[Analysis]

iTMS-J開始後1週間で情報はどのように伝播したか

2005/08/17

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 日本版iTunes Music Store(iTMS-J)が8月4日に発表されてから約1週間、メディアはこぞってこのニュースを取り上げ、多角的な分析を加えて読者に提供してきた。「iTMS」というキーワードを入力し、Google Newsで日本語のWebサイトを検索すると、ヒットしたのは124件。「iTunes Music Store」では173件だった(8月15日16時時点)。米アップルコンピュータのCEO スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏が東京国際フォーラムで行ったプレゼンテーションは、日本国内におけるiTMS-Jに関する情報量を爆発的に増大させた。

 iTMS-Jの日本でのサービス開始については噂が先行したままで、詳細な情報については結局、8月4日の発表を待つしかなかった。Google Newsでヒットした記事をいくつか読むと、一刻も早く情報を流したい気持ちでいっぱいの記者やライター(あるいはブロガー)の姿が浮かび上がってくる。8月4日に公開された記事の多くは、アップルが発表したいくつかの事実(100万曲で開始、1曲150円など)を1秒でも早く公の場に出そうという気迫に満ちていたものだった。ただし、7月の段階でエイベックス ネットワークがiTMS-Jに楽曲を提供することを明らかにし、いくつかの報道機関が単発記事および憶測を交えたコラムを公開していた。

 その後、事実の分析が始まった。インターネットにおける音楽配信市場の現状と将来展望がその主流である。共通するのは、2005年が日本のインターネット音楽配信元年であるという指摘で、今後同市場は確実に拡大するだろうというもの。競合サービスとの動向比較やソニー・ミュージックエンタテインメントをはじめとした数社のレコード会社による楽曲拒否の姿勢についての報道、およびこの動静に付随したミュージシャンの動向といった、業界の内幕的な報道など公にされる情報の種類が多様化し始めた。

 しかし、実は、報道機関によるiTMS-J報道のピークは、アップルが「開始4日間で100万曲の販売達成」というニュースを流した8月8日〜9日までで、それ以降、iTMS-J関連情報の詳細は、むしろ個人が独自に情報を発信するブログに集中するようになった。個人とはいえ、質の高い記事は、報道機関に属する編集者や記者が半ば個人的な立場で情報を発信するケースや、ライターが自分で集めた情報を記事として加工し、ネットに載せるケースが比較的多かった(もちろん、報道機関とは完全に距離を置いて情報を発信する個人も少なくない)。

 これらの情報の特徴は、個人的な思い入れが存分に詰まっているという点で「企業を背負って書かれた記事」と違いがみられた。事実を歪曲しているわけではない。そういう意味では公正な立場を貫いている記事が多いことは確かだが、個人としての音楽経験や見解を直接記事に反映し、あくまで個人的な立場から、同サービスに対する提言や注文で文末を締めくくっていることが散見された。

 現憲法下で20回目となる衆院解散によって、にわかに衆院解散に関する過去の情報が掘り返され、消費されていくように、iTMS-Jの日本でのサービス開始というニュースが、例えば、日本の音楽市場の構造的な特異性を明らかにする契機となったりする。情報のジャンルがニッチになればなるほど、個人の思い入れが執筆の原動力となるブログの、情報発信基地としての威力が増す。

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