[Analysis]

ITはただ管理のためでなく

2006/02/28

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 先日、IPv6普及・高度化推進協議会が主催した「IPv6アプリコンテスト」の審査員の1人として、IPv6の活用方法に関するアイデアやアプリケーションを審査させていただいた。このコンテストには大人だけでなく、学生からもたくさんの作品が寄せられ、その創造的な発想には感心させられた。

 応募作品の中で、最も印象に残っているアイデアの1つは「ネットワーク・イルミネーション」。これは、ビルや街路樹などの照明を、遠隔的にコンピュータ・プログラムで一括制御して、アートとして見せようというものだ。 小規模な仕組みなら、IPを使うメリットはあまり大きくない。ラスベガスのホテルの前の池などで見られる噴水と照明を使ったアトラクションは、明らかにプログラム制御されているが、IPではなく専用の通信方式を使っているのはほぼ確実だろう。

 IP、そして特に膨大なアドレス空間を持つIPv6の良さが光ってくるのは、複数の建物や施設にまたがった大規模なイルミネーションアートを実現したいときに、シンプルで拡張性の高いメカニズムを提供できる点だ。IPという普遍的なプロトコルを照明制御に利用することで、制御対象機器の種類や数に限定を受けず、統一的な制御システムを作ることができる。

 郊外型アウトレットモールのようなところで、建物、街路灯、さらに道路に埋め込んだ照明を使ってアトラクションをやるというのはどうだろう。さらに複数のビルオーナーが協力して、例えば東京のお台場全体で1つのイルミネーションアートを実現できたら、とても楽しそうだ。

 メリットが明快なアイデアとして優秀賞を獲得したのは「オンライン広告システム」。バスや電車の車体広告や中吊り広告をすべて電子ペーパー化し、それぞれをIPv6接続して遠隔的な書き換えを可能にするというものだ。広告表示を一括制御できるだけでなく、時間帯やターゲットに合わせた個別制御もできるところに、大きなポテンシャルを感じる。

 実現性はひとまず置いておくとして、こうしたアイデアにあらためて拍手を送りたくなったのは、このところあまりにも「ITで管理する」たぐいの話題ばかりが目に付くからだ。

 ITが人間の行動の管理を容易にしてくれるのは確かだ。しかしより本来的には、人間の脳や身体の能力を拡張し、創造を助けてくれる道具としてさらに活用されるべきだ。企業活動でいえば隠れた顧客ニーズを引き出したり、社内で埋もれていた知識や経験を生かす機会を増やすものとして使われなければならない。

 広義の2007年問題への対処も、この延長線上で考えることが可能だ。人事管理との関連で語られることの多いトピックだが、根本的なテーマはスキルの継承だ。放っておけば埋もれていってしまう技や知識を若い世代に伝え、新たな価値の創造を支援するために、ITを活用できる余地は大いにある。

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