[Analysis]
あらためて衝撃――日本のソフト産業を統計分析する
2007/05/21
大手ソフトウェア会社の経営トップの方と話をしていると、「このままでは日本のソフトウェア産業は構造不況に陥るんじゃないか」という危機感を持っている人が多い。背景にはインド、中国、ベトナムなどの海外開発の拡大が顕在化しつつあることが挙げられる。あらためて業界全体のビジネス構造を統計的に見てみると問題の根深さは想像以上なのである。
巨大な内向き市場
ソフトウェアビジネスに関する基本データは、社団法人情報サービス産業協会(JISA)のホームページから参照できる。それによると、2004年の日本のソフトウェア輸出額(PCゲーム除く)は320億円。対して輸入は3646億円。うち、米国からの輸入は3292億円と90%を占める。懸念される中国からの輸入は171億とそれほどでもない。日本語という言葉の壁はカスタムソフトの海外開発の進展に一定のブレーキをかけているのだ。そして、国内IT市場の規模は情報サービスだけで6兆円を上回る規模だ。
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この国内市場規模を見ると、国際競争力はないが盤石な国内市場を持つ安定した産業に見える。何か問題でも? の声もありそうだ。いや、これが問題大ありで、日本の情報サービス産業は基礎体力、付加価値がないのだ。
情報化されてない情報産業!?
「先進のソリューションによる経営効率の改善」。このお題目が最も遅れている産業、それが情報サービス産業だ。事実、「JISA基本統計調査 2006」によると売上高情報化投資率は平均で0.79%、中央値で0.58%しかない。これに対して「国内IT投資動向調査報告書 2004」(ITR)によれば、国内平均の情報化投資率は平均1.9%(同報告書の『2006』では2.8%、『2007』では3.2%)で大きな開きがある。
さらに、情報サービス産業の「売り上げ研究開発投資率」は平均1.02%、中央値0.01%。人材育成の要となる教育投資率は平均で0.38%だ。
情報サービス産業は、人材の育成、そして企業体としての開発効率向上に対してほとんど投資がなされていない。
低資本、低利益、低投資
元来日本の情報サービス産業は、受託開発から派生した企業が多い。特に急速に規模を拡大した会社の中には、大手に対する人材派遣的業態で拡大した会社が少なくない。
硬直化した雇用関係が維持されている日本において、急拡大する新規分野に対する人材供給ビジネスは1つの確立された成功モデルである。設備がいらないため資本もいらず、集めた人員の数だけ売り上げが急伸する。その代わりに利益率は少ないモデルだ。
こうした背景が影響しているのかは不明だが、JISA基本統計調査 2006の中央値の会社は、売り上げ規模56億円、従業員291人、資本金1億円、そして営業利益率3.87%だ。利益率が低いのは日本企業全体に共通する特徴だが、これだけ低く、資本も薄くては、生産性向上に対する投資も確かに限定せざるを得ないのだろう。
内憂外患
現在、日本経済が停滞期にあるとはいえ、2006年の情報サービス産業全体の売り上げ成長率は4.51%と、国内産業の平均を上回っている。こうした良好な環境にも関わらず利益率は低く、生産性向上に対する投資も行われていない。実務上、日本の情報サービス産業の生産性の低さは実感していたが、数値的な背景を検証してみると改めて衝撃である。
オフショア開発も大手を中心にノウハウが確立されつつある。低い利益率は単価の低下に弱い。今後、付加価値、生産性の向上の道を見つけられない企業は単価の低下に対抗できず、整理統合を迫られるのではないだろうか。
自衛のためにも、エンジニア個々人としては、スキルの向上、または、教育投資をしてくれる会社を選ぶといった対策をとっておくべきであろう。
(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)
[著者略歴]
学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1-2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、 2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ
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