[Analysis]
Web2.0と新聞社の未来
2006/05/30
パッケージメディアとしての新聞のリーチ率(人口に占める利用率)はこの10年で激減している――。NHK放送文化研究所の「国民生活時間調査」を見ると、特に30代〜40代の男性による新聞離れが顕著だ。新聞離れの影響としてよく指摘されるのはWebによる無料のニュース提供という現象だが、ネットレイティングスの視聴率データをみると、実は全国紙のWebサイトのユニークユーザー数(訪問者数)は10年前とほとんど変わっていないことがわかる。では、いったい何が新聞およびニュースサイトの利用者数に大きな影響を及ぼしているのだろうか。ネットレイティングス 代表取締役社長 萩原雅之氏は、ニュースの流通形態がこの10年で劇的に変化したとする。つまり、「パッケージされた記事群の流通」から「記事単位での流通」がこの変化の本質だというのだ。
この分析を裏付ける1つのデータとして、萩原氏は「Yahoo! トピックス」における訪問者数の増加傾向を挙げる。Yahoo!のこのサービスは、さまざまなコンテンツプロバイダから提供されたニュースをリストアップしてユーザーに再提供するもの。ユーザーはYahoo!が選別したニュースを選んで閲覧することになる。
ここから萩原氏は、(ニュースは)新聞ブランド(新聞社独自の編集力)ではなく、記事そのもの(素材)への関心で流通するようになると分析する。そして、パーツ化した記事は“「外部」の編集力”で新しい価値を生み出していくようになると話す。ここでいう「外部」とは、Yahoo!のようなポータルサイトのほか、mixiやGREEのようなソーシャル・ネットワーキング・サイト、RSSリーダーやブログなどのツールを活用して自分で素材を編集する読者本人も含まれる。
Webの技術進化とは、流通する情報の粒度を細かくする営みだと見ることもできる。検索技術が洗練され、個別の情報にメタデータが埋め込まれるようになると、これまで職人技で個別情報を編集し付加価値を生み出してきた専門者集団とは別の付加価値付与の方法が専門技術を持たない個人にも開放され、市場価値を持つようになる。IT業界のトレンドウォッチャーたちは、Web2.0というキーワードによって、このような情報生成の仕組みの変化と、流通形態の変化、およびビジネス手法の変化を説明している。そして、それは確かに正しい状況の読みであろう。
こういう状況の下では、萩原氏がいうように新聞社(コンテンツプロバイダ)が取り得る今後の戦略は、必然的に限られたものにならざるを得ないかもしれない。すなわち、素材露出シェアの拡大に本腰を入れるか、新たなパッケージング手法を開発するかという二者択一の選択だが、果たして、10年後の新聞社はどうなっているのだろうか。
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