[Analysis]
寅さんとオブジェクト指向
2003/05/27
「ソフトウェア開発」と「建築」には著しい類似性がある。プログラマやSEあるいは建築家など、現場で実際のプロジェクトに携わっている人々にとっては周知の事実だが、いわゆる“業界外”にいる人々には具体的なイメージがわかないようだ。情報処理学会 ワーキンググループの設立セミナーで講演した建築家の中埜博氏が、ソフトウェア開発と建築との密接な関係について面白い例え話を披露した。
中埜氏は「男はつらいよ」の寅さんがふらりと現れる浅草柴又にある「くるまや」の構造を分析する。「あのくるまやというのは、映画の登場人物がうまく立ち回るという設定をめん密に計算に入れた構造になっており、さらに店としても人が入りやすくそこそこ繁盛するような基準を満たしている稀有(けう)な例」だと中埜氏はいう。
すなわち、玄関は通りに面して開放的な構造を採用しており、あらゆる人に開かれている。作品ごとに登場するマドンナが寝泊りする部屋は、建物全体の中で奥まった場所にあり、プライバシー保護の観点から最適な配置がされている。とらやの裏にある小さな印刷会社「朝日印刷」の社長、通称タコ社長が大きな声で駆け込んでくる裏口こそ、まさにタコ社長が登場するうえで欠かせない場所に設定されている。
部屋の配置や廊下の設定、建物全体の構造は、すべて映画の設定を生かし、かつ本物の店舗としての機能を果たすうえで、最適なパターンの集積で組み上がっている、と中埜氏は指摘するのだが、これはまさにソフトウェア開発のプロセスにも適用できる考え方である。
ある目的に沿ったソフトウェアを開発する際に基本となるパターンをあらかじめ蓄積させておき、それを組み合わせながら、TPOに合わせてエンジニア独自のアイデアを取り入れ、多種多様なソフトウェアを組み上げていくことが可能だと考えると、端的にいえば、オブジェクト指向開発のプロセスと置き換えることもできるのだ。
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