“ユーザーエクスペリエンス”から“プラットフォーム”へ
.NETやPHP、エンタープライズに広がるFlashプラットフォーム
2008/12/01
米アドビシステムズは11月21日(米国時間)、Adobe Max 2008 North America(11月17〜19日)(以下、Max)のツアーに参加した日本人開発者/デザイナ向けに、米サンフランシスコのオフィスで特別セッションを行った。本稿では、米アドビシステムズの「Flashプラットフォーム」戦略に関してレポートする。
米アドビシステムズ プラットフォームビジネスユニット担当ゼネラルマネージャ兼バイスプレジデント デイビッド・ワドワーニ(David Wadhwani)氏はまず、次のように話した。
「例年のMaxでは、2、3個しか新製品を発表しないが、今年は多くの新製品を発表した。これは、アドビシステムズがユーザーエクスペリエンス戦略を進める企業から、アプリケーション開発のためのプラットフォーム戦略を進める企業に変わってきたことを意味する」
たしかに、今年はMaxに伴い多くの新製品の発表があった。まずは、Max前の「Flash Player 10」の正式リリース(参考:米アドビ、Silverlight 2の翌日にFlash Player 10をリリース)とクリエイター/デザイナ向け製品群「Adobe Creative Suite 4」(以下、CS4)の発表(参考:アドビ、「Creative Suite 4」日本語版を発表)。ワドワーニ氏によると「Flash Player 10はCS4の発表に合わせてリリースした」という。
そしてMax期間中に、Flash Player 10の機能を搭載した「Adobe AIR 1.5」(以下、AIR)や64ビットLinux版Flash Player 10、アプリケーションのインタラクションデザインツール「Adobe Flash Catalyst」(以下、Catalyst)、Webビデオ会議システムのクラウド・プラットフォーム「Adobe Cocomo」のベータ版、AIRを使ったプッシュ型のノーティフィケーション「Adobe Wave」などを発表した(参考:米アドビ、Flash PlayerのAndroid搭載やFlash Catalyst、Wave、Cocomoを発表)。
さらに、Flex用IDEの最新版「FlexBuilder 4」(コードネーム「Gumbo」)やColdFusion用IDE「Bolt」、C/C++コードのSWF変換プロジェクト「Alchemy」、Flashコンテンツ配信サーバ「Flash Media Server 3.5」などについても発表があった(参考:アドビはデザイナ/プログラマ協業で生産性を上げるエージェント)。
このように、いまのアドビシステムズの製品は、ツールやランタイム、サーバと多岐に渡っている。ワドワーニ氏は「ユーザーの使い勝手や体験から、アジャイル開発やワークフローを重視している。われわれの製品群は、動画やコンテンツ、そしてアプリケーションの制作に適用可能だ。何年も動画やコンテンツに強みを持っていたが、今年はアプリケーションに向かっているのが、新しいポイントだ」と説明した。
米アドビ以外での採用
Max初日の11月17日、AecisやCynergy、MicroStrategy、SAP、Zend、Ensembleなどのパートナー企業がFlashプラットフォームに対応した製品や関連事業を開始することを発表している。
SAPは、SAP NetWeaver上でFlashおよびFlexコンポーネントのユーザーインターフェイス(以下、UI)を採用して、データのビジュアル化を促進しユーザーのビジネスプロセスの加速化を支援すると発表。
Zendは、PHPアプリケーション開発フレームワークの最新版「Zend Framework 1.7」を発表。サーバサイドのアプリケーションとFlexクライアントのデータの相互通信を実現するAMF(Action Message Format)のコンポーネントを追加した。AMFは圧縮率の高いデータ通信用バイナリデータフォーマットで、JavaとFlexの相互データ通信が行えるオープンソースミドルウェア「BlazeDS」などで使われている。
Ensembleは、Visual Studio 2008上でFlexのクライアントを作成できるプラグイン「Tofino」を発表。これについてワドワーニ氏は、「FlexBuilderや、今回発表したCatalyst、BoltなどはみなEclipseベースのツールで、もともとJavaやPHPのコミュニティからは好意的な反応があった。だが、.NETのアプリケーションはやはりVisual Studioで開発するもの。FlexのソースコードをMPL(Mozilla Public License)で公開したことに、Ensembleが応えてくれた」と述べた。
エンタープライズ市場では
では、Flashプラットフォームはエンタープライズ市場ではどのように使われているのだろうか。ワドワーニ氏は、次のように答えた。「用途としては、BIシステムのUIとして使われる割合が高い。業種として金融系で使われることが多い。ほかにも、Web 2.0系企業の起業に役立っている。地域としては、欧米やインドが大半だが、日本を含めたアジアも重要視している」
また、エンタープライズ市場でFlashプラットフォームが使われている要因としては「パフォーマンスの高さや業務が効率化する点が受け入れられているのだろう。RIA活用によるデータの見える化は判断スピードを高めるし、BtoBのトランザクション処理において細かい間違いや行き違いがなくなるからだ」(ワドワーニ氏)と強調していた。
キーワードは“プラットフォーム”
米アドビシステムズが“ユーザーエクスペリエンス”から“プラットフォーム”にシフトした要因の1つとして、ワドワーニ氏は「アドビシステムズ以外にも業界全体が変わってきているから」と答えていた。たしかに、最近のIT業界の流行は“プラットフォーム”だ。
例えば、Max初日の基調講演でも登壇していたセールスフォース・ドットコムの「Force.com」やグーグルの「Google AppEngine」、アマゾンの「Amazon EC2」、そしてマイクロソフトの「Windows Azure」などはクラウド上のプラットフォームでWebアプリケーションを開発することを奨励している。Facebookやグーグルの「OpenSocial」はSNS上のプラットフォームでソーシャル・アプリケーション開発を奨励し、グーグルの「Android」やアップルの「iPhone」といったスマートフォンのプラットフォーム上でも、モバイル・アプリケーション開発が奨励されている。
これらのクラウド、ソーシャル、モバイルというプラットフォームの3つの舞台は、Max初日の基調講演における「Client+Cloud」「Social Computing」「Devices+Desktop」という3つのテーマに結び付く。米アドビシステムズがFlashを土台としてプラットフォーム戦略を進めていくうえで欠くことのできないテーマだったのだろう。
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