

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(@IT 西村賢)

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