[Analysis]

開発プロジェクト失敗考

2006/09/20

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 9月始め、来日したXPの創始者ケント・ベック(Kent Beck)氏が、記者とランチ・ミーティングを行った。翌日行う「AGILEフォーラム2006」の基調講演内容を簡単に紹介した後、いくつかの質疑応答が行われた。

 質問の多くは、XPの現場への適用方法に関する具体的なアドバイスを求めるものだった。あるいは、大規模開発でXPは使えるのか云々(うんぬん)といったもの。これらの質問からわたしにはXPが、医療現場における即効性のある新薬のような存在として浮かび上がってきた。具体的で目に見える形の解決をいますぐ出すにはどうすればいいのか。XPを考えた当人なら、わかるだろうという思いが質問をした記者たちにはあったはずだ。

 これらの質問に対し、ベック氏は非常に丁寧に対応したが、必ずしもこれらの質問に直截的な解答を与えてはいなかったように思う。ベック氏と記者たちの間にはどこかで食い違うものがあった。

 ベック氏は常にソフトウェア開発という作業の本質を見つめ直せというメッセージを発している。優秀なプログラマが多数参加しているにもかかわらず、開発プロジェクトの多くが失敗してしまうのはなぜなのか。そこには一筋縄ではいかない問題がある。即効性のある対処療法でなんとかなるものではないようだ。

 ものごとの本質を深く問い直すという行為が効果を発揮するには非常に長い時間がかかる。このような悠長な作業は、現場でいろいろな問題に直面する人々にとっては容認しがたい。現場のプログラマやプロジェクトマネージャ、経営者向けに情報を提供しているマスメディアの人々にとっても同様である。

 問題の射程が短い。すぐに解答が与えられる問題にばかり目を向ける傾向がある。ケント・ベック氏と記者たちとの間に漂っていた違和感はそういうところにあるのではないか。そして、問題に対する短絡(たんらく)傾向は、失敗する開発プロジェクトが多く存在する原因の1つでもあるのではないか。

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