[Analysis]
琢磨やライコネンを支えるスパコンたち
2005/10/25
「現在F1における空力解析の約40%がCFD(コンピュータによる計算流体力学)で行われており、残りの60%ほどが風洞実験で行われている」と語るのは、F1ジャーナリストのピーター・ウィンザー(Peter Windsor)氏だ。同氏は「ダウンフォースが1%向上するだけで、鈴鹿のタイムを1周当たり0.1秒縮めることができる」と説明し、ダウンフォースの重要性を説いた。もちろん、F1の結果はダウンフォース以外の、エンジンやタイヤ、ドライバーの力量などにも依存するが、シャーシ開発ではコンピュータの性能が大きな要因となっているといっても過言ではないだろう。
CFDとは、コンピュータで空気の流れなどを計算・シミュレーションし、シャーシを設計することで、走行中の空気抵抗の低減やブレーキやエンジンの冷却効果の向上、ダウンフォースの増加などを目指すものだ。主に風洞で実際に空気を流して計測・分析する方法と、CFDで仮想的に行う方法がある。基本的には風洞で実験・計測し、ブレーキやウイングの特殊な場所など、物理的に計測が難しい場所の分析をCFDが担う場合が多いという。F1では、テスト中に設置した200個のセンサー情報を解析して設定に反映させる場面などでもサーバを利用するが、やはり1番多くCPUパワーを要するのはCFDだという。
実際CFDの役割は年々増加しており、BMW Williams F1 TeamではCFDのモデルが4年間で35倍に拡大したという。一方でより高速な演算が求められるため、現在ではヒューレット・パッカードのスーパーコンピュータ「HP Cluster Platform 4000」を利用し、1.3テラバイトのデータシミュレーションを実施するまでになった。処理能力は4年間で約200倍になったという。また、高い解析力はソフトウェアにも求められている。Renault F1 Teamはシェアトップの熱流体解析プログラム「STAR-CD」を利用しているが、「解析規模が短期間に1億メッシュから2億メッシュに拡大しており、複数のCPUを利用した並列計算による高いスケーラビリティへの対応をソフトウェアにも求めている」(シーディー・アダプコ・ジャパン 中嶋達也氏)という。
一方で、このようなダウンフォースの向上はコーナースピードの上昇などを伴い、競技の危険性を上げる一因ともなり得る。そして安全性確保のために、国際自動車連盟(FIA)は2005年のレギュレーション変更で、約30%のダウンフォースを削減した。しかし、各チームが即座に新レギュレーションに対応した新マシンを開発。実際に2005年シーズン開始時には多くのチームがレギュレーション変更前と同程度のダウンフォースを回復していたという。
この問題を憂慮したFIAはAMDとパートナーシップ契約を締結し、CFDの研究を開始。CFDの使用制限やダウンフォースの総量制限などを視野に検討を開始しているという。チームはスピードと安全という相反するともいえる要件のバランスを取りつつ、速さを追求していくことが求められる。今後はFIAと参加チーム、ITベンダの三つ巴での開発競争が過激さを増していきそうだ。
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