[Analysis]
組み込みシステム開発の未来
2005/03/08
東京大学教授 坂村健氏が率いるT-Engineフォーラムが行った最も新しい「食品トレーサビリティシステム」の実証実験は、京急ストア能見台店地下1階の食品売り場で行われた。牛乳、豆腐、米、ジュース、青果が実験実施品目だ。顧客は店内に設置されたディスプレイでその食品の生産履歴や流通情報を閲覧することができた(食品には「ucode:ユビキタスコードタグ」が貼付されている)。このucodeタグは携帯電話でも読み取ることができ、店内ディスプレイで閲覧できる情報と同じ情報を得ることも可能だった。
坂村氏は2004年7月に行われた「組込みシステム開発技術展(ESEC)」において、T-Engineの用途についてこのように話している。「人と物と場所をコンピュータで認識させること。その応用は多岐に渡る。SCMなどの狭い範囲に限定するつもりはまったくない」。 街中の電子機器はいうに及ばず、RFIDは街中至る所に埋め込むことができる。これらのチップが発信する情報を受信する端末として、最有力の候補は携帯電話である。坂村氏のいうとおり、RFIDを応用したサービスの可能性はSCMという枠に留まるようなものではない。そして、このことは、ソフトウェア開発を生業とする人々にしてみれば、新たな市場の拡大を意味する。
2004年ごろから組み込みシステムの開発に関する報道発表が増え始めている。エンジニアの意識の中にも組み込みシステム開発に対する興味・関心が高まりつつあるようだ。NECは2005年4月に、組み込み開発に関するこれまでのノウハウを結集した「組込みソリューション事業推進センター」(仮称)を立ち上げる予定である。同推進センターは2007年に1000億円超の売り上げを目指す。NECの試算によると、組み込みソフトウェアの国内市場規模は2003年で約1兆円。2007年には2倍の2兆円規模に拡大するという。 「組み込みエンジニアはいまでも足りない。需要は今後さらに高まる」と坂村氏はESECで話している。エンタープライズ系システムの開発で経験を積んだエンジニアが組み込みシステムの開発に流れる可能性は高い。しかし、スキルチェンジがスムーズにいくとは限らない。そもそも、企業システムの開発者にとって、組み込み開発にどのようなスキルが必要なのかを判断する情報は意外と少ないのが現状だ。情報処理推進機構(IPA)ではこのような状況を危惧し(きぐ)、ITスキル標準(ITSS)をベースにした“組み込みソフト版のITSS”を策定する予定である。
組み込みシステム開発を巡る動きは今後さらに加速していくと考えられる。“コンピュータ屋”から“家電屋”に鞍替えするエンジニアも今後は徐々に増えていくかもしれない。
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