Analysis

Googleはいつまでクールでいられるか

2008/02/18

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 ある日のこと。auの携帯電話で使っている「Googleモバイル」のトップ画面にGmailの内容が表示されなくなった。「コンテンツを追加」でGmailを選んでも表示されない。Google IDは表示され、メニューはパーソナライズされている。つまり、Googleモバイルとしての認証は行われている。「ログイン情報がGmailと共有されていないのか?」と考え、携帯電話からGmailのトップページにダイレクトアクセスしてみた。するとIDとパスワード入力を促す画面が現れ、設定するとGoogle モバイル側にもGmailが表示されるようになった。

 不思議な挙動だ。IDの二重管理ではないのだが、参照情報の食い違いがあるようだ。Googleモバイルはエラーが起きたコンテンツを単に表示しない仕様と見られる。興味をそそられたのは、こうした不備と見られる現象が、Googleほどの大規模ユーザーが利用するシステムでいまだに残っていたことだ。現象の発生頻度は不明だが、キャッシュなどWebブラウザの挙動を理解していれば回避手段を推定できるものの、まったくの初心者ユーザーが遭遇したら対処に困るだろう。

Googleはクールであることが特徴

 プログラムの問題が放置されているとき、その原因は「頻度が低いか、再現または修正が困難、あるいは修正しなくても上司や営業から文句が出ない」のいずれかである。Gmailはどうか? 実はGoogle モバイル利用者の多くは十分なスキルがあるために自分で対処し、いつのまにか直してしまう。そのためにこのプログラムの問題が重要視されないのではないだろうか。

 私がGmailを使っている理由はIMAPサービスで、PCのメーラーと携帯電話で見る内容を同期させたいからだ。周りを見てもGoogleのサービスを活用している人は少し「濃い人」が多い。反面、うちの母親のようにYahoo!は知っていてもGoogleは知らない人もいる。

 Googleのサービスはクールであることに特徴がある。すでにポータルが飽和状態にあった時点で市場に参入したGoogleにとって、クールであり技術者層にアピールすることに戦略的な意味があった。常にクールなサービスを立ち上げ、Googleの動向を気にすることが技術者の先端性の証とすることが重要だったのだ。

 結果、技術者はこぞってGoogle APIを自分が設計するサイトに組み込んでいった。Googleは、コアとなる検索機能とAPIを通じて、膨大に存在する独立サイトをポータルの代わりにしていったのである。膨大な大衆よりは、自分たちに近い技術オタクを引きつける方がやりやすく費用対効果も高い。結果としてポータル的な色彩のあるiGoogleやGoogle モバイルの利用も、技術的な素養のある人たちに偏っているのではないだろうか。

MS、Yahoo!の相乗効果は未知数

 さて、マイクロソフトによるYahoo!の買収提案以来、業界人が集まると合併の成否や、Googleが合併するとしたらどこがいいのかなどの話題に興じることが多くなった。私見では、サーバソフトウェア部門を抱えるマイクロソフトとYahoo!の合併は、Yahoo!サイドにとっては制約の方が大きいのではないかと思われる。

 まずPCのフロントをほぼ独占しているマイクロソフトだが、ポータル戦略ではGoogle、Yahoo!に勝てず下降気味である。また、サーバサイドにサービスAPIを埋め込む戦略も、マイクロソフトのサーバOS自体の占有率に制約されてしまう。PCの独占は広告分野では思ったほどの寄与はなく、今後伸びが期待されるモバイルなどのデバイスではマイクロソフト占有率は高くはない。

 だからこそYahoo!を買収したいのだろう。オンライン部門をYahoo!と合算すれば、少なくともPC向けWebサイトのリーチでは、Googleに差をつけることができるのだ。しかし、戦略上の利害関係を異にする部門を内部に抱え、どこまで相乗効果を出せるのかは未知数だ。

技術オタクは超初心者向け開発ができるか

 一方のGoogleは、効率的な分野にフォーカスした戦略を進めてきた。企業規模の拡大に伴い、iGoogleなどポータル的な分野にも進出している。

 Googleにとって、ネット広告マーケットの成長率が高い間は、コンタクトマネジメントなど自社に欠けているパーツの取得と、モバイル/自動車など成長している非PC領域で足をすくわれないような戦略を持つことが重要になるのだろう。また、何よりもクールなイメージを保ちつつ、Yahoo!が得意とする大衆ユーザーにも浸透していくことが課題なのではないだろうか。

 ではGoogleの開発者たちは今後、技術オタク的な誇りを捨てて超初心者にも取っつきやすいサービスを設計していくことができるだろうか? 冒頭の不備であれば、自社サービスに関してはエラー時にNOP(No Operation、何もしない)ではなく、そのサービスへのURLを表示しておけば初心者ユーザーも自己解決できたであろう。

 フロントのユーザーインターフェイスはシンプルで、技術的課題はバックエンドサーバに集約されるサーチのようなサービスはそれほど多くはない。初心者ユーザーのクレームを1つずつ潰す生活。Googleのエンジニアにも新たなチャレンジの日々となるかもしれない。

(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)

[著者略歴]

「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて1−2−3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパン ジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長



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