[Analysis]

ミドルウェアの充実で新局面を迎えるOSS

2006/12/04

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 オープンソースソフトウェア(OSS)普及が新たな局面を迎えている。1990年代半ばにマニアのおもちゃとして登場した感の強いOSSだが、その後は中小規模のWebサーバやLAN内のファイルサーバとして普及。さらに最近では非ミッションクリティカル系の大規模システムの構築にも大幅にOSSが採用されるなど、適用範囲は広がっている。「一時期のブームは過ぎ去り、使うのが当たり前の時代になった」と話すのはNTTデータ オープンソース開発センタの石川勝雅氏。

 同社はピーク時には200万会員にメール配信する会員向けWebシステムで大幅にOSSを採用。システムを発注したクレディセゾンの「新しいことにチャレンジしようという社風」も追い風になったというが、OSS採用に踏み切った理由はミドルウェアの充実にある。

 インテルアーキテクチャ製品の劇的な価格性能比アップが、UNIXサーバを凌駕したことがオープンソース普及の最大の理由であることは間違いない。安価なUNIX代替としてLinuxサーバがもてはやされた。しかし、ハードウェアの初期導入コストはシステム構築における一要因に過ぎないし、OSやサーバソフトが無償であるといっても、その上にシステムを構築するとなると、ミドルウェアやアプリケーションを組み合わせて行く必要があり、こうした部分でOSS系ソフトウェアは選択肢や機能が不足していた。そのため、これまで少し規模の大きなシステム構築となるとOSSは敬遠されてきた。

 たとえば、OSSのデータベースソフトの代表格、PostgreSQLは商用ソフトのOracleほど大規模なシステム構築に向かない。あるいは、GUIを用いて大規模システムを運用監視するようなアプリケーションも不足していた。

 必要なソフトウェアが整っていないから利用されず、利用されないから必要なソフトが充実しないという典型的な鶏と卵のジレンマだが、圧倒的なコストメリットが卵となり、OSSのミドルウェアが急速に充実しはじめている。

社会的なITインフラとなるOSS

 前出の石川氏はクレディセゾンの会員向けWebシステム構築に当たって、特別に制約がある部分を除いてミドルウェアはすべてOSSでまかなったと話す。具体的には、OSとWebサーバにLinuxとApache、JSPを処理するアプリケーションサーバとして「Tomcat」、負荷分散に「Ultra Monkey」といった具合だ。

 NTTデータは多くのシステムで共通となる、こうした基盤部分を自社内に設置した開発センターで整備。性能検証や不足機能の追加などを行った。複数のPostgreSQLサーバを仮想的に1つのDBMSとして統合し、並列分散動作させる「PostgresForest」や、運用管理統合マネージャ「Hinemos」は、そうした一例だ。

 必ずしもすべての分野で実績のあるOSSのソリューションが存在しないことや、ミドルウェアの組み合わせによっては高い技術力に裏付けられたチューニング作業が不可欠であることなどOSS採用にもマイナス面はあるが、誰もが利用する一定部分までがOSSスタックとして充実してきており、そうした事実が、今後ますますOSS採用事例を増やすことは間違いない。

業界内で共通部分をOSS化する動きも活発に

 もうOSSの新潮流として見逃せない動きは、同一業界内における業務関連アプリケーションのOSS化と、共有利用の流れだ。

 大手外食チェーンのニユートーキヨーが食材発注業務アプリケーションをGPL下でOSS化。これを大戸屋やイタリア料理レストラン、カブリチョーザを展開するWDIなど他企業が採用。業界内で共通業務部分のアプリケーションをOSS化することで、メンテナンス費用削減に効果を挙げている。

 米国に目を向けてみれば、ISP向けの課金請求システムや医療情報システムといった分野で同様の動きがあり、今後は特定業種向けOSSが社会的なITインフラとして普及し、導入やコンサルタント、サポートサービスを行うビジネスモデルが今後ますます広がっていくだろう、というのが石川氏の見立てだ。

(@IT 西村賢)

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