[Analysis]

Web2.0と情報の共有

2006/03/07

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 3月2日、来日した米オラクルのCEO ラリー・エリソン(Lawrence J. Ellison)氏は自社を米グーグルと比較しながら「世界はオラクルとグーグルの2つに分かれるかもしれない」と発言した。オラクルだけではない。マイクロソフト、IBMをはじめとした情報産業界の巨人たちはいまやグーグルを無視して仕事を進めることはできない。

 グーグルに象徴される情報技術の新たな枠組みこそが、俗に「Web2.0」と呼ばれるムーヴメントのことである。この言葉はティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏が2005年9月に発表したエッセイで世界中に広まった。「What is Web2.0」というそのエッセイの中でオライリー氏は、ワールドワイドウェブを取り巻く状況を冷静に分析し、それまで曖昧模糊(あいまいもこ)としていたさまざまな状況をきれいに整理してしまった。めちゃくちゃに散らかった部屋をきれいに掃除し、細々としたものに名札をつけて、分類整理したといったところか。つまり、「Web2.0」という言葉は、きれいになった部屋の名前のことである。そのあまりの散らかりように、それまでは誰も掃除をしようとすらしなかったのだ。最初に掃除をしようと思い立ったオライリー氏の功績は大きい。

 整理され、名前が付けられたことで、それまではよくわからなかったいろいろな現象が明確になった。すると、世界中の人々が「What is Web2.0」を参照しながら、こぞって「Web2.0」という言葉を盛り込んだ文章を書き始め、世界中に発信し始めたのだ。その結果、コメント数は膨大(ぼうだい)なものとなった。ためしにグーグルで「Web2.0」と検索すると、およそ446万件の記事がヒットした。発信された記事は誰かに参照され、新たな記事を生み出す燃料となって次から次へと増殖していく。

 情報というのは、共有されなければ価値はない。逆にいえば、共有されなければ情報としての存在価値はないといっていい。他人に参照されれば参照されるほど、その情報の価値は増していく。そして、ある情報の価値が特定のしきい値を超えれば、その(みえない)価値は今度は金銭的な(みえる)価値へと変換されていく。地球のある地域の経済はそういう仕組みで動いている。ついでながら、「Web2.0」という言葉の伝播(でんぱ)状況を眺めていると、これこそがまさに「Web2.0」そのもののダイナミズムであることもわかる。

 「Web2.0」の本質は「情報の共有」である。世界史をひもとけば、人類の歴史とは情報の秘匿(ひとく)と公開の歴史といってもいい。現在ほど世界中の情報が参照可能になった時代はない。インターネットが発明され、その技術を土台として情報が(仮想的にではあれ)1カ所に集約されているというこの状況において、たまたま「Web2.0」というキーワードで、わたしたちは人類の歴史の新しい1ページを参照している。エリソン氏や世界中の「Web2.0」ブロガーたちも意識的であれ、無意識的にではあれ、あるいは、ビジネスの観点であれ、技術フリーク的な観点であれ、巨大な歴史のうねりに貢献していることに変わりはない。

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