Analysis
今後10年でコンピュータの総シリコン化が完成する
2008/01/21
2007年のフラッシュメモリの価格低下には目を見張るものがあった。8GBのUSBメモリが3000円程度で販売される時代になったのだ。背景として指摘されるのはWindows Vistaの不振による過剰生産なのだが、フラッシュのメモリの構造でデータ保持期間に問題があるといわれていたMLC(注1)のチップが品質向上するなどの技術革新があったことも見逃せない。2008年に入ってからもアップルの「MacBook Air」がオプションで採用するなど、SSD(ソリッド・ステート・ドライブ)搭載製品の発表が続いている。
これまでは信頼性の高いSLCを使ったハイエンド製品が主体だが、春先にも予定されているMLCベースのフラッシュメモリが製品化されれば、今年中には128GB程度のフラッシュメモリを搭載したノートPCが出回り始める可能性がある。つまり2008年末頃には多量の動画をため込むユーザーを除いて十分な容量のフラッシュメモリがそこそこ手の届く価格になるということである。おそらく2008年はフラッシュメモリ搭載PCの普及期元年になるのではないだろうか?
エンタープライズシステムにも影響
当初はノートPCなどモバイル性の高い領域から普及が始まると思われるフラッシュメモリだが、実際にはサーバに与える影響の方が大きそうである。
その理由はフラッシュメモリデバイスのランダムアクセス性能の高さにある。一般的なハードディスクドライブと比較した場合、その速度には100倍の開きがあるといわれている。
いままで大量のデータを扱うアプリケーションは、データ自身をアクセス頻度の高いものと低いものに分けるなどのデータのアクセス階層化処理や、インデックスのコンパクト化などキャッシュを有効化する処理を施さなければ、実用的なアプリケーションにできなかった。また、マルチユーザーを対象にした応答型システムでも、ユーザー、スレッドの増加によるアクセスのランダム性増加で、応答の低下が発生しがちであった。
しかし、フラッシュメモリを使えばそうしたボトルネックが大幅に減少する可能性がある。データ構造も単純化できる。さらに、従来はアクセス性能低下のため実用にならなかったアプリケーションもサービス可能になるはずである。
実際、主要ベンダの中では米EMCがフラッシュメモリを使ったストレージ製品を発表している(参考記事)。初期製品のため、容量やコストよりも信頼性と高速性に比重を置き、SLCを用いている。今後、MLCの採用にまで至れば容量も拡大しコストも下がる。エンタープライズシステムにおけるフラッシュメモリ採用の流れは確実に拡大していくだろう。
OSまるごとUSBメモリに
クライアントサイドに視点を移せば、マニア層によるSSDの購入ブーム以上に重要なのは、大容量USBメモリの普及だ。現状、個人ユーザーでデータのバックアップを定期的に取っている人は多くない。その理由は、従来型のリムーバブルメディアでは時間と手間が大きい割に、事故が起きたときの復旧にはさらに大変な手間がかかるからだ。
面倒で分かりにくいバックアップが直感的に実行でき、復旧も簡単。大容量USBメモリを使ったバックアップ、データ同期にはそうした可能性がある。さらに、USBメモリからのOS起動が可能になれば(注2)自宅作業のために業務用PCを持ち歩く必要すらなくなるかもしれない(注3)。
今後10年で総シリコン化が完成
大容量フラッシュメモリは既存HDDの代替から始まり、HDDのために開発された借り物のインターフェイスを捨て、試行錯誤を繰り返しながら最適な位置に収まっていくものと思われる。今後10年はコンピュータシステムの総シリコン化の完成期だ。しかし、それは期せずしてムーアの法則が終焉する10年となる可能性もある。
さまざまな不揮発メモリは今後10年で実用化の結論が出るだろう。10年後、コンピュータシステムはどのようなアーキテクチャになっているのか? それまでに次の革新は訪れるのか? いささか気の早い話ではあるが楽しみでならない。
注1
フラッシュメモリの記憶単位であるセルに対し、1ビットのみをデータ記憶に使うタイプをSLC(シングルレベルセル)という。これに対してMLC(マルチレベルセル)は、複数ビットを利用する。同一プロセスルールであれば、MLCの容量はSLCの2倍以上になる。ただし、従来MLCはSLCに比べデータを保持できる期間や書き込み・消去の時間、書き込める回数などで劣るとされ、信頼性が要求される領域での利用は進んでいなかった。
注2
外付けUSBドライブによるシステムのバックアップやミラーリング、OSブートは、アーク情報システムのソフトウェア「BOOT革命」シリーズがすでに実現している。
注3
個人的には大容量USBメモリとネットワークブート機能をハイブリッド化した仮想シンクライアントが実現すればおもしろいと思っている。つまり、USBからOSをブートアップするが、必要なデータは同期によってネットワークサーバにも残すようなアーキテクチャである。認証はUSBによる生体認証とサーバからの認証を組み合わせればよい。ネットトラヒックを圧迫せず、修正データはサーバに保持し、起動も瞬時に行える。キーを紛失したらサーバ上のデータから再構成する
(イグナイトジャパン ジェネラルパートナー 酒井裕司)
[著者略歴]
学生時代からプロエンジニアとしてCG/CADのソフトウェア制作に関わり、その後ロータスデベロップメントにて、1-2-3/Windows、1 -2-3/Mac、Approach、Improveの日本語版開発マネージメント、後に本社にてロータスノーツの国際化開発マネージメントを担当後、畑違いのベンチャーキャピタル業界に転職した異色のベンチャーキャピタリスト。2005、2006年度 IPA 未踏ソフトウェア創造事業のプロジェクトマネージャ
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