[Analysis]

日本のITの国際競争力が2位ってホント?

2007/10/01

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 世の中にはさまざまな調査結果が発表されており、同じ調査内容でも結果が異なることがしばしばだ。筆者は職業柄、調査結果資料に触れる機会が多いが、特に「○○業界でのシェア分布は〜」「日本の△△業界における競争力は〜」といった、複数の対象を比較する調査の場合には、「何をもって他者と比較しているか?」を注意しないで信じてしまい、恥ずかしい思いをしたことが何度もある。

 例えば、BSA(ビジネス ソフトウェア アライアンス)が発表した「IT産業競争力指標」では、日本は調査対象64カ国中、米国(スコア:77.4)に続く2位(同72.7)だった。この調査は、BSAが英エコノミスト誌グループの調査機関「Economist Intelligence Unit(EIU)」に委託して実施したもので、6カテゴリ25項目についてポイント化してランキングしたものだ。

 カテゴリ別に日本の順位を見ると、「総合的なビジネス環境」は24位、「ITインフラ」は17位、「人的資本」は9位、「法的環境」は18位、「開発研究」は1位、「IT産業発展の支援」では18位だった。人的資本と開発研究以外は20位前後だ。では、なぜ総合2位なのだろうか。それは、カテゴリごとのポイント比重にあるようだ。

 例えば、総合的なビジネス環境や法的環境のポイント比重はそれぞれ全体の10%だが、人的資本は20%、研究開発環境は25%のウェイトを占めている。このため、研究開発環境で1位の日本の全体的な順位が高くなっているのだ。研究開発のポイントを見ると、日本が84.3ポイントに対し、2位の韓国は56.6ポイント、3位の台湾は54.8ポイントと日本が圧倒的に強い。

 BSA 副会長兼アジア太平洋地域責任者のジェフリー・ハーディ(Jeffrey J.Hardee)氏によると、「ポイントの比重は、数学的・統計的観点から計算して割り出したものを採用している。今回の調査では通信産業を除外するなど、なるべくIT産業に特化した競争力を算出することが狙いだ」とコメントしている。確かにIT産業の国際競争力において、特許取得数は重要な要素だ。

 しかし、この調査における特許数は「ITだけでなく、すべてのジャンルを含めた特許出願数」がデータソースなのだ。特許取得数でIT産業の競争力を比較するのであれば、「ITにまつわる特許数」だけを比較するべきだろう。この点はハーディ氏も「特許数のデータを世界規模で比較するために、WIPO(世界知的所有権機関)のデータを利用しているが、同機関はITだけの特許出願数をまだ公開していないので採用できなかった。今後検討していきたい」と認めている。

 このように、調査結果も掘り下げてみると興味深い結果が出てくることが多い。なお、今回はたまたまBSAの調査結果を例に出したが、BSAの調査結果が「日本びいき」しているといいたいわけではない。この調査は、米国に本社のあるBSAが英国の調査機関に依頼したものなのでその可能性は低いだろう。逆に、法的環境やIT産業に対する政府支援が世界的に見て弱い点を指摘するなど示唆に富んでいる。筆者は苦い思い出を思い起こし、あらためて自戒しようと思った。

(@IT 大津心)

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